第27話 仲直り?
教室がザワついてる。
入学式で代表挨拶した主席が次席の第二王女といきなり喧嘩を始めればそうなるよな。
この冷めた空気がちょっとシンドイんだけど。
ボチボチ教師に来て欲しい。
ソッポを向いて窓の方を見ていると、後ろの席からソフィアが俺のとこまで来て身をかがめる。
「あんた何やってんのよ」
小さな声を耳元でしゃべられるとこそばゆいんだけど。
「何もしてない。してないけど、ちょっと話したらなんかこうなった」
「相手誰か知ってるの?」
「一緒に勉強しただろ?第二王女様だよ」
言った瞬間にシャルロットはこっちをキッとにらんだ。
なんだよ聞いてんのかよ。
「二人とも一番前の席だから気づいてないかもしれないけど、みんな聞こえてるからね。今ザワザワしてんのって二人が喧嘩はじめたからだからねっ」
え?俺のせいなの?
「みんな言ってるわよ。氷の第二王女と侯爵家の暴れん坊が喧嘩始めたって」
おいおい。
それって俺が悪役だよな。
でもただの喧嘩だろうと王女に対してだったら俺が悪役だよなあ。
これが階級社会か?
それとも結局男は女には勝てないって話か?
なんでこうなんだよ。
向けたくない顔を意志の力でギ・ギ・ギ・・・シャルロットの方へ向けると満面の笑顔で微笑まれた。
「あらどうしたのユーリ?怖い顔しちゃって」
く、くそったれ。
にっこり「しょうがないからここで手打ちにしてやるわ」って笑顔に黒さが混じっている気がする!!
「これは地顔だよシャルロット。キミの笑顔には叶わないな、は・は・は」
よく聞けばわかる嫌味つき。
「何いってるのかしら?私は友人には優しいわよ。そうでしょう?」
おう、さすが黒王女は追い詰めるスキを逃さねえな!
この状況から助けてくれるなんて大した優しさだよな!
「そうだね友人には優しいんだろうね、シャルロットは!」
俺には優しくないけどな。
何だこの微妙な攻防は。
シャルロットのこめかみに血管が浮いてきているように見えるのは気のせいじゃないだろ!
「これからよろしくねユーリ!」
「これからよろしくなシャルロット!」
完全なる茶番が展開している。
そして教室は静謐につつまれた。
しーーーーーーん・・・
これも俺のせい、かよ・・
「わ、わたしもよろしくお願いします。シャルロット王女」
それまで俺達の会話を聞くだけだったソフィアがシャルロットに挨拶してくれた。
ソフィア、ナイス!
これ以上直接やりあうと不敬罪で捕まる。
それより他のヤツラもなんかしゃべれよ。
初動間違えると友達できねーぞ前世の俺みたいに。
俺にツレができなかったのはそれだけじゃなかったけどな。
「わたしのほうこそよろしくお願いしますわ。ランドラスター男爵家のソフィア様。ユーリとは同じ家庭教師について勉強をされたお仲間と伺ってますわ」
俺はそんなことしゃべってない。
「は、はい。わたしのことなんか知って頂いてありがとうございます。わたしは様とか呼ばれるものじゃないので、ソフィアと呼んで頂ければうれしいです」
「じゃあ、わたしのこともシャルロットと呼んでくださる?」
おいおい。ソフィアにまで無茶言うなって。
ちょっと彼女が固まっちゃっただろ。
すぐに持ち直したけど。
「さっきの二人の会話耳に入ってしまったのですが。この教室の全員の耳に入ってしまったとは思いますが、その理屈ですと王女より成績が良かったユーリしかそんな風に呼べないと・・・」
「それは考えすぎですわ。さっきはこの考えすぎの猛獣、あら間違えましたわ?ユーリとの会話上そんな話をしただけですのよ。学友にはシャルロットと呼んで欲しいですの、ソフィア」
誰が考えすぎの猛獣だ!?
って、もう怒るよりツッコミな気分よ、ほんと。
どうだっていいわ。
「そんなのむムリです!ですのでシャルロット様と呼ばせてもらいますから」
「あら残念ね。じゃあもっと親交を深めればきっと名前で呼んでもらえるようになりますわよね?ソフィア様」
「ひ、ひええええええええええ。やめて、やめてくださーーーーい!」
ソフィアがバグりはじめたので席に戻るように促す。
これだけ教師が入ってこないってことは。
ガランッ。
ソフィアが席につくのと同じタイミングで教室の扉が開いた。
やっぱり生徒が落ち着くのを待ってたな。
ケンカ結構自分でケリつけろってつもりだろどうせ。
「待たせて悪かったな。俺が担任のゼクシーだ。よろしくな」
「こちらこそお待たせして申し訳ない「です」「ですわ」」
俺とシャルロトが同時に声を上げたんでハモっちまった。
こいつもわかってるよな当然。
「なんだおまえら仲がいいな。さすが主席と次席だ馬があうってヤツだな」
「そんなこと「ありません」「当然ですわよ」」
「演劇か?デュエットか?コントか?」
「「違います!!」」
うまく誘導されたのかコレ?
