第31話 他力
数日後。
朝から図書館で調べ物をして、3限の授業に間に合うように教室に入った。
受てみたい授業があったから。キャサリンの魔法学だ。
正直言えば授業で俺に習うような内容はない。
キャサリン教授の晴れ舞台に興味があって見にきただけ。
久しぶりの教室に俺が扉を開けて入るとそれまで騒がしかった教室がシンッと静まり返る。
それはそうだよな。こないだのことがあったから。
俺が教室に入ると誰もしゃべらなくなる。
別にそんなのは前世のデフォルトだから気にしない気にならない。
前世の何倍も気が楽だ。こいつらがダマった理由がわかっているから。
原因オレ、やったのオレ。
ならオレのせいだ。すっきりだ。
わけもわからずヒソヒソ話されてイヤな顔されて遠巻きにされるよりは100倍ましだ。
一番前の席っていうのだけが、なんだかなぁ、だけど。
後ろなら勝手に座るのに。
今度ゼクシーに頼んでみようかな、一番後ろの席に替えるように。
「お久しぶりね」
席につくとムスっとしたガキンチョに声をかけられる。
王女様のくせにポーカーフェイスを知らないのか?
「ああ。そちらにもお変わりなく?」
「そんなわけないでしょ。クラスは静かになったかしら。誰かさんの鉄拳制裁のせいで」
鉄拳ってあのなあ。
シャルロットがチラッと振り向くのにつられて俺も振り向くと。
あの時の体の大きいクソガキがビクリと体を震わせて下を向いた。
「生きててよかったじゃない。廃人になってたら洗脳でもしなきゃいけないかと思ってたけど」
「あなたそれ。ほんとにやったら犯罪者ですわよ?」
「お、ずいぶん学生っぽい口調になったんじゃない?そっちの方がいいな」
「誰かさんのせいですわね。細かいこと気にしてもしょうがないわ」
広い教室のくせは俺達二人以外誰も話さない。
いつもこんな感じなのか?
静まり返ってコソコソ話しているはずの俺達の話がよく通った。
ピリピリして耳をそば立ててるのがわかる。
ボコボコにしたクソガキ派も傍観派も同じ。
ひとりソフィアだけがうつむいていた。
「なあ」
「わたしは、なあって名前じゃないんですけれども」
「シャルロット・・・さん?ソフィアの様子おかしくねえか?」
「そうね」
シャルロットは振り返ってソフィアの様子を確認するとため息をついた。
うつむいているソフィアは俺の知らない暗いを顔していた。
元気で強気で。でも弱いところがたくさんある可愛らしい女の子なはずなのに。
そんな面影はどこにもなかった。
「いろいろとショックだったのじゃないかしら。自分にもクラスにも。あなたにも」
「怖がらせちまったかな」
「そうかもしれませんわ。でもそれだけでもないようですけども」
「よくわからないけどフォローしてやってくれてるんだろ?」
あきれたようにコッチを見られたけどもしょうがないだろ。
俺が行くとあいつまた怖がらせちまうかもしれないし。
「意外と臆病ですのね。でもお友達の心のケアは当然ですわ。頼まれるまでもございません」
「そりゃまそうだ」
平気な顔して軽口たたくしかできない。
臆病っていわれてもムッとする気にもなりゃしない。
今までたったひとりの同士だって思ってたのに、あんな顔されちゃあ。
明るく勝気で元気な顔しか知らなかったハズなのに。
俺との縁が切れてしまっただろうか?
ひとりには慣れてるつもりだけど。
できれば壊れてほしくない関係。俺なんかを味方してくれる数少ない友人だから。
そして気付いた。
もしかしてひとりになることにびびってんのか、俺。
「その点、姫さんは俺を恐れないな」
「それはもちろん。王族ですもの」
フフフと怪しげに笑う少女の腹はすわってんのか黒いのか。
「たかが殴られてビビるくらいなら、最初から他人の顔色をうかがっていればいいのですわ。そんなこと軍では日常茶飯事ですもの」
「言葉、言葉」
「あらやだ失礼」
クククク、フフフフ、笑いが共演した。
話をあわせて軽い言葉を交わしてくれる。悪いな助かる。
「一つだけ教えて差し上げます」
「ん?説教か?」
「まさか。お説教を聞くタイプじゃないでしょうあなたは。王族はそんな無駄なことをしないのよ」
「そりゃそーだが、じゃあなんだ?」
シャルロットは真面目でもふざけでもなく、当たり前のことのように話を始めた。
「あの場にいたのは、あなたのお友達である私とソフィアの二人。絡んできたお子様集団が半分。そしてそれ以外」
「それで?」
「それ以外の、あなたに問い詰められて今も落ち込んでいるダレスも含めてですけど。あの方達はあなたと私が、とくにあなたがあの場を何とかしてくれるものと思ってましたわ。間違いなく」
肯定も否定も求められていない。
そんなものよ、というだけの言葉。
「なんだそりゃ?自分は何もしないのに?俺達はヒーローかなんかか?」
「そう。力がある人は求められるの。私には王族という権力があるし、あなたは武力をもっているわ」
それはそうだけど。
なら何もしないヤツラがスッキリするために俺がうまくあの場をおさめればよかったのか?
くり返しになるけど「何もしないヤツラのため」に?
前世の俺、やられる側からすれば何もしないヤツラは共犯者だ。何かしてやる義理はない。
「言いたいことがよくわからないな。あいつらを救ってやれ?それともなんの考えもなく行動も起こさないヤツらを軽蔑すればいいのか?」
「どっちでもないわ。そういうものよって話なだけ。こんな風にした方がいいなんて言ったってどうせ聞かないでしょうし」
「そりゃそうだけど。なんだったんだいまの話?」
「さあ?でも王族はそういった無辜の民を導くのが役目なのよね」
無辜の民。
何もしないヤツラのことをそんな風に言うのは違う気がするけどな。
「うーん、わからん。とりあえずお役目ご苦労さん?」
「あら、ありがとう。誠心誠意役目を果たさせてもらうわ」
その後のキャサリンの授業は彼女と最初に目があっただけ。
ドジッ子が出るかと思ったけど全然きちんと講師して「出来る教師」そして俺はいないものとして扱われた。
キャサリンも何年前かの首席卒業で今は魔法師団の研究所長だから優秀さは間違いないの忘れてた。
そして俺には今日の講義レベルの内容が全然つまらないことをわかってくれてる。
地球の常識はこっちの非常識。
空気が存在しているところから始まって、俺にとって当たり前のことは生徒の半分以上に理解されずに終わった。
授業参観に出てる父兄ってこんな感じなんだろうなあ、と思いながら。俺も他人の顔で知らんぷりしてキャサリンの顔を見て過ごした。




