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第34話 いざ王宮へ

「そういえばさ」

「何だよ暴れん坊」


先日のゴタゴタから最近、担任のゼクシーからはこう呼ばれている。


気安い担任教師から仲の良いダチな感じに格上げしてるから気にしない。迷惑かけたと思うけどコイツは俺に何も言わない。呼び名を変えてからかうだけだ。


「あのクソガキたちの親は何も言ってこなかったんだ?」

クラスで暴れた後のことを俺から聞いてみる。

誰が敵で味方なのか知っておきたいから。


「クレームを入れてきた親もいたけどな。学長が止めてたからいいんじゃねえか?」

なんでもないことのように答えてくれるけど、陰でキルリスの悲鳴が聞こえる気がする。あの時けしかけたのがアイツだから自業自得だ。当然こうなるんだよ。


「結果としては王女も取り囲んじまったからな。向こうも強気に出てこれないわな」


シャルロットは自分から飛び込んでいった感じだけど。王様があの程度で目くじら立てるタイプか知らんけど、結局どっちも強く出れないってことだろ。子供の喧嘩は両成敗。クズな教師が自分を守る言い訳によく使う便利な言葉だ。


「そりゃそうだよな。学校の中でなかったら不敬罪だ」

「学長の裁量で丸く収めたらしい。今回の件は学院長から王様にうま~く伝えることで貸し借りなしのチャラ」


ガキ大将の親のブル侯爵は何も言ってこなかった。あいつが侯爵に「言い付けた」かどうかはわからない。

子供の喧嘩と片付けたのか、貴族社会での立場上で黙殺したのか。


コッチとしては物足りないけどしょうがない、のか?

ふざけたガキ共の親がしつけ足りねえからってなぜ俺が代わりにお灸を据えなきゃならん。面倒かけやがる。

「それならよかった、ってことにしとくよ」


ゼクシーも「しょうがねえだろ?」って笑いながら。

「それがいい。お前の気持ちもわかるけどココは学長を立ててやれ。今回は互いに手打ちでシャンシャンいいじゃねえか」


いいけどよ。これから面倒くさいなあ。

もともと学生って柄じゃないんだ。やっぱり俺の性じゃない。

あんなクソガキどもと何を学べっていうんだ。


もうバックレちまってよい気になっている。フローラ会長の領地で雇って貰えば、それなり役にたてるつもりだ。ナビゲーター先生のおかげ。


そう考えていくと。

どうなるかわからない、いつ終わるかわからない学生生活なら。


やることは後回しにできないな。


「やること?」

気軽に話していたハズが。ゼクシーの笑顔は変わらないけど目が警戒している。

俺が何かするのはそんなに危ないらしい。


さきほど教授から貰った便箋をヒラヒラとふってゼグシーに見せてやった。


「ラノック教授が紹介状を書いてくれたから。ちょっと王宮に顔出してくるわ」

前王から信頼されてるラノック教授のおすすめだ。大丈夫に決まってるだろう?

安心させてやろうと思って教授の名前まで出したけど、そうじゃないようで青ざめたゼクシーにガシリと肩を掴まれた。

あれ?


「なんだそれ。聞いてねえぞ」

「もらったのさっきだから。それに今言っただろ」

「いや、ちょっと待てって。何しに行くんだ?教授絡みだから暴れに行くわけじゃないのはわかっているが」


どうなるかなんてわからないけど。

俺の疑問を真摯に話を聞いてくれてお薦めされたのだから。

行く以外の選択肢なんてない。


「社会見学じゃないの?俺も行ってみないとわかんないし」


さすがに王宮で暴れるつもりはない。これでも宰相で侯爵の息子なんだぞ?皮かぶるに決まってる。

教授からの紹介なんだから相手もマトモな人だろうし。


「おまえナメちゃダメだって。そんな感じだと余計不安になるんだって。ついて行ってやりたいが俺もこの後に授業あるしな。そうだお前ちょっとだけ待ってろ?」

「いいけど。別に時間決めてるわけじゃないから」

「じゃ、5分、5分だけでいいから待ってろ。勝手に行くんじゃねーぞ!」

慌ててバタバタと出ていった。

なんなんだ。俺ってそんなにあぶなっかしいのか?



「キミも随分人使いが荒いな」

魔導士のフードをかぶったおっさんがゼグシーと言い合いながら歩いてくる。


「しょーがないでしょコイツがひとりで王宮なんて無しなのわかりますよね?後はまかせましたよ、俺は授業あるんでもう行きますからね。じゃあユーリ絶対に気をつけろよ!」


もう授業が始まってるのだろうゼクシーは慌てて出ていった。

残されたのはフードのおっさんキルリスと俺だけ。

キルリスの顔には呆れて何も言えないと書いてある。


「じゃあいくか。このフード被って」


仕方なさそうに俺にピッタリの魔導士のローブを渡してくれた。前にキャサリンが図書館で被ってたのと同じヤツ。


「顔が見えないくらいまでフードを被ってくれ。あと必要な時以外は声を出さないように」


なぜ身バレしないようにするんだ?犯罪とか怪しいことしてないぞ俺。たぶん。やっててもバレてないハズ?


魔導師団の紋章がついた馬車に乗って王宮へ向かう。

歩いて行くつもりだったのに。

大人は大げさなんだよ。

「王宮は許可がある人間か約束のある人間しか入れないからな」


キルリスは説明しているつもりだろうけど俺は王宮に入る気なんて元々ない。

門番さんに紹介状渡せばそれでうまくいくのかと思ってたけど違うのか?


