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神様に辿りつく少年  作者: 水砲


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第38話 教会再訪

翌日あらためて訪問した教会は、誰もいないようにひっそりしていた。


人の気配がしないし子供達の騒ぎ声も聞こえない。

あれ?


「こんにちはー」

声をかけても返事がない。


「こんにちはー。シスターいますかー?先日伺ったユーリですー」

もっと大きな声で呼びかけると、礼拝堂の一番前の席で影がモソリと動いた。

いかにも寝起きって感じで男があたりをキョロキョロと見渡してる。


「なんだ坊主お祈りか?誰もいないけど勝手に祈っていく分にはいいんじゃねーか?」

アゴで祭壇の前の席を促されるけどそうじゃないんだよな。


「シスターとか子供たちとかは?」

「アイツラの知り合いか?今頃はここで取れた野菜を市場で売ってるよ。俺は頼まれて留守番だ」


よく見るとこの男、ボロボロのローブをかぶって頭も顔も汚れて真っ黒だ。

かなり異臭を発してるけど自分で気づいてないのか?

さりげなく裏玄関を指す。


「おにーさん、とりあえず裏庭で水でも浴びてきたら?ココは俺が見とくから」


「おっとやっぱり臭いか?わるいなお言葉に甘えちまうぞ」


立ち上がったのは背の高い魔導士だった。

使い古した魔導士のローブ、随分古そうな首輪や腕輪の魔道具。ぼろっぼろにしか見えない魔法の杖の先には大きな固まりがついているから多分魔法石?ドロだらけで汚い石にしか見えない。

石鹸の場所も教えるとフラフラして扉にぶつかりながら出ていった。



それから半時も経ったあと。


きれいになった男は結構な美男子だった。

無精ひげが少々悪いヤツな感じだったけど。ヒゲも剃ればいいのに。

そして男は素っ裸だった。


「おい、おまえなんでマッパなんだよ!そういうヤツか!?」


筋肉質で均整のとれた体は間違いなく立派な戦士の肉体。

でもなぜ裸なんだ。

ケツをポリポリかくな。


「そうは言うけどな?体洗っても服が汚なけりゃあ臭いの変わんねえだろ?一カ月近く洗ってなかったからな、こんな機会逃せねえよ」

「そうかもしれねえけどパンツくらいはけよ!シスターとか子供たちとか戻ってきたらどうすんだよ!」


まったくヌケヌケと、あー言えばこう言いやがるなコイツ。

厚かましいというか適当っていうか。


「安心しろ戻ってくるのは夕方だ。それまでには乾くだろうしな。それよりおまえさ」

子供の俺を切なそうに見上げたところで。

男の腹がギュルルルルと大きく鳴った。


「いやいや普通に礼拝にくる人とかいるだろうが。それよりホレ腹減ってんだろ」

子供たちに差し入れで買ってきたパンをひとつ分けてやる。ジンの真似させてもらった。あんなにいっぺんには買えなかったけど。

ここにある子供たちの食い物を勝手に食われるよりマシだと思って。


大きめのパンだったのに、渡した瞬間ガブリとかみつくと一瞬でヤツの胃袋に吸い込まれた。

さらに飢えた野犬が食い物をねらうような迫力で詰め寄られる。


「もっとくれ!おれ3日も碌に食べてねーんだよ!!」

俺の手元にある差し入れの紙袋から目が離れない。

ダラダラと涎が垂れて汚いぞ。


「おいおいこれ、子供たちへの差し入れなんだぜ?」

「いやそうかもしれねえけど。俺は3日前にパンひとつ食べただけで、その前もロクに食べてねえんだよ」

いい大人から泣きそうな顔で懇願されてしまった。どうすりゃいいのよ。

俺も腹へったシンドさがわかる分放っておけない。


前世で似たような経験あるからわかるけど、コイツはまだ死なないと思うけど。

でも食ってないとガマンできるのに、少しでも何かを胃にいれてしまうともう止まらない。

諦めかけてた体が全力でメシよこせって叫ぶ。


「だいたいなぜおまえここにいるんだよ?」

「北の国から山脈超えてやっと王都にたどり着いたら、もう腹へってぶっ倒れそうになった。目の前の畑に野菜があって、モギって食べてたらシスターにぶん殴られた。食べた分留守番してたらおまえが来た」


