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第4話 謝罪と始まり

翌日。


図書館に行く。


昨日の今日で何かを思い立ったのではなくて。

ここ最近は図書館通いが日課になっていたので今日も同じにするだけだ。

キャサリン嬢のお宅を訪問したゴタゴタは棚に上げて日常に戻すと決めた。


昨日の夜は警備隊に取り囲まれることもなく過ぎた。

もしかしたら今日が捕縛される日かもしれないけれど悩んでもしょうがない。

今日やることをやるだけ。


前世では明日生きてるかわからなかったから。やりたいことをやらないと。もしかしたらなんて気にしてられない。

捕まってしょっぴかれて牢獄に入れられても、屋根があって飯くらいは食わしてくれるだろうし。

生きていけるのだからいいでしょう。


国立の図書館は朝早くから門を開いていて、門前から大きな建物までの間は庭園が広がる。

木々の間で朝露に濡れたきれいなお花たちが迎えてくれた。

朝日に照らされ光に透ける花たちがささくれ立っていた心を癒してくれることよ。

昨日の荒れ事なんて帳消しにしてくれるように。


こんな気持ちのいい日には新しい出会いがあるといいな。

いろんな知識、あたらしい疑問、深い謎とか。俺の根っこは研究者なのかもしれないなぁ。

そんな風にテンションが上がり始めていたのに。


建物の入り口でどんよりしたオーラが渦巻いているのに気づいてしまう。


頭のなかでは警報が響く。

思い出したくもない魔力が二つ感じられる。昨日会ったばかりの魔力。


「・・・おい」


どうやらあいつらに俺の行動を読まれたようだ。

昨日の続きをやるつもりか?頭の中でナビゲーターに確認する。


『いますね。どうしますか?「力の顕現」も昨日と同程度に使えますよ』


昨日と同じに使えることにまずは安心。

だけどまわりくどい言い方するな。

面倒くさいなぁもう。


『昨日より0.4秒程度伸びましたが所詮は気持ち程度です。短いよりはマシでしょう』


行くしかない。

待ち伏せされた先に何が待つかは行かなきゃわからない。


戦闘の続きになるのか。

俺を逮捕しようと突然役人が出てくるのか。

どっちでもいいけど。やりたいようにやらせてもらうだけだから。


そんなことを考えながらグネグネと続く庭園を抜けると、図書館の入り口に二人の大人が立っていた。

まるで先生に怒られて廊下に立たされているガキみたいにしょんぼりしてる。

周囲に人の気配はなく親子二人だけ。


二人の傷はきれいに治っていて、つまり俺が殴った証拠はきれいさっぱり消えた?昨日のことは無かったことになった?そんな都合よすぎる結果があるのだろうか。


『10歳の少年に魔法師団の師団長と研究所長がボコボコにされたと公表しないでしょう。もともとあなたはあの場に招待されていた側です』

感情なんて気にしないナビゲーターが言うのだからそういうものかもしれない。


それなら放っておいてくれればいいのに。


「あっ」

キャサリン嬢がこちらに気付いて声をあげた。

横のおっさんにヒジうちすると彼も俺に気付く。

二人とも表情が硬い。


一瞬の静寂。

風がそよりと木々の葉をゆらした。


やる気か?

スイッチが入り戦闘態勢をとる。

やるなら先制だ。

こっちは時間が制限されるしずるい大人たちは必ず何かを企むのだから。


二人に向かい腕をあげて、2本の指先で二人の額に照準をあわせた。

ご丁寧に並んでいるから片手で十分。照射魔法は威力が分割しても光のレーザーが額くらい撃ち抜ける。

どのみちキルリスの反射の魔法を使われるなら、同時撃ちの奇襲でどちらかを殺せればOKだ。

タイマンに持ち込めば最悪でも逃げ切れる算段がつく。


キルリスは自分を守るかキャサリンを守るのか。

光の速さだ、二人同時はできない相談だよ?



セバスが昨日言ってたことがよぎる。


この二人が悪い奴らじゃない可能性が顔をだしてこっちを見てる。

そのおかげで速攻でケリをつけたい俺と、話をきくべきだという俺が今ここでせめぎ合い始めたのだからもう。しょうがないな。


「昨日の続きをやりに来たのですか?」


折衷案で一声かけることにした。

何か企んでるようならばズドンといくし、最悪逃げ出すくらいの自信はある。

昨日と比べれば何とでもできる。


「・・・」


ふたりは目を合わしてから。


ガバリッ!と(ひざまず)いた。


「昨日は「すまなかった!」「ごめんなさい!」」


え?


