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第32話 講師室訪問

確か教師錬2階の奥のって言ってたよな。


次の授業は当然ブッチして、俺達の授業を終えたキャサリンの講師室を訪ねる。

この学校には非常勤でも先生ごとに部屋をもらえてるから覗きにいってやろう。

ゆっくり話もできるだろうし学校でキャサリンと二人で話すのもちょっとドキドキする。


部屋の前につくと中からいつものキャサリンの魔力の波動を感じる。


「キャサリン来たよ」

「来たな!不良の優等生め!!」


いたずらっ子をしかるような口調だけど顔が笑ってる。


「なんだよそれ」

ケラケラ笑いながら席をすすめてくれた。


「授業は楽しいかい?」

「ほとんど出てないからわかんないかなあ。出ても楽しくないのは確定だけど」


キャサリンはそうだろうそうだろうとシタリ顔だ。


「そうだろうね。だいたい飛びぬけた首席ってそうだよ。そして最初は図書館行ったり校舎内をブラブラしたりして自分を持て余すんだよ」

「やっぱりわかる?」

「そりゃあね」


フフン、と鼻息荒くドヤってて。

だまってスマしてれば授業みたいに"できる女"に見えるのに。

そういうところが親しめて安心できるキャサリンだ。


「だってボクがそうだったからね!!」


「そうか。そーいやキャサリンも首席だったな」

「なんだよ、今更そんなこと言う気?首席の大先輩だよボクは」


そうだったそうだった。

学院の先輩ってダケじゃなくて。首席の先輩でもあるのだった。

でもこの授業に自由参加でいいて首席の特権はどうすりゃいいんだ?

授業に出ないならこの学校にいる意味は卒業証書だけじゃないだろうか。


「じゃあ俺みたいな感じで過ごしてたわけ?」

「うん、最初はね」

「最初だけ?」

「そうさ、首席だけに与えられたこの時間をただ図書館で過ごすんだったらもったいないよ」


もったいないって。


「じゃあ、キャサリンは何して過ごしたんだ?」

「なに言ってるんだい?キミはもう正解にたどり着いてるよ」


はて?

わからない顔してたんだろう。

俺を教えてくれたキャサリン先生だ、すぐ気持ちはすぐ見抜かれる。

どうも最近は周りに勘違いされてるけど。俺はぶっちゃけ頭よくない。

キャサリンは俺が天才でも秀才でもないってことを分かってくれてるから安心して話をきける。


「キミが主席になった経緯は聞いてるんでしょ?父さん話しちゃったって言ってたし」

「なんか聞いたな。結局周りに押し切られたって話。ほんっとあのオッサンは」


「そうだね。教授連中がキミを首席にすることを譲らなかったんだ。でもよく考えてみて?キミに授業で教えたいだけなら別に首席でも次席でも3番目でも関係ないと思わない?キミに直接教えたいなら、自分の講師室に呼び出せばいいだけだし。どうしてだろう?」


「・・・わかんない。」

「じゃあわからない時は?」


あー、もう。

俺はペコリと頭を下げた。

教師でも家庭教師でもないこの学院の先輩卒業生キャサリンに聞いてるんだから。


「教えてください」


キャサリンは嬉しそうに笑った。

「ボクでわかることなら何でも」


すました顔で言われるとちょびっと言い返したくなる。


「このイジワルッ子め。ドジッ子のくせに」

「さて何のことかな?じゃあ教えましょう。話は簡単で、教授たちはキミが来るのを手ぐすね引いて待ってるのさ!!空いてる時間はずっと講師室にこもってね!」


へ?


「そんなの俺を呼び出せばいいだけじゃん。さっきキャサリン自分で言ってたろ」

「そうだよ。だから呼び出すのじゃダメなんだよ。キミから来てくれないと」


俺から行かないとダメ?

どっちから声だしても結果同じ、じゃダメなの?


「なにそれ?プライドとか?」

訪ねてくるのは教わる側の役目とか?

礼儀はそうだけどなんだか面倒くさい話?


「違うよ?少なくともこの学校にそんな教授はいない。他の学校はそんな教授ばっかりだけど」

「わかんの?」

「わかるさ。ボクもそうでしょ?この学校にいる教授で最初から職業教師だけの人なんていないから。ほとんどは自分の担当科目を実社会で造ってきた人達さ。王宮とか官庁とかギルドとか企業なんかでバリバリにやってた人達だよ。それかボクみたいに今も現役やってる人。臨時の教授って形で」


なんだかすごい人たちだってことは雰囲気でわかるけど。

「おおう。それってすごいの?」

「たとえば社会学の教授は前王から今の王までの政策を立案してきた人だよ。引退してここの教授になったみたい。経済学は財務局のベテラン、経営学は臨時教授でキミも知ってる巨大企業の現役社長だよ」


つまり実践的な講師たちは下手なプライドなんて関係なし。どっちが声をかけるかなんて気にしないわけだ。

じゃあなんで俺からなんだ?


