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第30話 生徒会室訪問

翌日は朝から図書館でいくつかの魔法関連の本を開いてみたけど。

すぐに飽きた。


本を読んでも頭に入ってこなかったから。

学院の図書は入学前から楽しみにしていたけど、なんだか今日の俺にはぜんぜんダメ。

昼過ぎまで適当に時間を潰してからフローラ会長と約束した生徒会室に顔を出した。


「やあきたね」

「お待たせしちゃいましたか?結構早めにきたつもりだったんですけど」

「なに、わたしが勝手に早くきただけだから気にすることはないよ。ユーリと早く会いたくてね」


ちょっと嬉しくなる。

今日も凛とした佇まい、でも包み込んでくれるような頼れる笑顔。

素敵な先輩と文字を書いたらルビはフローラ会長だ。


「昨日はあの後にヤラかしたみたいだけど、何があったんだい?」


やっぱり知ってるよなこの人。

生徒会長だし学院内のことは筒抜けだ。


フローラ会長に質問されたことで気づく。

昨日のことは生徒会の副会長としてはやっぱりまずいよな?

しかも指名されてすぐに校内で暴力行為。

立場的には俺がそういう事件を止める側だよなあ。


迷惑かけちまうならよくない。

俺のせいでイヤな思いをさせたくないから。俺はあったことをそのまま話した。

フローラさんは俺が話し終えるまで頷きながら静かに聞いてくれた。


「俺はそんなにやっちゃってますかね。どうも俺の常識とあいつらの常識が全然違う気がします」


「そうだなあ。やっちゃってるかと聞かれればやっちゃったなユーリ、だな」


会長はあいつらとは違って笑って答えてくれた。


「それでも私の心はユーリの考えに近いかもしれない。同じことをココではやらないけどね」

最後はアッハッハと口を開けて笑い出した。

美人が大きく口を開けて笑うとなんだかスカッとする。

ほんっとうになんだか。姉御なんだよな。


一通り笑うと俺の目を見て真面目な顔になった。


「ユーリ、ちょっと私の話を聞いてくれるか?」

「ええもちろんです。お説教ですか?」


会長のお説教ならまじめに聞くしかない。

俺の話をちゃんと聞いて笑い飛ばしてくれた人だから。


「バカを言うな。私は人に説教できるような出来た人間じゃないよ」

そんなことない。

会長より出来たヒトがここにいるとは思えない。


それから会長は自分の領の話をしてくれた。


「知ってる通りうちの領地は辺境にある。山脈と深い森があってね、Aクラスの魔物だって出てくる。ユーリはAクラスの魔物を見たことあるかい?」


「いえ・・・魔物はせいぜいスライムとか角うさぎくらいですかね。公園とかでも奥までいくといますよね」

フローラはうなずきながら話を続ける。


「Aクラスだとうちの騎士でも5人がかりだ。強い個体には鍛え抜かれた騎士たちでも敗走することがあるし死人が出ることもある」

「死人」

「そうだ。なるべくそうならないように隊列を組んで討伐にあたるけど、魔物も同時に何体も出てくることもある。大量発生していて取り囲まれてしまうこともある」

「死ぬんですね」

「そうだ。領主である父が討伐を命じた騎士たちが死体になって帰って来る。きれいな死体ばかりじゃない、敗走して後日回収するしかなければ動物たちに喰われて腐ってボロボロになって帰って来る。見た目も匂いもたまったもんじゃない」


その言い方でわかる。

そんな日常が当たり前だから言える。

明日にも自分に順番がまわってくるかもしれない死がすぐそばにある生活だ。


「それだけじゃないぞ。北の帝国が定期的にちょっかい出してくる。国境での防衛線だからこちらは防壁で守る側だけどね。それでも負傷者も死人だって出ることがある」


王都では感じることがない現実だ。

そしてフローラからすればそちらが日常で見てきた生活だ。


「死んでしまった人たちをみるとどうしても考えてしまう。人は頑張って、頑張って。何とか死なないように必死に生きてそれでも死んでしまう。寿命の最後まで生き残るなんて奇跡じゃないかと思うことがある」


「ええ。そうです」


「だから、生きてるものはみんなで「生きてること」を大事にして助け合う。自分ができることをする。力があるものや体が大きいものはその力をみんなを守るために使う。頭のいいやつは医者になったり商売をする。自分の力を自分のためだけに使っていたら厳しい辺境では誰も生き残れないのだから」


「はい。わかったようなふりはできないですけど。でもわかります」


彼女は嬉しそうに頷いてくれた。

「体の大きい者や力の強い者が、敵ではなくて味方を脅すために力を見せつけるなら論外だ。私欲のために集団で仲間を追い詰めるなんてもっての他のことだ。どちらも簡単に事故を起こす。体も、心も。そして下手をすれば死ぬ。死ななくても心に深い傷がつくかもしれない。死ぬまでその子を追い詰め続ける傷ができる。その傷は目には見えないのに」


