第41話 冒険者活動
「今日も来たのか」
「ああ」
冒険者ギルドに入ると端っこの席に腰かけたジョバンから声をかけられた。
俺の装備をちらっと見て準備できてるなって顔してる。
「じゃあいくか?」
ギルド登録からこっち、何度かジョバンと二人で討伐してる。
募集されている依頼は掲示板に張り出されていて、自分のランクに見合った依頼を受付けさんに申し出て受託する仕組み。
それが依頼の受け方だ、けど。
なぜだ?
俺がくるとなぜかもう仕事は「決まっている」んだ。
ジョバンの野郎が勝手に仕事を決めちまう。
冒険者登録した翌日にはジョバンが勝手に俺とパーティ登録してやがった。
何の確認もなくだ。
そしてジョバンが受けた仕事はうちのパーティが受けた仕事。
だからオレとアイツの二人の仕事。
普通は依頼に対応できるメンバーが揃わないと受付さんが許可してくれないのだけど。
何も聞かれずに許されるのはジョバンがSランクだからだ。ジョバンひとりで何でも解決できちゃうから受付を通ってしまう。
朝が過ぎて俺がこないと勝手にひとりで討伐してくるらしい。
ジョバンが選ぶのは俺の冒険者等級に「合ってない」Aクラス以上の討伐クエストばっかりだ。
森の奥深くに出現する魔物バジリスクの討伐クエスト。
木こりくらいしか入らない深い森の中。
バジリスクはランクAの魔物だ。
「なあ、Dランクの俺がバジリスクって冒険者ギルド的にムリないか?」
「ギルドには俺の助手って言ってあるから気にすんな。それでお前は討伐経験がつめてギルドのランクポイントも入る。俺は楽して金が入る。どうだWin-Winだろ?」
世の中のヤツラはこういうのWin-Winって言うのか本当に?
どうにもコイツにダマされてる気がする。
ランクが上がっていくのは助かってるけど。
「ちゃんと金も寄越せよ」
「まかせとけって半々な」
「今日はメシおごんねえからな」
何度かやってるけどこの半々がクセものだ。何も起こらなくて儲けは半分。でも俺が慣れてないせいか討伐相手が悪いのか。いつもギリギリで結局ジョバンにメシをオゴることになる。そしてこいつはメシを異常に食べる。
半端な魔物くらいだと俺の取り分の半分くらい喰らいやがる。遠慮なし。
「侯爵家の息子のくせにケチくせえなあ。どうせ最後はメシ奢ることになるんだからそれでいいじゃねえか」
コイツは別に俺にたかってるワケじゃない。
冒険者としての常識や必要なこと、魔物の特性や倒し方、魔法の有効な使い方なんかをチョコチョコと教えてくれる。その対価ってことでメシを奢らされる。
Sランク冒険者が自分のノウハウを直接教えてくれてるワケだから、メシ1回なんて貸し借りを無くすためのシャレみたいなもでしかない。けど容赦なく食べる量が尋常じゃない。
最近は高額討伐の魔物が多いからこいつにメシ食わせても懐は痛まないことも多くなった。実際の討伐は俺ばっかりがやっているけど経験だとごまかされる。
冒険者活動で得た金はできるだけ教会に差し入れしたり寄付したり。
最初は全部を寄付してたけどジョバンから注意された。
「おまえいつまで町人の恰好して討伐すんの?俺がはずかしーからやめれ」
「冒険者の装備は冒険活動の成果から買うものだ」
当たり前のように諭されて、冒険者活動に必要なものだけは対価で購入して、それ以外は寄付している。
最近身に付けているのは魔導士のローブ。対魔法耐性と対物理耐性がついているから高級な部類に入る。
あとタガーって呼ばれてる短剣。とどめを刺したり獲物の討伐部位をはぐのに使っている。
半端な道具だと俺には意味なかったりするし使えそうなものは高級なモノばかりでお高いし。
「今日のバジリスクは竜と鶏の合いの子みたいな魔物だ。竜ほどじゃないが体を覆う鱗で魔法も物理も攻撃が通りにくいぞ。ツバサも生えてるからちょっとした滑走くらい飛ぶし風魔法を起こすから動きも早い。攻撃は飛びついてきて鋭い爪で切り刻むか、相手をおさえてクチバシで相手をえぐりまくる。強い相手には毒霧を出して弱らようとする」
「なんだか無茶苦茶強くないかバジリスク?」
「竜の因子がはいってるからな。本来はSランクが複数いるパーティが受ける仕事だし」
ちょっと待てオカシクナイカ?
