第40話 学院長室にて
「あんたなら知ってるかと思ってさ」
学院長室。
もう俺の学生生活は好きな時間に興味ある人のところに行って話を聞くことと、聞いた話で興味があったらやってみることだけになった。
前世の学校と大違い。
でも俺やフローラ生徒会長の学年首席を除けば、前世の学校みたいに勉強してるヤツラが大量にいるんだよなココ。
「もちろん知ってるよ。ジョバンとは若いころから魔導の大会でも魔物討伐でも顔を合わせてたから。Sランクになってからは王国軍の依頼でちょくちょく二人で作戦行動してたし、いやさせられてたからね」
わざわざ言い換えるんだから、さてはアイツのこと苦手なんだろ。
「なんだよそれ、アイツのこと嫌いなんか?」
「タイプが違うだけだ。例えるなら私は気の置けない仲間達と落ち着いてワインで語り合いたいのに、アイツはその横で火酒をかっくらって大人数でバカ騒ぎだ。討伐でも同じ。こっちは段取りを計算して討伐したいのに、あのアホは最短距離しか考えない。そのくせ応用力というかイザってときに行き当たりばったりで何とかする力は抜群だ。頭がいいくせに面倒くさがる、そのくせ面倒見はいい」
こんな話したくもないって渋い顔だ。
実力が同じくらいだけどタイプが違って相手を認めたくないとか。
好敵手と書いてナンとか?
「言ってることはなんとなくだけどわかるぞ。まさにそんな感じだった」
「あいつはキミのことをどこまで知ったんだい?あいつの魔力感知と観察眼は圧倒的だからある程度は仕方がない。ワタシの魔眼のことも気づかれていたようだし」
笑顔で気軽に聞いてくる。
この時はまだ気づけなかったけど。
コレは聞きたいことを引き出す大人の罠なんだよな。
「あいつの前でレーザーうっちゃった」
「ほう」
ピキリ。
「あと闇魔法の適性も見抜かれた」
「へえ」
ピキピキリ。
キルリスの額に血管が浮いているのは気のせいじゃない。
だけど気にしたら負けだ。
しょうがねえじゃんか。
「相変わらずユルユルだ。冒険者にでもスカウトされたかい?」
「えと、もうなっちゃったけど。まずいか?」
ちらりと首証をみせる。
「ふーんD等級。初心者が冒険者登録する時点では最上位のランクだ。普通の冒険者はD等級になるまで3年はかかると言われてるけどアイツの紹介かな?」
「一応そんな感じ。追いはぎのヤツラ捕まえたからその分も査定に入ってるらしい」
怒んなよ。
なりゆきなんだから。
「もうキミが入学前に考えていた理想とかけ離れ過ぎて呆れるしかない。時間が欲しくて目立たないようにじっくり過ごすなんてことは無効でいいのか?誰にキミのことを秘密にすればいいのか、誰が知ってるかもわからなくなってきたところだ」
そう言われてもなあ。
キルリスのせいばっかりじゃないのはもうわかってるつもりだけど。
何だか勝手にこんな感じになってくんだからしょうがないじゃない。
目立ちたくないのは変ってない。
大分力がついてきたつもりだけどまだまだな俺だから。
素の俺の力では強い魔物や大魔導士クラス相手だと苦戦しちまう。
「今のところキミは縁のヒキが強いから大丈夫だと思いたいけどね」
「なんだよそれ?」
「ジョバンは王国中の冒険者が憧れる魔導士だ。アイツのまわりに集まるのは超上位のパーティか、昔からのなじみの古参冒険者ばかり。荒っぽいヤツラが多いけど腕も信条も筋が通って信頼できるヤツラばかりだよ」
「ずいぶんアイツのことを買ってるんだな」
「買ってるよ。買ってるけどキライなのさ」
思い出すだけでムカついてくる、とブツブツ続けるキルリス。
実力が近いから余計そう思うんかな。
「俺はダサイらしいんだよアイツから言わせると」
「魔法の使い方の話だろ?私も同じことを散々言われたからそのシーンが目に浮かぶな」
キルリスは顔をゆがめて悔しがってる。
そんなに気にすることはないと思うけど。キルリスとジョバンじゃあ立ち位置が違う。
何時何が起こるかわからない冒険者と、集団戦闘で作戦に従って動く魔導士団の師団長。魔法の運用が違うだろのは俺でもわかる。
とっさの行動やその場のヒラメキが大事な冒険者と、王国軍の兵士と連携させる集団戦術の魔導師団が同じなワケがない。
「だけど言ってることもわかるんだよな」
「ワタシからすると器用にばっかりなってしょうがないと思っているけどね。もちろん魔法の組み合わせや応用が器用であればあるほど戦術に幅は広がるし、それは冒険者という枠の中なら間違いない。それ以外では何とも言えないとは思うけどね」
「なんだよくやしいのかよ?」
ちょっとカラかってみたら平気な顔された。
「ただの意見の相違だよ」
なら俺はやってみないとわからないってことだな。
自分がこの先どうするかはまだ決めてないのだから。
冒険者に登録したのはジョバンを見て興味をひかれたから、ってだけだし。
あと目先の金を手にいれられる。
「そんなわけで魔法の鍛錬も含めてしばらくは冒険者の方にも顔だそうと思ってるから」
はあ、とため息がでそうな顔すんなって。
どうせそうすると思ってたけどって顔にかいてある。
「何か困ったら絶対に声かけてくれ。冒険者ギルドにも顔は聞く」
言いながら、キルリスは首にかけた冒険者票を俺に見せてくれた。
「Sランク?」
「これでも魔導師団長だからな。この国で魔導士のSランクは私とアイツだけさ」
何でもないことのように、さも当たり前だと言わんばかりに。
なぜ俺の方がコイツよりランクが下なんだよ。
「なんだか納得いかないぞ。俺の方が強いのに」
「ランクなんて生き残っていれば勝手にあがるものさ」
キルリスは笑いながら。
だから死ぬな、だよな。
俺にそう言ってくれるヤツがいるだけ前世よりマシだ。
「肝に命じておく」
「そうしてくれ。これで死なれたらまわりに顔が立たないからね」