第26話 入学式と初喧嘩
「・・・日々精進してまいります。本日は私達新入生のためにこのような盛大な式典を開いていただきまして誠にありがとうございました。新入生代表、ユーリ・エストラント」
入学式当日。
講堂に集められた俺たちは両親や在校生に見守られながら式に参列した。
やっぱり俺は首席で、そして代表挨拶で名前呼ばれた。
挨拶の内容は学院からは放置されてしまう。アンチョコとか事前に確認してくれるとかないのかよ。
いきなり名前を呼ばれてハイどうぞ、ってところがエリート校というか。できて当然だろ?と言われてる感じ。
なんとか暗記したあいさつ文をかまずに言えたけど、どうだ?声も裏返んなかったぞ。
さわやかな笑顔、言語明瞭で強い希望を感じさせる口調、姿勢、目線、所作!!!
こういうのってただうまくしゃべってりゃーいいって思ってたけど。とにかくアレ気をつけろコレ気をつけろって。
俺の両親は大喜びしていたしキルリス学院長はたまにからかいに来たけどそれだけ。
まともに練習の手伝いをしてくれたのはキャサリンとソフィア、そして執事長のセバスだけだ。
いくらエリート校だってガキにこれ求めるのってアリなのか?
俺の挨拶に会場から一斉に大きな拍手が飛び交った。
好評だったようで一安心して会場を見渡す。有名な顔だらけだなんだよココは?国のお偉いさんの吹き溜まりか?
王妃様、魔法学院長兼師団長、うちの父親は侯爵で宰相。
他にも貴族が何人も来ているけど同級の親か?
「例年にない立派な口上でしたな」
「ええ、自信と誇りに満ちた良い挨拶でしたわ」
「これでこの学年の未来は安泰ですわね」
「答辞をしていた首席の子は宰相のご子息で2属性持ちらしいですわよ」
「あらやだ。うちの娘をもらってくれないかしら」
「娘さんをお持ちの親でしたら皆思ったでしょう、それほど素晴らしい口上でした」
「ほんとほんと。将来が楽しみですわね」
聞こえてんだけど。本人に。
めっちゃ恥ずかしいんだけど。
また俺やりすぎたのかコレ?それともお世辞?どっちだよ
席に戻って同じ新入生のヤツラを見渡すと、俺には関係ないってヤツが半分以上。
俺は一応お前らの分も代表したんだけど。とは思うけどそんなもんだよな、自分もそんな感じだったし。
どんだけ出来るのアイツ、へー、みたいにしか見てなかった。
むしろ噛んで慌てたらおもしれーなくらい。
生徒の半分くらいは納得してくれたっぽいヤツ、嫉妬っぽいのが半分。
さらにそのあとの一部はなんだかそれぞれ。
ソフィアは友人だし両手を握りしめて嬉しそうに目をキラキラさせてる。
練習つきあってくれてサンキューな。なんとかやったぞ俺なりに。
目が合うとガッツポーズしてくれた。
貴族の令嬢がハシタナイって叱られそうだけどそれが彼女のいいところ。
やっぱいいな。わかりやすく味方がいてくれるのって。
前世じゃずっと一人だったから。
あとは俺の隣の女の子が・・・シルバーの髪がきれいに縦ロールしてる美少女が、キラキラした目で俺を見上げてくる。
俺も背が高い方じゃないけど、その俺を見上げてるんだから小さい子だ。
「素晴らしかったですわ」
初対面なハズでも普通に話してくる。
世の中の子供ってみんなこうなのか?俺にはわからん。
「う・・・ん。ありがとう。緊張したよ」
「全然そんなことなかったですわ。堂々としてましたわよ」
「そりゃよかった、あれ自分じゃわかんねーから。あっと失礼だね、ちょっと言葉が無作法で」
どうみてもいいとこの貴族の娘さんだよな。
最近年上にも普通の言葉で話してるせいか。子供相手だと良くない言葉遣いになる。自分で気付いちゃいるし気を付けてるつもりだけど。
あのロールに高貴な雰囲気はどう見てもいいとこの貴族の子供だろう。油断するとロクなことにならない。
「かまいませんわ。同級生ですしこれから1年間お席も隣同士ですもの。お気楽にいきましょう?」
お上品なお嬢様のお言葉、おほほほほ。
頭の中では「おおおおお」なんて叫びながら。でもちょっと待て今のは聞き流せなかったぞ。
え?もう席まできまってんの?
するとこの娘は?
「私は入学試験の次席でシャルロットよ、よろしくねユーリ」
聞き覚えある名前。
うーん。
どこで?