「この特Aクラスは学年の中でも特別だからな」
筋肉質の先生の顔には頬に斜めで傷が残っている。おそらく魔獣につけられた傷だから冒険者だったか兵士だったのか。
ハンサムじゃなくて男の顔だ。
モヤシでも威張りちらした貴族って感じでもない、現場を経験してきた顔。
俺には親しみがもてる。
「このクラスには王女がいる。侯爵家の息子も子爵家の娘も。他にもよりどりみどりだ。そして平民もいる。さらには・・・」
俺とシャルロットが見つめられる。
なんだ?
「この学年の主席と次席がいる。息がピッタリな二人だ」
クスクスと笑いが起こる。
ネタにされたけどもう腹を立てる気力もない。
いいんじゃね、お楽しみいただいて。
「この学校の中では親の爵位は関係ないから勘違いをするな。これは国王にも認めていただいたこの学校での公認ルールだ。そうでなければ俺の首はすでに胴体とおさらばしている」
シャルロット王女の方をわざとチラリとみて、自分の指を首に中てて左から右へと引っ張る。
さすがに優秀な教師だ。
教師というのは俺達をネタにして笑いをとる下衆しかいないと思ったけど。
「ここにいるのは教える側と教わる側。そしてお前達は同じ場所で学ぶ仲間であり、同時にスタートラインに立ったライバルというそれだけだ。あとは自分達で考えてやりたいようにやればいい」
講師は俺達にむけて手のひらを立ててウインクする。言葉に出さないけど意味はわかってる。
他のみんなは、講師が王女に対してそんなことを言うなんてと思ったろう。俺のことはおいといて。
それだけこの学校内のルールは公然なものだと宣言したようなもんだ。
王女はさも当然だという顔で平然としている。
「上に立つ者の義務ですわ。お気になさらずに」
ボソリとこぼした言葉は周囲には聞こえてないだろうけど講師には聞こえるのだろう。
「俺は担任だがお前達にアレコレというつもりはない。ここは王国最高峰の学校でこのクラスは学年トップのやつらが集まったクラスだ。自分達で考えて動いた方がおまえたちも経験になるだろうしやりがいがある。そして俺も楽だ」
ここでも考えろ、か。
自分達で考えて自分達で動く。
俺にすりゃ当たり前だけど。でもこいつらガキにできんのかね?
「これからクラスの委員長と副委員長を決めてくぞ。俺がやるのはここまでだ。そこから先はまかせるからな」
やっぱり俺か?
どうせこれまでの流れだと俺なんだろうけど。
俺が委員長で王女が副委員長か?
めんどくせーな。
「シャルロットが委員長やってくれ。副委員長はおまえが選べ」
シャルロットはさも当たり前の顔をして立ち上がり、振り返って教室の学友へ優雅にお辞儀した。
俺じゃなかった?
「ご指名いただきましたシャルロットですわ。もし私が委員長ということに不服がおありでしたら今おっしゃっていただくと助かりますけれど」
シン、と静まり返る。
誰も返事しねーし。
これじゃいいとも悪いともとれて、どうにも気持ちわりーな。
王女様にたてつけるヤツもいないだろうし受験も次席だから文句付けようもないだろうに何なんだ。
なぜだか俺じゃない理由はわからないけどそこはラッキーで。
俺が拍手しようと手を上げると、先に後ろから誰かがパチパチ、と拍手を始めた。
俺も拍手して拍手は二人。
それから何人も拍手しはじめたから結局クラスで半分くらいは拍手した?
「過半数の方から拍手で同意をいただきましたので1年間お役目をお預かりしますわ。ところで副委員長はダレスさんにお願いしたいのですけれど」
ダレス?
誰ですそれ。
「大丈夫ですよ。これも成績上位者の義務ですから」
俺の横、シャルロットと反対側に座っていた優しい感じの男が立ち上がった。
席順からすると3位入学者なんだろ。
「あとソフィアさん、書記という名目でいろいろとお手伝いしてくださらないかしら」
「わたし??もちろんご指名でしたら手伝わせてもらいますけど。いいの?クラスの端っこだよ?」
「みなさんとの調整役ですからこの役はあまり成績は直結しませんわ。それより私の仲良しさんがいてくださると助かりますの。ね?ソフィア?」
これもさっきの教師と同じか?
普通に考えると順番的には順位4番の子なんだろうけど、もう4番も5番もかわんねーだろ。
一応はそいつらに気遣いして「学力には直結しない」と言葉にして。
ソフィアがナメられないように名前呼びで王女と仲良し、と先に牽制したわけだ。
「ならそういう体制で頼む。さっそく他の委員も決めておいてくれ。首席のユーリはこのまま俺と一緒に進路指導室だ。委員長、コイツは全ての委員からはずしておいてくれ」
「心得ましたわ」
ニマニマとこっちを覗き込む上目使い。王女様ってタチ悪くね?
「頑張るのよ?ユ・ウ・リ」
くそったれめ。
なんで上から目線なんだよ。
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