じゃあおまえはパンの前に野菜食べてるじゃない。

腹の足しには全然なんなかったんだろうけど。

しょうがねえ、こんな飢えた野獣を放っておくと子供たちのメシまで全部食べられちまう。


「服がかわいたら俺がおごってやるよ。裸じゃ連れまわせねえから乾くまでは待てよ?」

そう言った瞬間に男の目が輝いた。

キラキラした綺麗な輝きじゃなくてギラギラした打算の方で。


「お、おい。マジかよ!おめーイイヤツだあ、神様だー!!さすが教会だな神様がいるじゃん!!ちょっと待ってろよ服を着てくるからよ!!」


「や、ちょっと待てって。洗ったばっかりなんだろ?濡れた服着てく気かよ?」

「そんなこと気にすんなって。それよりお前の気がかわっちまうことの方が大変なんだよコッチは!<乾燥(ドライ)!!>」


コイツが発動した魔法は温風となって随分と離れた場所に干された服を取り巻いた。一瞬で水分を抜き取るともうカラッカラ。当たり前のようにやってたけどかなり高度な魔力操作だ。


「これで問題ないだろ?さっさと行こうぜ?」

こ、子供かよこいつ。

エサを目の前にして大騒ぎするんだから、どっちかってとニャンコとかワンコか?


「いや待てって、だいたいお前留守番なんじゃ」

「大丈夫大丈夫、誰も来ねえし来ても教会で悪さするわけねえよ!」


何の理由もなく断言。

あっという間に服を着ると俺の肩をグッと握って離す気がない。

いいから。

逃げねえから手を放せ。


とりあえず台所に差し入れと書置きを残しておいた。

子供たちの教育によくない存在だから連れ出しますまた来ます。


「さあいこうぜ、早く、なあ」

あーもうせかすな!いちいちうるさい!


いい大人に腕をぐいぐいと引っ張られる俺。

子供の俺が子供のような大人に子供みたいに腕を引っ張られる。

子供が大人で大人が子供?なんなんだコレ。




街の中央へ戻るには人通りが少ない道を通る。

教会が街はずれの辺鄙なところにあるからだけど、貧民街も近くてガラのよろしくないヤツラも見かける辺りだ。教会が襲われないのは、半分は信仰だけど半分は襲っても目ぼしいものが何もないから。


この道を通るのはせいぜい北の国へと抜けるために回廊を通る旅人か、北部の森へ魔物を狩りにでかける冒険者とか。今も遠くに冒険者のパーティが見えるけど、それ以外に人通りがない。


「あいつら俺達を襲う気満々だな。坊ちゃんはどうする?」


遠くに見えたパーティが近づいてくる。

3人組だけど防具も痛んで本人たちも汚らしい。随分貧相な恰好だし人相も悪い。


「あんたそれ人相とか恰好で言ってんのか?」

「向こうはもう臨戦態勢に入ってるぞ。こっちのことをいいとこのぼっちゃんとその従者みたいに思われてんな。面倒くせえなあ」


どうせコイツのことだからまた勝手なこと言ってるだけだろ、と思ったら真顔で「何いってんだコイツ」って顔しやがった。

「坊ちゃんも魔法使いだろ?魔力感知しねえの?」


なんだよそれ?


『常に魔力を薄く散布することで、こちらの魔力に反応のある敵意や悪意や魔力を感じる初歩魔法です。こんな感じです』

久しぶりのナビゲーター先生が教えてくれた。


ピン、と魔力の波を打つと、近づいてくるパーティ全員からドロッとした暗闇のイメージが返って来る。中のひとりからは炎のような紅蓮のイメージも一緒に返って来た。

『全員がこちらに敵対する気まんまんです。赤いイメージは一番奥にいる男ですね。炎系統の魔法準備が完了しています』


なんだか声を聞くのが久しぶりだな。

元気だったか?