「いまだに王宮で影響力があるラノック教授の紹介状で来たのがキミ。知られるとイロイロな面倒が起こりそうだからな」


「そうなんですか?おれは善良で平凡な王国民で生徒ですけど?」


間違いないぞ、少なくとも外ズラは。

やっちまってるのはこの最近だけで、それまでは侯爵邸で大人しくしていたんだから。

残念ながらそんな俺の気持ちは通じずにヤレヤレと首をふられる。


「そう思っているならそれでいい。だが学校の件が片付いたのはつい昨日だから。ひとりで行ってラチされて帰ってこないと困る。逆に取り囲まれて王宮で大暴れされても困る」


「ラチられて帰ってこないって。そんなことありえるの?」

「王宮にやってきた怪しいヤツを捕縛するのは普通だろ?その上で渡した紹介状を揉みけされたら?誰にも知られず地下牢行きだ」


わかった、もういい。

ブラブラ行ってみるところじゃないってのはわかった。

俺は暴れたいわけじゃないし目立ちたくない。


「王宮の中にある魔法師団の詰所に寄っていくから顔を売っておいてくれ。いざとなったら近くに助けを呼べる人がいる方がいいだろう?」


俺は静かに静かに目立ちたくないだけ。

王宮で顔売って有名人になりたくなんかないんだけど。

それにいざって時?に誰か頼みならそれはもう死んでるようなもんだ。


「俺はそんなに弱くないつもりだけど」


「それは僕がよく知ってるよ。だが例の破壊光線で誰かを撃ち抜いたらキミは殺人罪でやっぱり地下牢行きだ。ついでにエストラント侯爵家の全ての爵位は剥奪される。目の前の相手には勝っても貴族社会の中では負けになる」


ごちゃごちゃと。

なんなんだ、何故そんな面倒くさいことになってるんだよ。

あんたら国の中枢にいる頭の良い大人なんだろうが。


もちろん嫌み入ってるぞ。


「行きたくなくなってきた」

「もう遅い。先に連絡を飛ばしたから行くしかない」

「なぜラノック教授はそんなとこに俺をいかせようとしたんだろう?」

「あの教授はまだまだ王宮で影響力がある。王様たちに君を見せたいのじゃないかな?」

「へ?いや、ムリムリ。恰好もこんなだし」


俺の恰好は魔法学院の制服の上に魔導士のマント。学生としてはフォーマルなのかもしれないけど、絶対に王様に会う服じゃあない。


「もちろん正式な謁見はムリだとしても、キミが訪問するところへ王が偶然訪れるかもしれないだろう?」




王宮の正門では衛兵さんが馬車の中を確認するよう覗き込んだ。

魔導師団長がフードを上げて顔を見せると、兵士は慌てて背筋を伸ばして敬礼する。


「キルリス師団長でしたか失礼しました!お連れの方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか!」

「彼はユーリ・エストラント。エストラント侯爵のご子息だけど今日は魔法学院の生徒としてここに来ている。ユーリ、アレを渡して」

「はい、よろしくお願いします」


若い衛兵さんにラノック教授からの招待状を渡すと、さらにビックリした顔で凝視された。

「彼は私と一緒にこのまま魔法師団の詰所に入るから。できれば宛先の相手もそこで落ち合いたいな」

「了解しました、そのようにお伝えします!」

若い衛兵に微笑みながら、キルリスは余裕で答える。

「キミの名は?」

「ザックです!」

「よし、憶えたよザック。よろしく頼むね」

「イエッサー!!!」


「・・・え?おっさんってそんなタイプ?」

人たらしにしか見えなかったけど。

最近はコイツの言い分もちょっとだけわかってきた。


「ひとりじゃあ何もできない、ひとりのつもりでも誰かが助けてくれている」

キルリスはちょっとビックリした目をしたけど優しい目になった。

「そうさ。助けてもらったり手伝ってもらったりした分だけでも自分ができる事でお返しをするのさ」


馬車が詰所の馬寄せに入ると騎士がひとり迎えに出てきてくれた。


「師団長おつかれっした」

「やあジン、わざわざ出迎えありがとう。キミに迎えられると明日は雨が降るかと疑ってしまうよ」

「しょうがないでしょう?お客さん一緒だって聞いたんで。一応恰好つけないと」


ジンと呼ばれた騎士は俺の方に向き直って気軽に声をかけてくれた。

「俺は王国軍の副司令官ジンだ。師団長にはいつも世話になって頭があがらない弱い立場でな。今日はようこそ王国軍へ」

王国軍の副司令官?めちゃくちゃ偉い人じゃないのか?

俺みたいなガキに気さくに挨拶してくれた。


「ねえ師団長もっとうちの会議に顔だしてくださって構わないんですよ。仲間なので遠慮せずに」

キルリスの方を見てにまっと笑う。

「それはおいおいね。学院の方がいろいろとゴタついちゃって手が離せないんだよ」

なぜ俺を見て首をフルのかな?

俺のせいじゃないよな?


話ながら歩いた俺達は「総司令官 執務室」と札がたった部屋の前に着いた。


「俺どこかで待ってるよ。軍の方の仕事できたんだろ?」

こっそりキルリスに耳打ちするとヤツから呆れた顔をされる。


「キミをここに連れてくるために来たのだから。逃がすわけにはいかないよ?」

「もしかしたらとは思ったけどやっぱり?」


「さあいくよ。わが国の重要人物たちと会える貴重な機会だから逃す手はない」



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