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第235話 美味とは?

コポコポコポ


白磁の細長い急須にお湯が入ると、仕込まれた茶葉がお湯の中で踊った。


フワンと柑橘系のよい香りがして心が穏やかに優しくなる。

蓋をしたポットに茶巾をかぶせ蒸らすひと手間。

きっと優しい味がする、そんな期待をさせる湯気が香っている。


「やはり賢帝のご意思ですか?」


あえて賢帝とよばせてもらう。西でつかわれる闇帝ではなく。


俺はダソールさんから賢帝の政策や同時の話を聞かせてもらう。

ダソールさんは130歳を超えて当時の賢帝の始まりから仕えていたのだから、話は淡々と事実が紡がれていく。

先帝の魂を受け継いでいるとは思わないけど、先帝に仕えてその想いを継ぐ賢人。

想いは人の心の根っこにあるのだから、ダソール老師が受け止めて果たしてきた思いは確かに賢帝のものだ。


東の帝国をこの乱世に生き残らせる、民の平穏を守る。

そのために自分が汚れても恨まれても危険にさらされたって。他国から歴史からなんと呼ばれようとかまわない。

そんな賢帝の姿はそのままダソールさんに重なる。

たとえ自分の体が人と呼べないほど呪詛に蝕まれようとも、絶えず魔導ローブで全身を包まなければ宮廷の中ですら歩けなくても。


「そうであるともないとも。もう私の中で賢帝と共有した思いは儚い夢のように朧気です。時代も民も変わり、わが国も闇魔法や諜報では力のある国と認めらました。賢帝とわれらで目指した帝国は成し遂げられたとも言えますし、まだ道半ばという気もしております。ですが・・・」


コポコポ


ソーサーにのった白磁の椀には黄金色に輝くお茶が入り湯気が立つ。


会話を邪魔しないよう、静かにいただきますねと会釈をして腕を伸ばした、その瞬間。


ガシリッ!


椀にふれる寸前、ゴルサットのごつい手に腕をつかまれた。

そして俺を止めたくせに自分は椀から一気にあおる。


そして

あっという間にゴルサットの顔は赤に青にと変わってく。


「マジイじゃねーかやっぱり!!」


この見た目とこの香り。

とてもそんな風には?


チビリ


「マズい・・・」


ほんのちょっぴり舐めてみたらやっぱりまずかった。


美しく輝く見た目に芳醇でありながら清涼な香り。

輝く一滴を準備しながらも、自分をいとわず誇り高く生きてきた先達の語り。


少々好みからハズレた味だろうと、美味!というしかないこの状況で。

味だけ激マズって。


苦く辛く生臭い。

内臓を熟成させて濾したような味、なのになぜか香りも見た目も極上。

なぜ香りが裏切るのかわからない。

味と香りは密接に結びついているはずなのに、この小さな椀の中で水と油のように分離している。


ほらな?って言いたげなゴルサットの得意気な顔が小憎らしいゾ。

それに比べてダソールさんの小さい体がさらに小さく、全身で『シュン』となっているぞおい。


「さあ話をさっさと終わらせて呑みにいこうではないか?みなお前が来るのを涎を垂らしてまってるぞ」


「それはうれしいけどよ?ダソールさん?老子?大丈夫かよ、続きが話せる感じなのかよ?」

あまりに小さくなってしまって。

お世辞でもうまかったと言えばよかったのかもしれないのだけど。せっかく俺にと淹れてくれたお茶なんだから。でも絶対にお椀一杯を飲み干すなんて無理だったのだから仕方ないだろう!


次は楽しみにしてますよ、そんな風に


励ますつもりでダソールさんの肩に、小さくて低い位置にある肩へと手をかけた、かけちまった。


その瞬間


バシュンッ!!