わかんないことはすぐに聞くこと。聞くはなんとかのハジ、聞かぬは・・・うん。
こういう時は堂々と平気なフリして尋ねるが良し。
「OKシャルロットその方が俺も助かるよ。ところでちょっと気になることを聞いてもいいか?」
「あら、何でもどうぞ?ユーリ」
「シャルロットは王都に住んでるの?」
一瞬不思議そうな顔をした少女はケラケラと笑いだした。
「そんなこと聞かれたの初めてよっ!そうだけど。どうして?」
涙がにじむほど面白かった?どこが?
この流れ。それなら俺の頭の中に入ってる貧弱な貴族名鑑でも答えは一つしかない。
今の大笑いも理由がわかる。
ああ、うん。
「俺の知ってる範囲だけど。この王都に住んでるシャルロットって名前の高貴な家柄の娘さんは一人しかいないけど」
「ふふふふ。そんなに他の女の子の名前を知ってるの?女の子泣かせなのね?」
「そうじゃなくて、その話は置いといて」
壇上からはウホンッ、と学院長席のキルリスが咳払いをする声が聞こえた。
すぐ目の前で騒がしい主席と次席、最前列のど真ん中で目の前。
教授達がこっちに注目してるのに気づかなかった俺達がおかしい。
顔をあげて不敬にならないように気を付けながら王妃様を見てみる。バッチリ目があった。
・・・そして微笑まれてウィンクされた。
「ギャッ」
俺の予想は的中したらしい。
声が出たせいで、またもや一斉に注目された。
やめてくれ。
目立ちたくないんだってば。
王都に住んでる貴族の家族はチェックしておくのが嗜みだとさ。
所属する派閥や近況くらいは抑えておかないと、どこで誰と会うかわかったもんじゃない。
受験がおわった直後からキャサリンとセバスに貴族名鑑を叩き込まれた。
受かること前提で入学の準備。
完全に不合格間違いなしの受験生以外は受験が終わっても勉強が続く。
家庭教師はそこまでが役割だと。
入学が決まって家庭教師が終わった後も、キャサリンはなんやかやと世話を焼いてくれる。世話焼き姉さんでドジッコの妹。
最初に出会った頃のドタバタとはうってかわって、何でも相談にのってくれるしガキの俺が言うことでも真面目に対応してくれる。
それにちょっと美味しい食べ物とかレストランとか連れて行ってくれて、二人で街へと出かけるのが最近ブームになってる。なんだか餌付けされてる感ありだけど楽しいからよし。
俺なんかにかまってないで彼氏とデートでもすりゃいいのにってふざけたら「え?これってデートだよね?」と真顔で返された。
社会人は金持ってる。
今度入学できたお礼しないと。
そんなありがたい教えを思い起こすと、シャルロットという名前は貴族名鑑の最初のページに出てきた名前しか思い当たらない。
当たり前すぎて二度と開いてないページ。
実物と会ってもピンとこなかったというか、俺なんかが関わる名前だとは思ってなかったというか。
「第二王女 シャルロット・アステリア」
バリバリの王族。
まだ年齢的にパーティデビューしてないから顔知らなかった。ただの言い訳だけど。だって王女様だし。
もちろん俺もデビューなんてしてないし。
王族は幼いころから優秀な家庭教師について教育を受けるから頭が良いのも当然。
国の中で「その道の一番の」先生達の特訓を幼いころから日常的に受け続けるのだから。魔法関係はキルリス本人か魔法師団の副官くらいが講師だったのでは。
だったらもっと鍛えておけよそのせいで俺が主席なんかに、なんて思っちまうのはまずいのだろうけど。
入学式の後は、自分達の教室に行ってこれから世話になる担任とご対面。
席次も決まっている。
俺の席札は最前列のど真ん中。
かんべんしろや。
勉強したいヤツはしらん、でも俺の中じゃ一番の「ハズレ」席だ。
俺の希望は一番後ろの窓際なのに。今までずっとそうだったのに。
なんと俺の昔の指定席にはソフィアが座ってるじゃない。
いいなー。
窓の外から風景や空を見れるの羨ましいなー。
時間が雲と一緒に流れてくし。
「それで先ほどは何をお尋ねでしたの?」
ああ縦ロールがゆれている。
こんなに長い髪をあんなにきれいに結い上げるのなんてメイドさん何人がかりだろうか。
態度にも服装にも動きのひとつひとつに気品を感じる。俺なんかでもわかるくらいに。
「第二王女様、なんでしょ?」
言ったとたんに彼女は「げーーーっ」と舌を出して嫌な顔した。
やっぱり当たりだったみたいだけど、王女様がそんなはしたない顔しちゃダメでしょう。
「少なくともこの学校の中ではただのシャルロットですわ。学校の外で私に声をかけるならそう呼ばないと不敬罪で捕まってしまうかもしれませんけど」
ツラッと怖いことを当たり前のように、面白そうなイタズラっ子の顔する王女様。
そりゃそうか13歳だもんなー。
「そうね、私が普通の子供でいられるのは多分この中だけだから。だから、普通の友達でいてくれないかしら?」
美少女からちょっとだけ切なそうにお願いされる。
この学院を卒業した後は、国民だとか政策だとか大それたモノを抱えていかなければいけない女の子。
それを思うとちょっとだけ叶えてやろうかとも思うけど。
「そうかな?それでいいのか?」
そんな顔でお願いされるとそうかなとか思っちまうけど、冷静に考えるといいのかこれ。
「他の方は知らないけど、あなたはそうしてくれると嬉しいですわ。なんといっても私より成績上位者ですもの。この学校の中では親の爵位も家柄も関係なく実力が全てと聞いてます。私を呼びすてにしても問題無いハズですわ」
それ本当か?
