第39話 冒険者登録
スレ違いは続く。
「ちょっと待て?子供に向かって大人の男を抱えて連れて行けってのか?」
自分で言うのもアレだけど。
俺、子供ぞ?
「おまえだった問題なしだろ?そんだけ魔力あるんだからよ?」
「なに言ってんのかわかんねーんだけど。どうやって運ぶんだよ?」
あっちは知ってて当然みたいに言うしこっちはわけワカメだ。
言い合いになってるけどなんだか食い違ってるのはお互いうすうす感じている。
「おまえマジ言ってんの?」
「いーから教えろって」
どうも要領を得ない会話が続く。
こんな男たちをこの小さな体でどうしろって。
死んでればただのモノだからどうでもできるけど、生きてるから面倒くさいんだって。
どうやらこのスレ違いに気付いたらしい。
おっさんはコホンと咳払いをするとわざとらしい紳士の礼をしてニヤリと笑う。
「それであれば本日の夕食のパトロンに魔法のうまい使い方を教えようではないか。対価は腹いっぱいのメシと酒でいかがかな?」
あざとすぎるしぐさが胡散臭い。
奢りってことでココまでヒョイヒョイついてきたくせに。いまさら何言ってやがる。
「いーからさっさと教えろって。どのみち奢られる気まんまんのくせに!」
「いやいやいや待ちたまえ。いいか?こういうのちゃんとやっとくと堂々とメシ食えるだろ?オカワリするたびにおまえに『いいか?いいか?』とか聞くのも恥ずかしいだろう?いい大人が店でいちいちガキに注文のお許しをもらうの想像したらちょっとな・・・」
小さい。なんて小さい男だコイツ。
無理やり理解すれば厚かましさとプライドのチープさを足してからカケルの2倍だ!
「わかった、わーかったから。どうすんだってんの!!!」
俺の返事に納得したらしい。
うんうん頷くとそれっぽい仕草で説明を始めた。
「万物には星からいろんな力が働いている。その辺りはオーケー?」
「まあな。重力とかだろ」
「そういうヤツ。重力は引力と遠心力だ。じゃあその力を逆相違の力で無効化しちまえばいい。力の反転だ」
反転?
うーん、逆にする、ってのはなんとなくわかるんだけどなんだよ。
「おまえ、自分はそんなのできんのかよ?」
「少しな。重い荷物を少し軽くするくらいだ」
本当かよ?
もしかしたらと思ったけど本当ならやはりコイツは相当"出来るヤツ"みたいだ。
たぶん俺にも「先生」はそのうち教えてくれるつもりだろうけどまだカケラも聞いてない。それはつまり随分とレベルが上の話だということ。
そんなスゴイ魔法使いだとしても人間は小さいけど。そういえばキルリスも似たようなもだった。
「だいたい反対の力ってどんな魔法の元素だよ?」
「使う元素は闇だ。干渉してくるものは力でも思念でもネジ曲げるし干渉できる」
闇魔法は元素適性があるけど使ったことはない。
コイツは自分でも使えるっつったよな?
普通の奴らにとって闇魔法は上位魔法だ。基本元素は魔導士クラスまで極めてないと使えるようにならない。ということはこいつってば一流の魔導士ってことになる。
わざと隠してる感じはしてない。
けどこいつ善人か?それとも敵か?
頭の中で危険を感知するレーダーが回転を始める。
どうして俺のことがわかってる風なんだ?
「なんだ使ったことないのかよ。魔力の波長に闇元素が混じってたから使ってんのかと思ったのにな」
「おまえは闇魔法使えるんだな?」
「レベル2だからまだひよっこだ。おまえは多分おれよりレベルは上だろ。俺も見たことねーからレベルわかんねーけど上だってのはわかる」
俺が訝しんでいるのがわかるのだろう。
自分のことも平気な顔で教えてくれるんだけど。
こういうヤツって難しいんだよな。ズボラだけどいいヤツなのか、それとも無茶苦茶頭がいい演技派の悪人なのか?