ちょ。


謝罪の声があたりに響き渡り、すれ違う通行人も入口の衛兵もポカンとこちらを見た。俺だってポカン。


ええ?


10歳児に土下座する大人二人。


しかも王国一の魔法使いと魔法師団の娘。

誰でも知っている有名人親子。

場所は王国最大の図書館だ、昔のローマの宮殿みたいな壮大な石の柱が何本も立っている神聖な雰囲気で公共の場所だ。


え?大人ってこういう風に子供に謝ることなんてあったか?


「あ、頭をあげてください。これ、他の人に見られたら問題になりますよ」


「そうかもしれない。だがキミの誤解を解くのが先だ」


キルリスが頭を下げたまま答える。でも、いやまず。いいから立ってほしい。

貴族が頭を地面にこすりつけてるの見られたらまずいって。されてる俺はどう見られるんだこの場合は!?


「もう知っているかもしれないが、私は王国の魔法師団で働いているキルリウス・ベッシリーニ。魔法学院にも出向している」


頭をあげる気はないらしい。

これを見て騒ぐ奴がいるなら洗脳して記憶を消すしかない。


「知ってますよ。魔法師団の師団長、国王の右腕で頭脳。そして魔法学院の学院長ですよね」


「そうだ。そしてベッシリーニ家は国王より魔法に関して王国を導く役割を任されている」


なんだかまわりくどい。


「それは私の父がこの世界の歴史において卓越した魔法使いだったからだ。その血を引く私も娘も、父ほどではないが高い魔法適性を持っている。今の地位はそのおかげだ」


「何が言いたいんでしょう?」


めんどくせさいグダグダと。

話が長いのは罠にはめようとしているのか?


でも俺の気を引くことには成功しているのかもしれない。頭の中に疑問が生まれたのだから。

この世界ではありえないほどの魔法使い?どういうことだ?


「父はあらゆる属性の魔法を操っていた。公にはなっていないが魔法レベルは500を超えていたそうだ」


魔法使いの最高レベルは99。

これが人間が到達できる究極のレベルで世間の常識だ。

90を超える大魔法使いなんて世界に数人しかいない。

レベル500が存在できるならばどこかの小国くらい一瞬で消し飛ばしそうだ。


「そして親父の頭の中では、どうしたらよいか迷った時に神の言葉が響いていたそうだ」


え?


おい。

これって。

俺のナビゲーターと同じじゃないのか。


「そして神からのギフトをもらっていた。それがこれだ」


キルリスは顔をあげて俺を見た。

青い目が金色の瞳に変わる。


「私とキャサリンにだけ受け継がれている魔眼だ。相手の状態を確認できる。安心してくれ、今はきみのステイタスを覗いていない。見たのは飛んでいる鳥だ」

指さした先にははるか高い空に鳥が矢印の形で編隊を組んでいた。


「雁系の魔物、風魔法適性レベル5、先頭を飛んでいるリーダーだけは10だ。強い風魔法で群れ全体の速度を上げて飛んでいる」


そういえばキャサリンの瞳も今は青い。

彼女が俺のレベルを言い当てた瞳は確かに今のキルリスと同じ金色。

あの時スキャンされたのか、ウチに来た時にされたのか。


ジトリと睨むとキャサリンはまた頭を地につけた。


「ご、ごめんよ、ごめんよぉおおお!!」


ガン、ガン、と頭を打ち付けるのはやめてほしい。

ツルンと健康的な額に血が滲んでるじゃない。


「私からも謝らせてくれ。私はキミのステイタスを見ていないが、キャサリンから聞いて知っていたのだから同罪だ」


疑問が浮かぶ。


この世界ってその魔眼があれば本当のステイタスが見放題?

そんなヤツがゴロゴロいるのだったら、俺のステイタスを勝手に知っちまうヤツが次々に出てくることになる。


「その瞳は一般的に知られていることなんですか?」


「もちろん公になってない。このスキルのことを知っているのはうちの家族と王族だけだ。一般にレベル確認は大教会の宝玉しかできないことになっている」


本当、なんだろうな。

魔眼の話は初めて聞いた。


「つまり、あなたたち一家だけは他人のステータスを見放題なわけだ。随分と失礼な話ですね?」


「そういわれても仕方ない。本来はどんな結果が見えようとも相手に伝えることはしない。私と娘、さらに国家問題になりそうな場合は国王との間で共有するだけだ」


なんだと?国王と共有?