「なにココ。宝のヤマ?」

「そうだよ。この学校にいるだけでこんなすごい講師陣の講義が受けられるんだからやっぱり王国一の学校だよ。そしてそんな講師たちはキミが来るのを心待ちにしてるんだよ!」

「え?も一回きくけど、それなら俺を呼べばいいじゃん。さすがにそんな人たちから声をかけられたら俺だって行くし」

「じゃあ聞くけど、キミが全く興味がない基礎科目・・・たとえば数学の教授に呼び出されて、延々と数式の美しさについて語られたらどうだい?」


いるんだろうなあ。

そういう人。

俺も好きな分野にはのめりこんじゃうから気を付けないとだけど。逆に興味ない分野でそれをやられたら時間が無駄すぎる。


「ギブ。逃げる」

「だろ?しかも個室に呼ばれてマンツーマンだから逃げ場がないんだよ。すごい拷問だよねコレ!!」

実感がこもってるぞ。


「ボクと一緒に自然科学を学んだときのキミは輝いてたよ。もっと知りたい、もっと深く知りたいって顔に書いてあった」

「そうだよな。自分がやりたいことしか面白くない。興味がないことなんて時間がもったいない」

「そう。だから教授達は呼び出すなんて野暮なことはしないんだよ。だってキミは首席だから。自分で考えて選択する頭をもってる、そう認められているんだよ!だから、首席にとってこの場所は本に囲まれた牢獄にもなるし、世界最高峰の実践的な教授から知りたいことをマンツーマンで教えてもらえる「キミだけの学校」にだってなるんだ。首席って最高だろ!!」


なぜ首席首席うるさく言ってんのかがやっとわかった。


「すごいんだな。ほんと」


感心していると、キャサリンは少し残念そうな顔して続きを話してくれる。


「ずっと図書館で過ごす首席もいるけどね。昨年の生徒会長とかもそうだったし。」

「え?これだけ話を聞いた後じゃバカなのって思うけど?」

「人それぞれだとは思うけど。ボクらみたいな・・・ここの教授連中だけど、学問だけじゃなくてその実践に人生かけてる側からすると人種が違うと割り切るしかない。せっかく首席って資格をもらえたんだから資源は有効活用すればいいのにね。人生は短いから」


じゃあキャサリンの話を聞きにココにいること自体が正解だ。

俺はいつでも思う存分キャサリンに教えてもらえる。


「確かに俺は正解を引いてたみたいな。でもさ、これまでの首席ってみんな自分でその正解を引けるほど頭よかったの?」

「それを頭がいいで片づけるのは違う気がする。自分で考えて思考錯誤した結果じゃないかな。あとは度胸」

「度胸?」

「そう。知らない扉を開けるのは度胸だよ」


なんだか抽象的だけど想像できる。

新しいこと何もわからないことだし。恥かくかもしれないバカにされるかもしれないことに挑戦するのだから。

教授の部屋を訪ねて扉を開けるのもそう。

俺だってキャサリンから話を聞かされてないとなかなか出来ないことだ。


「そりゃそうか。ガキにそれ求めるってスパルタだけど」

「そうかもしれないけど、逆に言うとキミと僕たち教授陣は対等だし年は関係ないよ。死ぬまで扉を開かない人だって大勢いるんだから。でも最初の扉を開けたらわかるんだよ。実は勇気をもって扉を開けた人に周りは結構やさしいから」


「そうなの?」

「そうさ、だって何かを成してきた人のほとんどは自分で扉を開けた人だからね。後から扉を開けてきた人の勇気も決意も不安もわかっちゃうから適当には扱えないよ。それをやっちゃうと過去のブルブル震えながら扉を必死で開いた自分を適当にあしらうことになっちゃうから」


なんとなくわかるぞ。

俺だって前世の自分を裏切れないのだから。


「間違いないよ。キミは何かを成しとげていくことが確定だから。どの扉を開くかしっかり考えればいいよ」

「え?キャサリンと一緒のつもりだったんだけど」

「ありがとうそしてようこそ。でも、キミはもっと欲張りになってもいいと思うよ?これは魔法学院の魔法科学の教授じゃなくて、家庭教師だったキャサリン先生からいわせてもらうんだけど」


真面目な顔をしたお姉さんが、俺が自分じゃ気付かないことを真剣に教えてくれる。


「キミが目を輝かせていたのは僕が受け持つ魔法科学、キミが必死に聞いていたのはお金を稼ぐ方法だから経営学になるかな?そしてキミが・・・心が痛くて死んだような顔してたくせに目をそらせなかったのは、社会福祉とか貧困対策、子供関係とか。ちょっと幅広かったけど困ってる人をどうすればいいのかだから、おそらくは社会学だね。法学も知っておいた方がいいかもしれない」


すごいな。

人ってすごい。

いくら家庭教師だったからって他人のことをちゃんと見てるのってすごい。


「すげえなホント。なんでそんなことわかんだよ!!」

「あやふやなこと言ってまた誤解されたくないから言うけど」


最初に会った頃の話だ。

俺のステイタスを見てしまったキャサリンやキルリスとドンバチしたこと。誤解といえばそれは誤解だったけど、あれはキルリスが悪い。


そんな思いがよぎってると、キャサリンはふふん、と胸をそらした。


「受験に関係ない深いところまで根掘り葉掘り聞いてきて、これ試験にでないって言ってんのにしつこくしつこく聞かれたら誰だって気づくさ!おかげでボクが社会学や経済学の教授たちと仲良くなっちゃったじゃないか、キミのしつこい質問に答えるのも大変だったんだからね!」


ボクだって忙しいんだからねとプンプン膨れてるけど。感謝しかなかい。

俺のためにいろいろ動いてくれてたことも、俺をよく見ててくれたことも、考えてくれたことも。


「いつもありがとう俺が気づいてなかったところまで。きっとお返しするから」

「じゃ、じゃ、じゃあ・・・・・・と思ったけど、また今度にする。楽しみにしてるよ」

「もちろん。忘れるわけない」


俺のことをちゃんと見てくれてた人がいる、と思うだけで救われる気持ちになる。

気のせいじゃない。


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