「おかしくないおかしくない。Sランクの俺とSランクの実力はあるけど力を発揮できないDランクのヒヨコだから。実力的にはSランクふたりだから問題ない」
相変わらずの屁理屈。
認められているような気もするし悪くない気もする。
だけどダマされてるような気はもっとする。
「じゃあアレか?連携すんのか?」
「しないしない面倒くせえだろ。ひとりで好きにやっちゃっていいから。ピンチになったら声かけろよ?」
いつものパターンだ。ほんっと呆れるしかない。
自分で「Sランクが連携して倒す」って言っておきながら舌の根もかわかないうちに「スキにヤレ」だ。
そしてとことん手を抜いてホントに俺がヤバくなったらちょっとだけ手を貸す。
手を貸した分は晩飯をおごらされるんだよ、元々賞金半々のくせに!!
「弱点ってあるのか?」
「弱点はねえが・・・まあ討伐の王道は頭に斬撃だよな、体は殆ど竜だから攻撃通じねえよ。でも体でっかいから頭にはなかなか剣が届かない。じゃあどうするかってのが攻略ポイントだけど、お前に言ってもしょうがねえよな」
「短剣だからか?」
「全部だよ全部。Sランク剣士が名刀を使ってSランクの剣技とパワーで頭を勝ち割るのよ。頭が弱点でも竜の鱗が生えてるから背中より剣が通るだけで普通に固いからな」
随分と無理をおっしゃりますなこのお方。
だけどギルトはコイツならひとりで倒せるって認めたから依頼したのだから。
同じ魔導士だ。魔法だけでもやれるってことだ。
「ムリなら俺のやり方見せてもいいけどな?分け前は全部もらうけど」
「じゃあダメだ俺がやる。お前は横で見てろ」
俺達は木こりたち案内されて、森の奥深くへ入っていく。
高い木々が立ち並び、昼でも暗い森の中。
獣道の先に、ロープが張ってある。
「この先でさあ。獣道にそって5分も歩くともうヤツの縄張りになりやす」
「よし、いいぞこの辺りまでで後はまかせてくれ。夜までに戻らなかったらギルドに一報いれてくれると助かる」
「わかりやした。そんなことがねえように祈ってやす。御武運を」
駄賃を渡して木こり達とはここまで。
案内を帰して人避けのロープをまたいで越える。
シンと静かな森の中。
鳥のさえずりも小動物や虫たちの葉擦れの音も鳴き声もしない。静寂があたりを包み込む。
「完全にテリトリーに入ったぞ?魔力探知を怠るな、もうアチラさんは気付いてるハズだ」
魔力探知は強力な魔物と対する命綱になる。
野生の生命は敏感だからこちらの気配はすぐ察知される。
そして強力な魔獣に先手を打たれてしばえば生き残りをかけた厳しい戦いだ。
危険地帯に入れば3秒とあけずに魔力感知のピンを打って周囲を探る。
レーダーのソナーみたいな感じで。これもジョバンから教わった生き残る術のひとつ。
ピンが返ってきて確認したらすぐに次を放つ。
ジョバンからは意識せずに頭が勝手に反応するまでやってろって最初に教えられた。
魔法探知に反応ある近い。
「くるぞっ!」
木々の間を抜けて、上からバジリスクの爪がせまる。
ズガンッ
的を外れて、バジリスクの爪が地面に食い込んだ。
俺達は左右にわかれて回避、俺は大木の裏に身を潜める。
レーザーショットを頭にぶちこめばイチコロだけど。<力の顕現>を使っての魔法は俺の経験値にならねえんだよな。
今の自分の経験値をあげるには今の実力で戦うしかない。
全盛期の俺ならバジリスクくらい相手にもならなくなってるはずで、レベルが500もあったら経験値なんてほとんど入らない。