「お前なんだかいろいろ考えてるみたいだけどな?さっき光魔法でビーム撃ってたよな、もし自分の元素やレベルを隠すつもりだったらアソコから隠さなくってよかったのか?」
あ。
キルリス達がいる時と同じように当たり前に使っちまった。
高位レベルの魔導士相手だと身バレするまずいやつ。
なんとなくキルリスと一緒な感じで。
「しまったああああ!!!」
・・・一応、神の御言葉らしいアイツに声をかけとくか。
「なあ、こいつの言ってることって正しいのか?」
『ほぼ事実です。この男の闇魔法のレベルは2ですので、せいぜい重力の方向をいじるくらいしかできないでしょう。闇魔法は人間のいうレベル50を超えるくらいから取得できます。この男は人間では世界有数の魔法使いで間違いありません』
やっぱりそうですよね、わかってましたよーだ。
でもどうしてコッチのこともわかるんだ?キルリスやキャサリンみたいに魔眼持ってるわけじゃないだろうに。
「闇魔法を持ってたら他人が闇魔法を持っているってわかんのか?」
『闇魔法では相手のことはわかりはしません。おそらくこの男の魔力感知レベルが極めて高いことが影響しています。魔力感知レベル80。人間相手に感知魔法を発動すればほぼ相手のレベルや能力が推測できるレベルです』
うげげげ。
コイツそんなことできんの?
あれか、達人は達人を知る、とかそんなのか?
そうすると魔力感知を極めてるヤツには俺のこともソコソコ身バレする可能性があるってのか?
「なあ?あんたは俺のこといろいろ見えてんだろ?」
「見えてるってより感じてるんだけどね。だまってた方がよけりゃ黙ってるし、でもなあ」
「なんだよ言いたいことあんのかよ?」
「おまえがいろいろできる前提じゃないとコイツラ運ぶのが俺の役目になるんだよな。放っとくのは金がもったいないけど運ぶのは面倒くさいだろ?」
だっ・・!
だろじゃないだろホントに小物だなコイツってば!
あれか?アキれちまって逆に憎めないってヤツなのかコイツは?
そんなやつ俺は知らないけどな!
「こいつの言ってる魔法ってすぐ使えるのか?」
『ムリとは言いませんが教わっていては時間がかかるでしょう。それよりこの男がアナタのレベルを探っている可能性がありますよ?悪意は感じませんが知ってしまうと悪意が生まれる可能性があります』
「とはいってもさっき光魔法見られてんだよな。とっさだったからな」
『あの状況では最適解でしょう』
「おっさん、あんたは一人くらいならなんとかなるか?できればあの重いヤツ」
「え?マジで?めんどっくせー。でっけーからなー」
チラッとこっちを流し見してきた。
なんか"そらきた"って心待ちにしてたんじゃねえかコイツ?
だいたいなんで俺が全員連れていく前提なんだよ、手伝うって言ったんだからコレも手伝いじゃねーのかよ?
「分け前が1:2でよけりゃあ頑張るんだけどなー?」
「がめついぞ。奢ってもらうくせに分け前も余分にとる気かよ」
「あー、そうじゃないと腹減って力でねーなー。なにせぶっ倒れる寸前の可哀そうな男だからなー。もうフラフラでさあ」
うそつけこのやろう。
笑いながら棒読みしやがって。
奢られる分際で態度でかくないか?自分が引く気は毛頭ないようだコノヤロウめ。
「わかったよじゃあそれでいいよ。剣士は腕砕いただけだから歩かせるとして魔法使いは身体能力向上で俺が抱えるか」
俺の言葉を聞いたコイツは呆れた顔。
そういえばお前はどうやるんだよ教えてくれるって話だろうが。
「おまえさあ」
「なんだよ」
「そんだけ魔法使えるのに随分とドンクサイのな」
何いってんだコイツは。
売ってんのか?ケンカ売ってんのかオラ!