要はこの人には裏の顔があって、王様直属で怪しいヤツを魔眼で確認して報告してるってことか?

そしてそんな極秘情報を、知っちゃいけない俺にベラベラとしゃべりやがったのですかこの人達は?

これは「どうせお前は死ぬんだから最後に教えてやる」的な流れじゃないか?


二人は土下座状態だ。両手を地につけてるから、どうやったって俺の方が早く魔法を打ち出せる。そして相手は避けようがない。

俺の気持ちひとつでやり放題な状態だ。


やっと気づく。


だからこの人たちは土下座のままなのか。

戦う意思がないと体で示す。俺がその気になれば二人は即死だ。


自分たちの秘密を口に出したのは俺のステータス情報と引き換えているつもりなのか。


「とりあえず立ってください。少なくとも今ここでドンパチする気がないのはわかりましたから」


敵かどうかわからないが話は聞く気になった。

それでも油断させて騙しうちするなら受けて立つだけだ。


「そういってもらえると助かるよ。いい加減誰かに見られたらどうしようかと思っていたところだから」

「ごめんよぉ。悪気なかったんだよお。キミの役にたてるかと思ったんだよおぉ」


二人ともやっと立ってくれたけど、キャサリン嬢はまだグスン、グスン、と泣いてる。

俺が泣かしたみたいで、なんだかヤだなぁ。

すごく悪いことした気分がする。考えてみると結局俺が泣かしたのか?


「キミが図書館で読んでいた本だけど。この娘が書いたモノなんだ。あれだけ熱心に読んでもらって嬉しかったんだと思う」


"魔法大全"てっきり昔からある研究書みたいななものかと思っていたら。


「え?キャサリンってそんなすごい人なんですか?」


この泣き虫が研究書みたいな本を執筆?


本が貴重なこの世界、書物が出版されるのはその道の権威ある人だけだ。

俺の家庭教師候補になるくらいだし(一応宰相の息子)、話はすごく詳しくてわかりやすかったけどもそれほどだとは。

うちの父親はどんな相手に家庭教師を申し込んだんだ?


「すごいかどうかはわからないけど。あの本は彼女が魔法学院を主席で卒業した時の論文がベースだよ。王国全体の魔法学のレベルアップのために」


執事セバスからすごいと聞いていたけども。目の前にいる泣き虫ッ子は全然年上に見えない。


「あの本を読んでくれて嬉しかったし、すっごい本気で読んでくれて質問いっぱいされてうれしかったし」

キャサリンが勢い込んで早口でまくしたてた。

ちょっと照れる。


「魔法学院の上級生より理解できているし、なのに。そんな子供なんて見たこと無くて気になってステイタス見たらおじいちゃんの昔の話みたいになってるし!!!」


「おじいちゃん小さい頃はさんざん大変な目にあってきたって言ってたし!悪い人たちに声かけられてさんざん利用されてって言ってたし!!だから、だから・・・・・」

そのまままた、グシュングシュンと泣き出しちゃった。

ありゃりゃ。


顔をおおって涙こぼして泣いてるから、俺はハンカチを差出した。


「もう泣き止んでください。やり方はアレだしわかんないことだらけだけど。あなたに悪意がないってことはわかりましたから」


うん、うん、とうなずいてるから、伝わったかな?


「場所を移しましょう。ちょうど庭園の端に東屋があったハズですから、そちらへ行きましょうか」

「そうだね、ここではちょっと外聞がよくないから・・・」


キルリスが同意したのですぐに行こう。


「いきましょう。はいっ」


俺が差し出した手をキャサリンがギュウと握る。


ひっぱるとぽてぽてとついてくる。


なんか大きな妹?娘?みたい。どっちも持ったことないから知らないけど、こんな感じなの?



こんな最悪の出逢いからはじまったベッシリーニ家との付き合い。

いつ俺を利用する敵が現れるかわからず。余裕のかけらもなく尖っていた頃のこと。


知られたくないこと。知ってほしくないこと。

秘密だらけの俺。

楽しさも幸せも欠片すら感じたことのない前世からの人生。


利用されないことと死なないことだけを考えて。必死に頭を絞り続けてきた俺の人生を。


人間に引き戻してくれた親子とはこんな始まりだった。


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