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第236話 約束の時

「その説はお世話になりました。皆さんの今後の活躍と健勝を願って・・・乾杯っ!!」


並ぶテーブルにも長いカウンターにも。

ところせましと帝国の兵士たちがジョッキを掲げ、ガコンガコンと杯を打ち合わせる音が響く。


ごっごっごっ


のどを鳴らす音が何重にも聞こえてユニゾンする。

西も東も、どこでも兵士たちは酒が強い。

そしてすぐに ダンッ!!

空になったジョッキがいっせいにテーブルに、カウンターにたたきつけられた。


「おんなじヤツ全員分っ!!!」


随分と規律正しいのはやはり軍部だからか?

50人もいるはずなのに、ジョッキを置いた音が巨大な一つの衝撃音にしか聞こえない!


次々と注がれるビールがこれまた次々とお姉さんたちに運ばれて、のん兵衛たちの前に置かれた瞬間から中身が消えていき、さらに次のオーダーが入っていく。


「・・・なあ。おまえっていつもこれを奢ってんのか?」


もう笑うしかない。

横で自分もグビグビと酒をあおるゴルサットに聞いてみたが、こいつはこいつでひげの周りを泡だらけにしてご機嫌だ。


ダンダダンッ


今度はそれぞれのテーブルへと次々と大皿が置かれていく。

こんがり焼かれた七面鳥の丸焼きであったり甘辛くしっかり味付けされたボアであったり、魚介やエビをあげたフライであったり、串にささって濃いタレをかけた肉や野菜であったり。

野菜だって出てくるけど食べてみると中に肉が詰めてあったり。


とにかく物量で攻めてくる店。

特にタンパク質重視、つまり肉だ。

濃い味付けで酒を呑むための最高の料理。

酒飲みの気持ちのわかる店に悪い店はなしだ。


「まだまだ始まったばかりじゃぞ?夜は長いからの」


一番奥まったテーブルでは俺とジョバンが奥座に並んで、前にゴルサットとダソールが座った。通路側ではマスク隊長がさかんに注文をとりながら皿やジョッキを片付けて、料理がテーブルに載るスペースを作っていく。


「マスクさん俺も手伝うぞ」


俺が声をかける前にジョバンが寄っていき見事に拒否られた。

「ジョバンさんも来賓で大切なお客です。主賓の護衛者様ですので堂々としてらしてください」


「・・・」


ジョバンが何とも情けない顔。

立場的にはシャルロットが座る位置だろうし、目の前には帝国で皇帝を支える最高位の施政者4賢人が二人座っているんだ。そしてテーブルを拭いたり片づけたりしているのはゴルサット率いる親衛隊の隊長だ。

なぜこんなお偉いさん席に座ってんだ?俺は酒かっくらって大騒ぎしてる一般兵士側なんだがなあ、って気持ちが手に取るようにわかる。

俺もそうだから。


だが今回の俺はこの遠征隊の代表だからしょうがない。

そしてジョバンは俺の師匠らしいから逃がすわけにはいかない。俺一人残してトンズラしたら後で締め上げるって笑顔の約束したから大丈夫だ。


「ユーリ様っ!ジョバン魔導士っ!ご挨拶に参りましたっ!!」


ピシリと敬礼した彼は背が高くスマートで襟章から隊長クラスの武官だとわかる。

もちろん初見だけど酒飲みに垣根なんてない。


その彼もゴルサットの横に座るダソールを見て困ってしまう。

見られても誰だかわからない作戦は成功だけど、あいさつに来た側は挨拶するに相手の立場の人間がわからない。メンバー的に主賓が集まったテーブルに座ってるから、帝国側ならゴルサットクラスのお偉いさんだしそうでないなら西の来賓になる。


「気にせんでええワシの古き知り合いで同士よ。今日はゲストみたいなもんじゃから」


ゴルサットが声をかけたおかげで、武官の彼はホッとして口上を続けた。


「ゲスト様にも初めましてっ!私は第一小隊の部隊長をしておりますグラッソンですお見知りおきください!本日はわがゴルサット精鋭部隊へのお心遣い大変ありがとうございますっ!」


敬礼も指先ひとつまで隙が無い。アルコールが入ろうが完璧な挨拶、この隊長が有能に違いない。

わざわざご挨拶にきてもらって申し訳ないと俺も立ち上がって会釈する。


「わざわざありがとうございます。西の研究発表団の隊長をしていますユーリ・エストラントです。横にいるのは私の護衛をしてくれているジョバン魔導士。短い間ですがお世話になります」


手を差し出すとにこやかに握り返された。


「そうおっしゃらず、ぜひ末永くご滞在くださいっ!われらゴルサット親衛隊はいついかなる時でもユーリ様の親衛隊でもございます!」


はいっ?


