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第233話 東の英雄

姫さんがバッハさんに王宮の奥へと案内されていく。


俺はゴルサットと別室へ、そしてジョバンや研究員は割り当てられた客間へ。

見事に分断された形だが、俺からすると影響はない。


王宮内にはそこかしこに魔道具が埋め込まれており、王宮内では資格を与えられた者以外には魔力阻害が強力にかかっている。

近いイメージだとラジオの周波数を合わせる感じだろうか、暗号をわかっている魔導士だけに鍵が与えられ魔法が使える。もし他国がこの王宮に踏み込んでも魔法は一切使えないという一種の防壁になっている。


俺には関係ないしハッキングして上書きしちまえば掌握することもできる。やんないぜ?もちろんやっちゃダメなヤツだ。

招かれた城の防衛システムを破壊するってどんな悪ものだって。


俺の魔力探知は十全に活きていて、姫さんもジョバンもどうなってるか手にとるようにわかるのだけど。

ジョバンはともかく、姫さんはまわりのことがわからず、自分の魔力が妨害されていることだけは気づくから、孤立しているように感じるハズだ。

まあ俺がこの程度のカラクリで何とかなるとは思ってないだろうし、姫さんについている精霊が俺とつながっているから影響なしでいいだろう。

こっちはこっちでいろいろとある。


「やっと相まみえたな?随分と手間取ったが死ぬまでに約束を果たせてよかったわい」


ゴルサットが自分のひげをひっぱりながら嬉しそうに話す。その白いひげ一本一本が造り物のように生気がない、まるで置物の獣の毛だ。

そんなところに目が付くけど目をそらしていままで通り。


「なんだよもう死ぬ準備かよ?じゃあ俺も東とかかわることもなくなるかもな。俺の子供もすぐ生まれるしこっちも忙しいんだけど。見に来ねえの?」


くそう。

くだんないこと言われると反発しちまうのは俺がまだガキだからか。


「会えるものなら会いたいもんじゃ。生まれる前からあんな加護をもった赤子なぞ見たことも聞いたこともない」


ゴルサットは精霊の森でうちの娘のこと知ってるから。


「笑っちまうしかないよな?あの後に王国の大教会で俺とキャサリンが結婚式をやったのしってるか?」


「情報としてはな?やたら光り輝いた結婚式じゃったと聞いたが、あの古臭い大教会で何をやった?」


さすがに情報の国の四賢人だ。当然に知ってる。


「俺はなんもやってねえよ?一応は新郎だし。いろんな神様がやってきてうちの子に加護をつけてくれたらしいけど。今のあの子はお前が考えるよりもっとすごいことになってんぞ?」


あんまり子供の情報を出さない方がいいんだろうけど。

なんだかコイツに『絶対会うぞ』と言わせたい気になってる。


「お前の子はどうなっていくんじゃろうなあ?ぬしと同じオーバー・スペックから神へと至ろうとするのか、それとも神や精霊の使いとなるか?大教会の大司教なんてのは西に都合よいからやめてほしいんがの」


そうはいいながらも、どうでもいいことのようにニコニコと話は続く。


「ところでなんだよあの街のひとたち。なんで俺の名前叫んでんだかわけわかんねーんだけど。アレ準備したのっておまえしかいないよなあ?」


わざと脅すみたくしゃべったけど、慌てて手をふられた。


ん?


「まあ待て?たしかにお前の情報を最初に持ってきたのはワシ。だがアレはわれらの大宮司、おぬしら西で言うところの大司教みたいなもんに神託が降りたという話」


「・・・どんな?」


「東の帝国を救い世界の均衡を司る大魔導士らしいぞ?おぬしが」


「バカらしくねえか?」


「そうとも言えるが、そうなるかも知れんし。なんせおぬしは竜種を従わせておる。大厄災でも起これば世界を救えるのはお主か、おぬしの配下のモノしかおるまい。世界の均衡を守ってきた竜種がお主の配下なら大きな意味では間違っておらんということじゃろうが・・・どうだかの」


「おっさんもおかしいと思ってんのか?」


これまで世界が滅亡する危機は竜種の裁定で何とかなってきた。記録では。

竜種を従えるとはそういうこと、らしい。


「そうじゃな。世界の均衡を司るのはわかるが東の帝国を救うのは少々この国に都合がよいの。世界を救えば東も救われた、と拡大解釈もできるじゃろうが、群衆の想いはそうではない」


「黒幕がいるんだろ、どうせ」


「うむ。神託なぞそうそう降りるもんじゃないわい。おそらくほかの4賢人に違いあるまいが・・・面倒なのはお主に悪意がないところ。お主を敬う気持ちは間違いない。そして西との融和を望まないであろう。欲しいのは自分たちに都合のよい英雄であり信仰対象だな」


「・・・そういうの、ちょっといらないなあ。でもあの攻撃魔術はずいぶんなご挨拶だったぞ」


「あれは申し訳ないがお主という存在の確認だろう。神託通りであればあんなもの軽く吹きとばすだろうし、群衆を守るためにも当然の行いをしてくれると考えたんじゃろう。身勝手な思い込みが怖いの」


笑ってるゴルサットだけど、疲れてる顔だ。

うーん、宗教的なもめごとの話か?

そう考えると西の大聖堂はずいぶんと穏やかっつーか、いろんな神々が寄ってたかって(失礼)やってくるのは、本来の場所でいいんだろうけど。

東はずいぶんと物騒だ。


「大神殿は4賢人のひとりダゾールの管轄になる。食えないジイサンだがこの国の屋台骨を支え続けてきた男。この国を保つためなら鬼でも悪魔でもなる男だ」


「それは悪人じゃねえのか?少なくともほかの国からみたら」


「ヤツは心の中に賢帝を、おぬしらからすれば闇帝を宿しているともいわれておる。理屈も人情もわかる、道義も通じる。しかし大儀のためにはすべてを振り払って投げ込む」


この国の人間以外には随分だな。

おっとろしいヤツなだけだろう。


「なあ、教えてくんねーか。そいつは誰の敵になりそうなんだ?おまえか?俺か?姫さんか?それとも西の王国か?」


「さてな?われら4賢人の意図すらくみ取らんタワケではない。だいたいダルソールがキチリと統制しておらんから妙な派閥なり思想なりが飛び交うのじゃよ。神職なら神に祈り国民のために尽くすことを考えておればよいものを」


「そうか、あれは国民のためにやったことともとれるわけだ。でもよ、4賢人とかいうお仲間なんだろ?あんまり仲間を悪く言うのは・・・」


「ヤツがやったかという問題ではない、大神殿が疑念を確認しようとしたのかもしれん。じゃが結局ヤツに起因しておるとみておるよ」


「まあ、いいって。その話をこれ以上つめても予測とかにしかなんねーんだろ?もちょっといろいろハッキリしてからでいいてば」


だってよお。

魔力の"起こり"をほとんど感じさせないけどこの空気感って。


「そうはいうがな?西の王女がいて戦争すらかかっておった、わが東の民もな?独断にしてはオイタがすぎるわい」


ニョロリ。


熱弁をふるうゴルサットの方に、何も空間から伸びた手がかけられた。

そのままズルリズルリと腕に引きずられるように体も現れていき、魔導士のローブをふかくかぶった正体不明のものがあらわれた。


「ひどいのお。わしらは同じ志をもった同士じゃというのに」


ダボダボの布に包まれた小さな生き物、おそらく人間はしわがれた声でゴルサットに話しかけた。


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