その通りだ。

あいつらは自分達が人を殺すかもしれない、傷づけるかもしれないことをやっていた。

気づいてないから余計に腹が立つんだ。

そのくせ自分たちは当たり前の顔してやがる。

悪くないヤツが傷ついて、くそ野郎どもは自分が正しい顔をするんだ。


「そんなヤツラはぶん殴られたってしょうがない」

「・・・ありがとうございます」

「すくなくともうちの領地なら、相手が気を失うまでぶん殴ってもとがめることはない。その辺りで止めるけどね」


フローラはゆっくり立ち上がると俺の席へとまわってきた。

俺の横に座ると顔を近づけてジッと目を見られた。


「とは言え。いいかい?」

「は、・・・はい」


「違う見方をすれば、これは単なる子供の喧嘩だ。打算まみれで悪質だけど」

「そう、なりますね」


「そしてここは王都だ。人の生き死にからは大分遠い世界だ」

「ええ」

「私"達"からすると大分ね。それだけはわかっておいたほうがいいかな」


・・・なぜ?

「なぜ俺が入ってるか教えてもらっても?」


「簡単だよ。キミの考え方もやり方も辺境のみんなに近いから。死ぬか生きるかが背中に張り付いて敏感になってピリついているから。だから」


図星すぎる。

こんなヒトがいるのか?

それとも何か知ってんのか?


前世の中身を俺は誰にも話しちゃいない。

それならば。

わかるヤツにはわかるってことか?


「だから生き死にに関わることをしてるヤツらが納得できなかったんだろ?」


「人を殺そうとしてるヤツは自分が殺されたって文句言えないからね」


「むしろユーリとしては手加減したのかもしれない。誰も気づかれないけども」


諭すようにゆっくりと、俺の気持ちを代弁してくれる。

俺はだまって聞くしかできなかった。


「そうです」


「そうか」


「そうです」


何故だかポロポロと涙が出た。

恰好わり、と思ったけど。わかってくれる人がいて心の中がうれしくて涙がでた。


フローラが俺の頭をギュっと抱きしめてくれて、もっと涙が止まらなくなった。

俺の涙が止まるまでずっと抱きしめてくれた。




「俺、副会長を辞退しようと思います」

この人には迷惑かけられないなと思ったから素直に言葉が出た。


「そうなのか?じゃあ私と二人でゼクシー講師のところへいこうか」

何の反対もなく。

そのまま受け入れてくれる。


「いえ俺一人で結構ですよ。そこまで迷惑かけられないんで」


自分でヤルっていったことをナシにしてもらうんだ。

これ以上迷惑かけるのはガキみたいで恥ずかしい。実際に今はガキだけど。


「そうは言ってもな。ユーリが辞めるのだったら私も辞めるからやっぱり一緒に行った方がいいだろ?ゼクシー講師も手間が一度ですむ」


「何言ってるんですか?フローラはダメでしょ?」


口に手をあててクククと笑われた。


「じゃあユーリもだめだろ?やめられると私が困る」


ナゼでしょうか?


「なにいってんですか、ほんとに」


「キミが悪いことをしたなら止められなかった私にも責任がある。キミは副会長で私は会長だから。だから一緒にやめるだけさ。それに生徒会を一人でやるのは結構大変なんだ。ユーリがいないならもう1年なんてやってられないよ」


ホントになんだんだよ。

引き留められたわけじゃないけど、そう言われたらやめられないじゃないですか。

「迷惑かけちゃいますよ。どうやら俺は暴れん坊なので」


「私のことを気にする必要はないよ。どうしようもない迷惑がふりかかったら学院をやめて愛しい領地に戻るだけだから」


俺のせいで学院やめちゃダメでしょう。

そんなこと俺がさせないけど。


「ユーリと一緒にね。昨日言ったろう?」


「なっ」


「じゃあ、その日が来るまでは一緒に生徒会でもやって人生の時間をつぶすことにしよう。それでいいだろう?」


覗き込まれて見つめたのはとても真摯な瞳だった。

こんな目で言われて答えなんて決まってる。


「どんだけ俺をホレさせるつもりですか?」


アハハハハ、と屈託のない笑顔でフローラは笑った。


「そう言ってもらえると嬉しいな。ユーリからの求婚ならいつでも受け付けるから声をかけてくれ。楽しみにしてるよ」


ホッペに軽くキスされた。


そんなことされたら本当にホレるってば。


今日の午前中にもう1話更新します。両話ともすっきりした長さ(すこし軽め)ですので読み応えアップ。

お楽しみくださいませ。


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