いやそれって、本人同士はよくてもまわりが許すのか。
「ほんとにそうなのか?なんか王女的に希望的な観測入ってないか?」
「・・・多分」
ぐっと睨むと、ニッコリ笑われた。
「あなたなら大丈夫でしょう?学院長を殴り飛ばしたと聞きましたし。それに比べれば大したことありませんわ」
ちょっと?
いや、いや、いや。
なぜ知ってるの?
王族ならキルリスからの報告を王様経由で知ってるかそりゃ。同学年の危険人物の情報ももちろん聞いてるだろうけど。
俺が暴れん坊だからいいワケないでしょ。
「そこじゃなくて。キルリスをぶっ飛ばすのと王族を呼び捨てにするのって話が違うんじゃない?どっちが不敬なんだコレ?」
彼女はわざとらしく頭に手をあてた後に両手を広げて頭をふった。
言われなくても「あらあら、そんなことも?」とゼスチャーでわかりやすいぞこのやろ。
「どっちも不敬にきまってますわ。学院長の件は不敬罪より暴行罪ですけど、そこは喧嘩ということになってますし。学院長は王の右腕ですから貴族の前で呼び捨てにするのはやめた方がいいですわ。足をすくいたいクズの大人たちが大勢いらっしゃるから」
ニンマリした顔で薄暗いことを平気で話す。
こんな会話をすることも滅多にないから?
嬉しそうに話すのが止まらない感じだ。
「それなのに、そんな重要人物の学院長をぶっ飛ばしてコテンパンにするなんて。聞いたときはびっくりしてお茶を吹き出しちゃっいましたわ!そんな無作法なこと生まれて初めてで今のところ最後なのに!!おかげでそれから1週間は午後のお菓子抜き・・・」
上がったテンションだだ下がり、ショボン。
え?王女様にとってのお菓子ってそんなに重要なの?
っつーか悪いの俺なのか?
それにしても思ったよりアクティブで明るくて黒い部分がほのかに見える。
なんて考えるとこれも不敬だな。
「だからいいのよ。あなたは私を名前で呼ぶ。私もあなたを名前で呼ぶ。学院の主席と次席が友人として名前を呼び合うのに問題はありませんわよ」
きっぱりと言い切られても。
「・・・しらねーからな、面倒なことになっても」
その面倒がふってくるのはどうせ俺だけに対してだけど。もう他も含めていろいろ降りかかりすぎてどうでもよくなってきた。
呼ばなきゃ呼ばないで面倒そうだし。
いっか?ひとりだけ呼び方変えるのも面倒だしな。
「それで俺達って主席と次席で何すんだ?あの答辞を読んだだけで終わってくんねえのかな」
口に手を添えてクスクスと笑われた。
「そんなはずは「絶対に」ありえませんわよ。特に「あなた」は」
なんだその強調。
「なんか知ってるよな?俺は知らないところで勝手に決められるのって嫌いなんだけど」
顔に出ちまってると思う。
知らないところで勝手に決められるのは許せない。
俺はコマじゃねえぞ。俺のことを決めるは俺だけだ。
勝手にちょっかい出してくるなら、やるならやっちまう。
「そうね。それだけあなたにはまだ力が無いし、守られてることもわかっていない子供ってことですわ」
ちょっと待て。
俺の半分も生きてないガキが何を言ってんだ。
「自分はわかっているつもりなんだな。うまく利用されてるヤツが思いこまされてる典型的なパターンだ。せいぜい気をつけろよ第二王女様っ」
ガキの言い合いってわかってんだけど。
トガった言葉でやり合ってると止まらなくなっちまう。
「ガキね」
「でもおまえよりは自由だぜ御姫様」
売り言葉に買い言葉。
俺もむかついて相手も頭にきて。
「もう、知らないからねっ」
「そりゃあお互い様」
とまあ、入学初日のわずか10分で第二王女と喧嘩しちまった俺だ。
俺、わるくない、よな?
な?
『つーーーーん』
GW締めくくりの更新は文字数多めですごゆっくりどうぞ。
今晩の更新も行う予定ですが遅くなります。