ゴルサットを睨むと、ワシ知らんがな、と言わんばかりにバンザイ両手をあげた。

でも目が笑ってるから元の原因はコイツに違いない。


「おぬし良い心がけだ!!ゴルサットよ、いますぐこの若者を昇進させよっ!」


満足げに発したダソールの一言は一気に周囲を凍り付かせた。

気にせず酒を飲んでるのはジョバンくらいで、俺としては大丈夫かしら、というところだけど。


なにせ4賢人のひとりゴルサットを呼び捨てにしてる。しかも酒のたわむれとはいえ四賢人に命令したのだから。

宮廷ならダソールは先帝から今の皇帝まで賢人として仕えつづけている大先輩だ。

だけどダソールの立場をボカしているこの状況でそれはどうなの?と思ったけど、東のことだしとツマミに箸をのばすことにした。

大陸風の料理に混じって、和風の醬油の味がするものがあるのだから東の味は懐が深い。


「よしグラッソン貴様をユーリ親衛隊の部隊長に任命するっ!」

ゴルサットが勝手なことを言い出した。存在しない部隊を勝手に作るな。

ノリノリだけどなんだよユーリ親衛隊って。


「承りましたっ!ゴルサット親衛隊の第一部隊長と兼任いたしますっ!」


できる人かと思ったらグラッソンさん顔が真っ赤だった。

それよりマスク隊長がムッっとした顔でグラッソンを睨んでるのが怖い。

あなたはゴルサット直属でしょう?架空のユーリ親衛隊なんだから目くじら立てなくても。



適当だ。

適当すぎる。

みんな酔っぱらってるんだコレ。


「・・・なあ。この冗談いつまで続けるんだ?」


「さて冗談ではないぞ?4賢人の二人が合意しておるから決定事項だからの?皇帝陛下はダメとはいわんだろうから他の賢人が反対しても押し通せるしな」


コラコラつらっと4賢人が二人いるとか言うな。

周りも酔っぱらってるから聞き流されてるけどグラッソンさんと何人かはピクっとしたぞ。

すぐに『やっぱりかあ』って吞み始めたからそんなに気にしなくてよかったのかもしれない。

それよりも。


「ちょっと待て?まずそのユーリ親衛隊って何なんだナニする隊だ?」


「オヌシに従う精鋭部隊でそのまんまじゃろが?西では兵隊ひとり配下におらんし世界中で行動するなら兵隊がいるじゃろ?好きに使える部下ほしいじゃろ?」


なんだか『じゃろ』『じゃろ』うるせーこの酔っ払いめ。


「俺にもお前以外の知り合いがいたらいいとは思ってるし、いろいろ教えてくれる人がいれば助かるけど?待て待て違うだろそういう話じゃないだろ?どうして西の俺に東の帝国が部隊をつけてくれるんだよ」


おかしい絶対に。

酒呑んで頭のネジがハズれて飛んだか?


バカらしい想像だけど。この人たちに俺が「とつげきぃ~!」とか言ったら竜の群れに飛び込むのか?

いやもちろん俺は言わないけどな?

高い俺からすれば「ちょっと死んで」というのと一緒だし。


「ワシらはもう東とか西とか考えておらんし」


ゴルサットから何そんなつまんないこと言ってんの?くらいの口調で言われても。

だいたいあなたたちは東の皇帝直下の4賢人でしょ?

東の帝国を存続させて繁栄させる役目の人でしょ?


「だいたいダソールさんは東の為に人生かけてきたんでしょ?ゴルサットおまえちょっと失礼だろ」


「いえいえゴルサットの言う通りでございます。先代皇帝からわれらまで望みは東の民の安寧でございます」


「ですよね?おかしいですよね?」


「全くおかしくはございません。われらが民の安寧はユーリ様とともにあります。なんなら東の帝国軍の指揮権を握っていただいても・・・」


「ちょ、ちょ、ちょっと待てえええええーーーーー!!!!」


なんか、なんか、なんかおかしいコレっ!

客人に対するリップサービスがすぎないか?

こんなこと言っていると東の帝国の警備隊に不敬罪とかで捕まるやつでは?


「ああそうだ。東の帝国はユーリ教を国教へと宗派替えしようと思うんじゃが」


いいからちょっと待て!!!

心読むな、いや読まれてないけど、予想するなああぁぁぁーーー!


「「「了解しました、おまかせくださいっ!!」」」


なぜ遠くの席で飲んでるヤツまでここにいる全員が立ち上がって俺に向かって敬礼する。シェフもウエィトレスさんまでお辞儀しないでいいから!!


なんか俺この集団にはめられてない?

「「「そんなことはございませんっ!!!」」」


・・・ほらやっぱり。


後に狂乱の一夜と呼ばれる伝説の飲み会。

まだまだ宵の口なのであった。


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