「あ」

「あ」

「あっ!」


3人同時に声が出た。

今の『バシュン』一瞬にしてダソールさんを取巻いた闇が消え失せた。


残りは骸骨の骨格と、透明な膜のように見える内臓や筋肉らしいもの。

そんな中身を全て露わにした体にみるみる血の色が入り、色がこくなり、本来の色を取り戻し始めた。

紳士淑女が見れば、朽ち果てて骸骨になったモノが、巻き戻しで人間へと戻っていく様をみるよう。

それも超高速で。


「す、すみません!」


この人は人生をかけて、これまで自分がしてきたことへ向き合い続けていたのに!



今の俺に呪いも怨嗟も効くわけがない。人間が発する呪いなんて触れると自動で消滅するだけだ。

神へ至ろうとするオーバースペックに負の感情なんて届くわけがない。神様を呪える人間なんていないのだから。


俺自身の多重防御に合わせて、神の御力へとつながる精霊の加護、魔法杖による古大魔導士の自動防御、エルフの女王の眷属から捧げられている大地と自然の加護。

これから生まれてくるわが子はこれよりもっと強力な加護を生まれついて持ってるんだよなあ、と信じられない思いだけど。俺だって向けられた呪詛くらい瞬間で消滅させる。


向けられた呪いのすべてが一瞬で解呪され、いせいよく『バチュン』と音を立てて消滅したのだけど。


ダソールさんは目を見開いて固まっており、とても話しかけられる状態にない。

その間にもドロリと眼球が生まれ、顔の筋繊維が色づき始めており、とても生々しくてそういう意味でも声掛けができない。ゴルサットも驚きで目を見張ってばかりだ。


『ねぇ?』

『なあ?』


腰に刺さった宝剣からエルフ女王と、魔法杖からカールスバーグが同時に声をかけてきたけど。

わかっている、わかっているからって!

やっちまったんだからしょうがないじゃねーか!


ダソールさんにはこれまでの百年を超える様々な負の感情、恨みや妬みや怒りたちが強い呪いとなってまとわりついていた。

それでも彼はこの国を守ろうと生き抜くために、彼は自分の体を無かったことにしたのだろう。

人として生きるための最低限の体として骨格と魂と魔素だけを残すことにして、それ以外の肉体はこの世にあらざるモノと亜空間に封印して呪いを回避することに決めた。


呪われて腐る肉体も血液も潰され朽ちる眼球も侵される脳も、口も舌も内臓も、心臓すら物質化させずに異界へ移して。肉体的には異界で生きて、亜空間からつながる生命力をホソボソと使ってこの世界で活動していたに違いない。


俺が触ってしまったことで、まとわりついて蝕んていた呪法だけではなく彼が自分にかけた呪法、自分を自分でなくしてしまう呪いまで解除されてしまった。

彼の体にはすべてが戻り定着する。これでこの世界だけの存在へと戻ってしまう。


今の彼ではこの部屋を出た瞬間に待ち受ける呪いに食いつぶされてしまう。

体を蝕み続けた呪いは解呪されても、この空間を出る途端に数十年も積み重なって待ち続けている呪いが生身の体に食いつくのだ。


シュウシュウと彼を取巻いていた蒸気がひいていくと、ひとりのシワ枯れた小さな老人が現れた。

耳が少しとがっているからエルフの血が入っている。


『なんとかしてあげるんでしょ?エルフの血が入ってるんだから適当は許さないわよ?』

『わあってるって。彼はお前の眷属なのか?』

『人族の血が濃いクォーターだから眷属とは言えないわね。闇魔術使いならもうエルフとは随分と遠いわ。でも同族の血を引いてるなら女王としてはほっとけないわね』


全身が震えている老人は、やがて手を組み合わせて祈る恰好となり、音を立てて両ひざが地面に落ちて膝まづき、腕を前に伸ばして頭を地面にこすりつけた。

体の全てを地面に投げ出して相手に示す絶対的な帰依。


だがアナタは間違ってると思うぞ。

謝るのは俺の方なんだ。あなたの想いと覚悟を無駄にしちまったんだから。


それなのに、怯えて震えて顔を上げない。


この老人に俺はどうすりゃいいんだ?

