第25話 納得いかない
ソフィアを迎えの馬車まで送っていった後。
彼女はもっと一緒にいたいみたいだけど、笑顔で馬車に押し込んだ。今はそれどころじゃない。
彼女はご両親にも報告しなきゃいけないでしょ。
こっちのご両親さまはどうせもう知ってるだろうから放置。
俺は俺で話をつけなきゃならんヤツがいる。
なんならいますぐこの学園を舞台にドンパチはじめることになってもしょうがないだろう。今回は容赦しないよ?眉間にポッカリ大穴あけてみせるよ?
校舎の中に入っていくと廊下はガランとしていて生徒も講師も姿が見えない。
今日は年に1回の合格発表日、通常の生徒はお休みだ。
おかげで余計な気を遣わなくてすむ。
まだ学院の生徒じゃない部外者だから。他の生徒にみられないからこの方が都合いい。
受験の日にも訪れた部屋の前。
扉の上には「学院長室」と書かれた札。
さあこの部屋の主がどんな言い訳をしてくれるか楽しみだ。
「よう」
扉を開けると、キルリスの顔には「やっぱり来たか」と書いてあった。
あたりまえだ。
「随分な仕打ちじゃない?」
キルリスは何も言わずにソファを進めるので、わざと荒っぽくドスンと座る。
俺は腹が立ってるんだよ。
「首席って俺をそんなに目立たせたいの?それともなんかで俺を利用しようとしているの?」
「それを言いに来たのかい?」
「ああ、なんでこうなったのか知りたいし。次席って話でも十分迷惑だと思ったんだけど首席って何?」
確かに言ったよな?
あんたが次席にしてくれるって。
首席じゃなく!
「受験生に合格選考の話をするのもどうかと思うけどね?」
「そりゃそうでしょう。別にそんな話しなくてもいいですよ、俺が納得できる説明をしてもらえれば」
キルリスの顔には「相手にしたくない」書いてあるけどそうはいかない。
目線をそらしたら負けだ。
俺が絶対にあきらめないと感じたのか。
やれやれとクビをふると受験選考の話をしてくれた。
「実技はキミがダントツトップ。これはいいだろう?なにせ自分でやったことだし」
「ええ、そこは反省してますよ。だから次席って話も受け入れましたからね」
「問題は学科にもあったのさ。ほどほどの点数をとろうとしたのはわかるけど、もう少し考えてやってくれないもんかね」
「はあ?」
何を言ってるのやら。
少なくとも学科はトップクラスではないはずだ。
自分で言うのもアレだけど、例年のトップ合格者と平均点のちょうど中間くらいのまあまあな点数に「調整」したのだから。
今回は試験の傾向が例年と変わったおかげで調整しずらかったというのはある。けどその分”普通とれる”ような問題はワザと間違えた。
出題者のひっかけたいポイントにいちいちひっかかって間違える手のこみよう。
それを見た試験官は、ああ、こいつは一応勉強したけどやっぱりココで躓いたか、と思ってくれたに違いない。頑張ったんだ、頑張って点数を落としたんだ。
俺的には完璧な回答だったはずなのに。
「今年の出題は例年のお受験試験から変更してあったのは気づいただろう?実践的で実社会に直結するような内容を多く出すように変更したんだよ。せっかくキミが入ってくれることになったんだからね」
「はあ?」
あ、もう一回言っちゃった。
いや確かに昨年までとはかなり傾向がちがってたけど。
「キミは確かに学科試験はトップじゃなかった。でも2位だ」
「はああああ?」
そんなバカな?
例年の合格者平均点はきちんと上回って、でもトップクラスには届かないようにしたハズだけど?
「まず、今年の生徒の得点はいっきに下がった。合格ラインも」
確かに試験傾向的にはイレギュラーな問題が多かった。
だからあれだけ勉強したソフィアも苦戦したんだ。
でも実践的とか言うけど、あんなの常識の範囲でしょう?
当然合格者はそれなりに回答してくるものと思ってたけど。
そこまで考えて気づいてしまった。
しまった。
そういえば受験生はモノを知らない世間も知らない貴族のボンボンしかも子供。
「ほかの受験生の点数が延びない中で、これまでの古典的な問題はわざとらしく間違えるくせに、新しく導入した実践的な問題は全てクリアした受験生がいたのさ!たいしたもんだよほんとうに!!」
イヤミ言われてる気がするぞ。
でもペーパー試験を思い出すとちょっと引っかかる。
自然科学、社会学、魔法学、数学。
これまでとはレベルと違うなあ、これじゃ他の受験生大変だなあ、でもそんなもんだろと思いながら予定していた点数にあわせたような気がする。
もっといえば試験問題が面白くって、結構必死に解いちゃった記憶がよみがえってきた。
ぶっちゃけるとちょい楽しかった。
すみません調子に乗ってました。
「で、でも社会学で『考察を書け』とかあったじゃねーか、あんなの点数はなんとでもなるだろうに。思いっきり点数下げるかバツにすればいいじゃないか」
「社会と経済と政治まで配慮した実践的な考察をありがとう。あの考察を本当の意味で書き切って新しい提案をしていたのはキミ一人だ。他の子たちは・・・筆記1位の受験生はそれなりに書いていたが、それ以外は全員が白紙か、せいぜい感想文だ。経済学や社会学の教授たちがキミとの議論を楽しみにしてるワケだよ!」
しまった、なのか?