言われてカチンときたけど、バカにしてる顔じゃなくて真面目な顔だった。
「ドンクサイ?なんだヨなめてんのか?」
「おいおい噛みつくなってバカにしてるわけじゃねえんだから。だいたい魔力感知も聞けばすぐにできたくせに知らなかったんだろ?」
そうだけど
間違っちゃいないけど。
何だかコイツに言われると腹立つぞ。
「なにが言いたいんだよ」
しょうがねえなあって顔しやがる。
いいから教えろ。
「つまりな、俺たち魔導士はいろんな問題を魔法で解決するだろ?たとえば今ならこいつらをどうやって街のギルドに連れていくかだよな」
「それで?」
「俺は闇魔法でできるだけこいつを軽くして抱えて、風魔法で街まで飛んでいくんだけどな。おまえは身体強化でコイツら抱えてポクポク歩いてくんのか?」
随分と楽じゃねえか。
そのくせ分け前までガメつくとりやがって。
「まあ人にはそれぞれ事情があるしな。じゃあ先にギルドへ行ってるからさっさと来いよ、俺はギルドの食堂で先にメシ喰ってるからな!」
ヒュン、と音がするともういなくなっていた。
遠くの空に何かがとんでいく。
いいようにカモられた気がする。
結構な距離を剣士を連れて歩いてゆき、やっとの思いで俺が冒険者ギルドにたどり着くと。
大きな歓声が聞こえた。
食堂はずいぶんと盛り上がって楽しそうだ。
・・・。
今は考えまい。
アイツが話を通してくれていたようで、ギルドのお姉さんに声をかけると引き渡し手続きはすぐ終わった。
今回はお手柄ですねとほめられて、その流れで「冒険者登録されてみてはいかがですか?」と案内書類を手渡される。
冒険者?おもしろそうじゃん。
アイツに言われた俺のダサさっつーのもわかんなくはない。
俺には魔法を使う経験が絶対少ないから、困る場面ってのがあんまり想像つかないんだよな。
絡んできたヤツをぶっとばすくらい身体強化でワンパンで終わる。
ギリギリの局面いろんな場面を自分の手持ちの魔法で工夫して超えていくような経験がない。
もちろん俺には「ナビゲーター」がいるから何とかなるけど、俺に力がついてるのと違う気がする。
あいつと比べると魔法のレベルは俺のほうが高いけど、全然使いこなせてないというか便利じゃない。
「やります。はい書類」
俺はさっさと書類を書き終えてお姉さんに提出した。
「え?ゆっくり考えてからでも、って侯爵様の息子さんですか?いいんですか!?」
書類に目を通したお姉さんが慌ててる。
そうですけどだいじょうぶデス。
アバレンボウなので。
「大丈夫ですよ。手続きよろしくお願いしますね」
「ジョバンさんからも凄腕の魔導士だって推薦されましたし。でしたら推薦人でジョバンさんの名前を入れておきますから」
「ジョバンって誰?あのおっさんのこと?」
ビックリだ。
あいつの名前は「おっさん」じゃなかったのか?
奥の食堂で大騒ぎになってる中心で騒いでるのがそうだろう。
「王国のギルド中でも一番の腕利き魔導士ですから彼の推薦なら問題ないですね。今回の討伐評定も評価にいれておきますからDランクスタートです」
首にかける証票をもらう。
「冒険者について詳しいことはジョバンさんに聞いてください。今日はもう酔っ払ってるから明日でも・・・」
お姉さんがジョバンをチラ見した後クビをふった。
この顔知ってる「ダメだこりゃ」ってやつだ。
「はい、おいはぎ討伐3人分の報酬です。ジョバンさんにはあなたから分け前を渡しておいてね?」
とりあえず騒いでるおっさんのとこに顔を出す。
「お、きたな、坊主!しかもその首に輝くのはDランクの印!やっぱり登録したか、受付さんに言っといてよかったぜ!みんな、今日ここに凄腕冒険者が新しく誕生したぞ!俺のおごりだ、乾杯!!!」
とっさにとなりの女性冒険者が俺にもジョッキを渡してくれた。
のみかけ?
もう何がなんだか。
「新人冒険者に乾杯!!!」
ガション、ガションと大勢でジョッキをぶつけあう。
俺もちょと飲んでまわりをみわたすとみんな一気に飲んでたのであわてて飲み干した。
グワンと腹が熱くなる。
「どうだ報酬は受け取ったか?先にマスターに渡しておいた方がいいぞ、おまえの分と俺の分で今日の報酬は残らねえだろうからな!」
「な、なんだ、今の乾杯はおまえ持ちだろ!!」
俺が冒険者になった祝いを俺に払わせたりしないよな!
「でもそれ以外は頼むぜ、約束したからな!このテーブルにある分全部だ!!」
何重にも積み重ねられた皿、皿、皿、空いたジョッギなんかがでかいテーブルに隙間なく置かれていて、こいつどんだけ飲み食いしたんだろう?まさに飢えた野獣しかも遠慮なし。奢る相手を間違えたのは間違いない。
俺はカウンターへ行って店長さんから金額を聞いて。
おれの取り分の金が入った袋を全部ゴション、と置いてジョバンに声をかける。
「おい、おっさん!おりゃーもうスカンピーだ、あとは自分で何とかしやがれ!!!」
「おう俺の分も渡しておいてくれー。マスター、2Fの部屋も一室たのむー。さあ、夜はこれからだ!!!」
「おおううう!!」
まわりの冒険者たちから掛け声がいっせいに響く。
俺は受付のお姉さんのところにもう一度。
「今日は帰りますね。また来ますのでその際はその・・・よろしくお願いします」
「もしジョバンさんから冒険者の説明受けられなかったら、言ってくれたらワタシが説明するからね」
絶対そうなると思う。
2話更新ですお昼前くらいアップになります。
まだまだ序盤ですジョバンですサクサクすすみます。