俺がヒトだと思えないから、神からの恩寵?みたいな受け取りなのか?

誰も彼も俺に『こういう扱い』をするし、理不尽にあっても俺のせいにしちまえるのか?


だったらもう決めてしまう。

勝手に俺のことを最高だと思ってくれてるならもう文句言わせないぞ、俺だって勝手にやってやる。

慕うなりひれ伏すなり好きにすればいい!


「エルフ族の血を引く者よ?我とエルフ女王の加護を与えよう!!」


<エンチャント 反呪>

<エンチャント 防御結界>


ピシャリ


地面をこすりつけたダソールの体に反呪と防御結界が張りついた。

下界でこいつを待ち受けるのはなみの呪いじゃない、だがしょせんは人間のものだ俺の加護を超えられるワケがない。


「おっ・・おおおっ・・・おおおおおおぉぉぉーーーーーーー!!!!!」


激しく声をあげて立ち上がり両手をあげる。

周囲に反呪の輝きが渦を巻く。彼を守る加護は確かに機能して輝く。

ダソールの目からは涙があふれ握る拳が力強い。

人間とも妖魔ともつかないアヤフヤな存在が確かな生を取り戻した瞬間だった。


「なあユーリよ?お主はもしかして東の帝国をのっとるつもりかの?」


ニヤニヤと笑いながらゴルサットが自分のヒゲを引っ張る。

このやろう。東の四賢人を俺がのっとるとでも言いたいのかよ?それなら


「だったらお前にも何かかけとくか?俺の仲間のくせになんだかちょっと弱ってるみたいだし」


笑い話のように言ってみた。

どうにもコイツの命が揺らぐのを見ていられなくて。


「ワシはお主の庇護下より友として並び立っていたいから、このままでいいのじゃよ」


「・・・わかった」


こいつの言うことは正しい。

でもなんでだろう、何もできない自分に少しだけ腹がたってブスリとしてしまう。


「そんな顔をするでない。ほれ、もうここでの話はいいじゃろう?これでダソールとは今後いくらでも会話できるのだから、何せ四賢人の最古老はすでにお主の眷属じゃからな!」


ガハハハハといたずらっ子のように笑う。

自分の死とか運命とか、年寄りは勝手いいやがる。

ハラハラするこっちの身にもなりやがれ泣くぞもう。


腹がたってプンスカきたからもう年寄りの相手はやめだ!

若いヤツラと酒飲んでバカ騒ぎするしかない。

だったらせっかくだし話もいろいろ聞きたいしで。


「ダソールさんも一緒に行きませんか?体にエンチャントした反魔の様子もしばらく確認したいし。そういう場には永いこと行ってなかったのでは?」


ダソールさんは両ひざをついて腕をのばすと倒れこんで額を地面に押し付けた。

「しかと申し付かりました。必ずやご期待に沿ってみせましょうぞ!」


おれ?

一緒に飲みませんかと誘っただけなんだけど。


「ダソールは身軽なマントで身バレせんだろうから大丈夫ではないか?ワシですらこの顔を初めて顔を見たのだから誰も気づけるハズがない!それにワシ以外の4賢人が街の酒場で飲んでるなぞ誰も想像できんことだしな!」


酒飲みの習性だよな、メンバー不問で盛り上がればいい。

それよりさっさと行くぞ、そんな感じだぞコイツ。


「ゴルサットよ今回のメンバーはわかるか?」


「わが部隊全員だからソラでもいえるが?なぜじゃ?」


「そやつら全員をユーリ様の先兵として篭絡する役目を仰せつかったからな。各人の魔法レベルを詳しく教えてもらえるか?」

キラリーンと目が光る策士ダソールを秒で否定させていただいた。

なのにどうしてうんうんと頷く?

ハイハイわかってますからまかせてね、と子供をあやすような顔をするんだ?



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