第243話 星空を見上げて
個室の奥にあるドアから続くバルコニーは薄い灯りが足元を照らすだけで真っ暗だ。
並んだ木製のチェアまで案内されるとあとは俺達三人だけ。
正面は森でまっ暗闇だけど、見上げると満点の星空が俺達を迎えてくれた。雲ひとつない空には天の川がかかって星が数えきれないほど瞬いてる。
満天の星空に見とれていた俺達だったけど、落ち着いてからポツポツと会話を始めた。
「姫さんはここ数日どうしてたんだ?皇帝や4賢人たちと打ち合わせしてたのか?」
「そんな感じかしら。東と西で協力できるところはしましょうってすり合わせた感じ。わたしには交渉の権限がないから正式な条約を締結することはできないけどね」
姫さんはこちらの世界へ引き戻されたのだろう、ジトリとした目でゴルサットの方へと向きなおった。
「最初はひどいものだったわよ?友好的だったのは最初の握手だけでまずは西へのクレーム。ユーリを囲っているとか雑に扱っているとか」
どうにも理由がわからない。
なぜ東では俺の扱いがこんなことになってんだ?
ゴルサットとの友人関係は深淵の森以来だし、コイツの部下の兵士たちは仲のいい知り合い。酒をおごったからちょっと感謝してくれてる。たかがそんなことで、って気持ちだけど理解できる。
皇帝や宮廷のやつらはどうなんだろう?やっぱり国の安全のためにとか、俺と敵対しないよう気をつかってるか?それにしてはヤリスギだと思うけど。
一番わからないのは、その他のひとたち。
政治や外交なんて関係ない衛兵や街の人たちはなぜ俺のこと知っているのだろう?それに爆上がりの好感度はどこから来てる?
俺の疑問なんてゴルサットはとっくに察知してる。こっちを見て、わかっているからちょっと待てよと頷いた。先に姫さんの話からだ。
「シャルロット王女が皇帝に正面から向き合うて感謝しておる。ユーリに同行した目的とは違ってしまったろう?」
「そうですわね。それこそ東の皆様の思惑通りなのでしょう?」
ヒヤリ
冷ややかな瞳。
元々は俺が東になびかないように?くっついてきたハズだけど見事に崩されたな。
「東としてはユーリとじっくり語り合いたかったのだよ」
「わかっておりますわ?私が横にいればユーリは護衛者として西の立場で語ると見えてしまいますから。彼がいくら本音で発言をしても言葉を疑う人はいるのでしょう」
俺がシャルロットと一緒にいたとしたら?全く気にしないとは言えないかもな。
王国なんてどうでもいいけど、シャルロットの立場を邪魔するつもりはない。
「とはいえ勝手がすぎましたわね?随分とユーリの逃げ場をなくした強引なアピールに見えましたけど」
「我らには短い時間しかないからな。ハッキリと思いを伝えてユーリに選んでもらうしかなかった。ユーリを縛るなんの契約もないのだから、握手して何を宣言してもどうにもならんさ。ワシらはただ『想い』をユーリに向けて表明しただけなのだから」
今はわかるけど。
余計な駆け引きとか段取りとか、そんなことやってると俺達は帰っちまう。
そんなことをされたら俺は相手にしていない。疑わしいヤツを相手にする理由がないからな。
まっすぐに思いをぶつけてきたのだから俺としても話を聞くことができた。
あれだけ強引に、そのくせ直球でこられると俺としても話くらいは聞く。
まんまと乗せられたかもしれないけど、想いが本物なら気にならない。
「こうなるとは思ってましたけど東の方々のユーリへのお気持ちがどうも不思議ですわ?」
相変わらず交渉モードで冷めたままだけど、だからといって追い詰めている様子ではない。
東の皇帝たちに何を語ったのか、何を話し合ったのか、何を決めたのか。政治とか外交とかの話は俺がこの場で口出すことではないだろう。必要なことは後から姫さんが教えてくれる。
「ホント何なんだよいったいコレ?会ったことないヤツラばっかりなんだぞ?皇帝と手を握ったから東のみなさんとお友達ってことならヤリすぎだろう!それに言葉悪いけど皇帝より俺の方が皆さんから親しまれてる気がするぞ?」
特別扱い?チヤホヤ?
ズッと縁がないものばかりで居心地が悪い。
理由だとか想いだとか何かあるのだろうけど、何もわからないのにバカ丁寧に扱われちゃどうしていいのかわかんねーんだよ。
「その話をせねばならんよな?お主にはいろいろな想いや、感謝や、願いや、将来への希望、そんな東の国民の純粋な想いが全て刺さっているのだよ。でもな?だからといってお主がどうせねばならんものではない」
ゴルサットは話を区切って俺たちの方を向いた。
姫さんを見たのは強制しているわけではないと念押しだ。
「それは神に救いを求めて祈る人々の勝手な気持ちでしかない。死にたくないと祈っても死ぬべき時がくればヒトは死ぬ、神が何とかしてくれるものと期待する方がおかしい。そういうものではないか?」
コイツにしては話がまわりくどい。
言ってることはわかるけど、だから何を言いたいんだか。
こいつが『らしくない』言い方をするのだから、俺が重荷に感じないように気を遣ってくれてるのか。
いいから話せよ。