あんな問題じゃあ点数なんてつけようがないでしょうが。
「実技系の教授達はキミを一押し。学科系の教授達の中でも実践的な教授連中はキミ押し。これまでの古典的な勉学を推す教授達は学科トップの子押し」
「い、いや、でもあんた学長だしそこは何とか・・・」
「口は出したさ。学科一位の子の方がいいだろうとね。だが実践的な教育を推し進めようとして教授達を連れてきたのが私なんだよなぁ」
そういえば以前うちの執事長から、こいつがいろいろと改革を進めているとななんとか・・・
キルリスが他の受験生を首席に進めた瞬間に、その実践的な教授連中がギロリと学長を睨んだそうだ。
「い、いや、いきなり首席だと彼にもプレッシャーとか、かかるとまずいっていうか・・・」
「それを言ったらもう一人の子も同じです!だいたい、実技はバケモノ級で学科は実践的、彼は何を学びに最高学府の魔法学院に入ってくるんですかね?彼はあなたの娘さんが直接家庭教師してましたよね、知ってるんですよね!!」
「え?それは、ほら、学生としての時間を味わいたい、とかじゃないかな?魔法師団にもまだあんまり興味ないようだし、は、は、は・・・。」
「なにいいいいいい!!!!!!」
それを聞いた教授連中が一斉に声をあげた。
師団の話は出すべきではなかったようだ。
「ほんっとーに、彼は何のために入ってくるんですか!!!学院での時間を有意義にするには、もう首席で学年をまとめる立場から経験を積んでもらうしかないでしょう!!そうじゃなかったら、実践の教科すべてで私達教授の助手をしてもらいますからね!!!」
以上、キルリスが白状した回想シーンから。
「・・・・ってことになってね」
また俺のせいなのか?
俺の時間がどんどんなくなっていくんだけど。
でも興味はわいてくる。
その教授たちと議論できるっての面白そうなんだけど。
つまらない学校だけの勉強なんて聞き流し確定してたけど、そういうことだったら話をしてみるのは楽しそうだ。
いや、してみたい。
俺が知りたいことが知れそうな予感がビンビンする。
「まあわかった、いや、わかんねーけど、これしかないってのはわかった。ただ、いいのか?俺が目立つとあんたも都合悪いんだろ?」
「本当に予定が狂った。誰かさんが受験で想定以上にはっちゃけてくれたおかげと、あとは」
なにい?
「僕の力のなさのおかげでね。私から言うのも何だけど、お互い自業自得というわけだ。本当に退屈しないよキミといると」
「ざまあみろって言いたいけど実際に困るのは俺だろ?なんかフォローしてくれんのか??」
主席になってしまった、しょうがないあとは放置。とかじゃないよな?
なんとかしてくれんだよな?
「いろいろさせてもらうよ。さっそくだけど助言をひとつ」
「なんだ??」
「これからキミのまわりにはいろんな人間がうろついて接触してくる。間違いない。キミに好意をもつもの、悪意をもつもの、嫉妬するもの、利用しようとするもの。縋りつくもの」
利用されないためにココにいるのわかってんのかコイツは。
逆効果じゃねえかよこれ。
「だからイヤなんだけど、目立つのとか首席とか何とかって」
「ああ、学院はキミを全力で守ることを約束する。そしてキミにお願いしたい」
「なにを?なんか人間関係の細かいのって苦手だけど」
「あはは、そんなことわかってるさ。キミは堂々と自分が生きたいように生きてくれ、ってこと。下手に迎合することなくね。その方がキミにとっては敵ができるけど味方もできる。そして敵味方がハッキリした方が私達もキミを守りやすいから」
「わかったようなわかんないような。自分の思った通りに勝手にやれ、でいいのかよ?」
どこかの御使い様から頭の中で何度言われたことか。
「そうだね。そして何か困ったらすぐに教えてくれ。いつでもいいから」
「あんまり面倒だったら学院からバックれるからそのつもりでな」
「そうならないように気を付けるよ。ところで」
首席にしてしまったからフォローはきちんとする。
そう言ってもらえてホッとした刹那のこと。
油断禁物、コイツを信じてはいけないという思いが薄らいだせいだ。
「首席合格者には入学式で新入生代表の挨拶してもらうから。原稿考えておいてね、よろしく」
お、おま、今、面倒だったらバックれるって言ったのに!!
もしかして今日の会話はマルッとうまく言い含められた気がする。
大人はこれだから信じてはいけない。