一流冒険者がスライムを潰すようなものだ。
『当然です。光線を使えるレベルではバジリスクなぞザコとすら呼べません。そのころのあなたなら「鶏肉に足が生えて自分からやってきた」と食料扱いするハズです』
「・・・おまえ、将来の俺が見えてんのかよ」
『なんとなくです』
「ところで今の俺はどうやればバジリスクを肉にできるんだ?」
『森の保全と標的の肉体保持をどこまで行うか次第です。いまさらですが魔法元素の秘匿をどうするかも』
「元素はもう気にしてもしょうがねえよ。どうせコイツはわかってんだろーし、他人にベラベラ喋るヤツじゃない。光と闇ももうバレてるからいいけど・・・光と闇って、今の俺は何ができるんだ?」
『光魔法は回復、闇魔法はある程度の重力操作までですね。あなたの言う破壊光線はまだです』
「うーん、森を燃やすわけにはいかねえから火系はやめときたいなあ。風と土でストーンショットか、ストーンストリームか?」
『竜の系譜は風を操りますから力勝負になります。負ければ相手の風魔法でこちらの魔法が押し返されて自分に降りかかりますので念のため?また魔法元素的に竜の系譜的は土系の攻撃が効きずらく大したダメージになりません』
「ってことは基本元素だけだと竜とは相性があんましよくないな」
『基本元素だけの魔導士ではアタッカーを含むパーテイを組まないと竜の討伐は困難です。もともと魔法に対する耐性が高い魔物ですから』
「じゃあどうすりゃいいんだよ。上位元素はまだ大したことできねえし」
雷系統なら雷を落とせるけど魔法耐性の強い竜には効かないし。
氷魔法で氷は作れるし撃ち出せるけど効かないだろう。足元を凍らせれば足止めはできるだろうけどトドメを刺せない。
『あなたの魔力量なら氷魔法で対応可能です。バジリスクの急所部位を重点的に凍らせれることで討伐できるでしょう。氷魔法はジョバンも取得している可能性が高いためおそらく知っていて口にしていないと推測されます』
あやうくメシのタネになるところだった。
今日の討伐は随分とスパルタだな。
これまで一緒にやってきた討伐と比べると実践的。
ここまで先生に聞きながら討伐することはない。
俺の実力があがってきてるからかな、とかそんなこと思いながら。
「よっしゃ、いっちょいくか!」
うしろからドシン、ドシン、と重量級の魔獣が近づいてくる音が響く。
相手の結界内だからこっちの位置は筒抜け。
しげみに紛れて移動してもコカトリスの目がズッとこちらを視ている。
ばれちゃあしょうがない。
手のひらに魔力を集める。
属性は"氷"。
狙いは・・・
「頭だ<氷結>!」
バキンッ!!!!!
大きな音がして巨大な氷がバジリスクの頭を球状に覆った。
「!?!?!?!?!?・・・・・!?」
コカトリスは突然のことに慌てふためいて、短い腕で頭の氷をどうにかしようと爪で必死にひっかく。だけどその程度の衝撃で割れる氷じゃない。ガリガリと削れる音がしても所詮は巨大な氷の端が欠けているだけだ。
1分ほどもバタバタともがいた末に、バタン、と倒れて動かなくなった。
バジリスクは鳥型の魔物で腕は飾り程度にしかついてない。
爪は鋭くても軟弱な細い腕で一瞬のうちに息もできない状況だ。倒れるしかない。
強力な魔物なら自分の腕力で氷を打ち砕くだろうし、魔法が使える魔物なら防御されたり対処されたりしそうだけど。
作戦勝ち。
「うっわー鳥殺し・・・」