『自分で進んでいくあなたに私から何かを言う理由がありません』

なんだ、つれないな。


「奥のメガネは炎系の魔法撃つ気まんまんだな。あとは剣士とパワーファイターか。おっさん何とかしてくれんの?」


「どうすっかな?腹が減ってるから魔力使うの面倒だ。だけどあいつら引っ立てたら賞金でるしなあ」


賞金って。

おいおい金が手に入るのか?

俺も自分でかせげるってのかよ。

だったらコイツはやる気ないし俺がやっていいんだよな!?


「やる気ないなら俺がやっちまうぞ。もちろん賞金は俺がもらうけど。いくらかしんないけど教会にお布施することにする」

「おいおいそりゃねーよ、こっちはスカンピンだぜ。じゃあ手伝うってことでいいよな。取り分は半々で」

コイツはまた自分に都合のいいことを当たり前のようにいいやがる。

なんだそれ手伝うだけで半分くれっての?


言ってる間に距離がつまって互いに言葉も聞こえる距離まできた。


「なあ、おふたりさん」

歩いてきたパーティの先頭の剣士が話しかけてきた。

ゲスな顔で。


「ちょっと金めぐんでくれねーか?今日の狩りが不作でな。酒飲む金も稼げなかったんだわ」

大人で、ちょっと暴力知ってて、厚かましくて偉そうなクズ。

だからなんだってんだ。

そんなのでこっちがビビるとでも思ってんのか?

顔面ガタガタにしてやろうか?

「そりゃ残念だったな。金はあるけどお前らにやる気はねーよ。じゃあな」


キッパリお断りしてあとは無視だこんなヤツラ。

ニヤニヤしてる顔が気持ち悪い。

顔の造形がどうのじゃなくて、魂の品性が顔にでている下衆な顔つき。

俺の返事が予想通りなのか。立ち去ろうとすると前に立ち塞がった。


「ちょっと待てよ。いいから金おいてけ」

強い力でガッツリ肩掴まれた。

俺達を通すつもりはないってことだ。


「俺はエストラント家の長男ユーリだ。これ以上やると不敬罪と暴行罪でブタ箱行きになるけどいいのか?」


一応最後通告はしておく。

貴族の家名出すのは危ないことだけど俺には関係ない。俺より弱いヤツラにきちんと警告したってだけだから。


「知らねえな。おまえらを離す理由になんねえよ。ガラさらわねえだけありがたく思えよ、面倒くさそうだからな」

やはりただの追いはぎだ。

まともな冒険者なら貴族にたてつくと捕まって資格はく奪だからまずやらない。

犯罪者というよりただのタカリ、チンピラ風情だ。


これなら最悪殺しちまってもこっちのせいじゃない、でいいんだろう?


身体強化、腕力・握力強化っ。


「きたねえ手を離せよ?」


俺の肩をつかんで離さない剣士の手首をにぎる。

「今日はやたらと汚ねえヤツに肩を掴まれる日だな。まあいいけど」

むかついた分お礼するし。


強く握るとゴキンと音がして剣士の手首の骨が砕けた。


「ぎゃ、ぎゃああああ!!!」


後ろに控えてた魔法使いが即座に反応する。


「ファイヤーボールッ!」

ドッジボールみたいな火の玉が大人が球を投げるくらいの勢いで俺達に向かってくる。

魔道学院のヒヨコたちからすれば随分早い速度だろうけど。俺には余裕をもって対応できるレベルでしかない。俺の横でおっさんがボソリと魔法を発動する。


<水球>


相手のチンピラ魔法使いと違い弾丸のように水球が飛んで火球を四散させる。

目を見開いた魔法使いのビビリ顔がなかなか見もので笑いそうになるのをこらえた。

ところでこのおっさん何者だ。魔道学院の講師より滑らかに魔法を発動している。


「てめら何もんだっ?」

「それこっちのセリフだけど?チンケなたかりやさん?」


目の前の鎧野郎はどうしよう。オンボロとはいえ金属製の鎧をなぐるとこっちの手が痛そうだ。

俺も魔法を使って憂さ晴らしさせてもらおうか。


岩粒嵐(ストーン・ストーム)っ!>


ゴオオォォォッ!!

大男を中心に、石礫を大量に含んだ竜巻がおこる。


「ぐげ、げげげげげえええええ」


自分を取り巻いて高速に回転する礫に皮膚を、体をけずられていく高速皮むき器だ。

むいていく皮は鎧であり、衣服であり、そして本物の人間の皮。

噴き出す血を竜巻がどんどん巻き込んで赤くなっていく。

人間相手に撃ったのは初めてだけど結構エグい。


最初こそ大きな叫び声をあげていた鎧の男。

血煙の渦にまかれて中が見えないけど叫び声が聞こえなくなった。


「おいおい坊主?そのへんでいいんじゃねーか?」

おっさんに肩をゆすられる。

あんただってこれくらいやるだろ?さっきの水球を使うレベルの魔法使いなら。

「そう?」

ストーン・ストームを解除すると。礫に体中をえぐられてボロ雑巾になった大男がバタンと倒れた。

あたり一面血の池地獄。


「次はあの魔法使い?それとも泣いてるコイツ?」

走って逃げようとする魔法使いと今もうずくまる剣士。

「剣士の方は俺が拘束しておくから、あの逃げてるヤツいけるか?」


「殺しても?」


「おまえもぶっそうなヤツだな。なるべく殺さないでやってくれ」

「りょーかい?」


この世界で初めて?の魔法勝負だ。

ハデにいくか。


<岩石落とし>


唱えると魔法使いが逃げる先の空中に巨大な岩が大量に浮かぶ。一応仲間?のおっさんに聞いておいた。


「あいつ結界くらい使えるよな?」

「さあな。使えてもあの岩の重量にたえられるかは知らん」

「じゃあなるべく直撃しないようにするよ」


<落ちろ>


ドンドンドン、と魔法使いの前に横に岩が落ちていく。

ビビって逃げ回ろうとするから逆に危ない。

その中の一つが、急に方向を変えて逃げようとする魔法使いに向かった。


「あれはあたる」

「あたるな」


岩がひとつ、ちょうどヤツが逃げた先へと勢いよく落下していく。

わざわざ自分から当たりにいくなんてどんくさいヤツだ。


「悪は滅びたってことでいいだろ?」

「やめとけ。五分の虫にも一寸の魂だ」

「ちぇ」


落ちてくる岩石に気付いた魔法使いが結界のようなものをはったけど。そんな薄い結界は一瞬で砕けた。


<力の顕現>

<破壊光線>


ピュンッ、と光線が直撃して巨大な岩石が粉々に砕け散った。

照射あらため破壊光線。命名者キャサリン教授。


文字数より唱えるときのゴロが大事。

キャサリンの命名だし魔法の発動に名前なんて関係ないのだし。

単に勢いだから「よいしょ」でも「行け」でも、なんなら無詠唱でもいいんだけど。そこはやっぱり雰囲気を出した方が魔法も元気(?)いい。


関係ないことを考えていると、砕けた石が魔法使いの頭にドカドカと直撃していく。血を流しながらあっさりとぶっ倒れやがった。


「やっぱり死んじゃったかな。岩石は砕いたけど拳くらいの破片が頭にガンガンあたってたし」

「いいからアイツも捕まえにいくぞ。俺の回復(ヒール)で治療できりゃいいけど」

「生きてりゃ俺の回復で治せるからいいよ。死んでたらゴメンで」


幸い魔法使いは生きていたので死なないところまでヒールをかけてやった。

生かしちゃったら面倒くさくないか?

こいつらをギルドまで連れてくなら首だけの方が軽いし。


「こいつらどうやって運ぶんだよ」

「おまえ何いってんの?」


当然できるだろおまえ?って顔されても知らないぞ。

俺が純真で初心な子供だってわかってんのかよ?


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