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第230話 二人目の四賢人

それから数日間をかけて砂漠を越えた一行。


道中に大きなトラブルはなく、せいぜいがサンド・ワームやビックスコーピオンの襲撃を日に2~3回受けた程度。

そこいらの隊列なら絶対絶命の危機であっても、優秀な護衛魔導士が活躍するこの隊列に影響はない。護衛魔導士ジョバンに決死の戦いが毎日何度も訪れたのだけのこと。

幸いに東の帝国小隊と連携することでユーリが出ていくような事態にもならず、護衛隊長として面子は無事に保たれた。


だんだんと砂の山がうねる砂丘が平坦となり、いつの間にか砂が引いてひび割れた地面が目に付いた。乾燥に強い灌木がポツポツ姿を現し、さらに草木が地面を覆いつくしていく。

いよいよ命の息吹が感じられる大草原地帯へと入ったのだ。



「いくつかの部隊が俺たちとつかず離れず、そのうちひとつがコッチに接近中だ。街道を正面から向かってくるから10分でエンカウントするぞ?この馬車はココでゆっくり停車させてくれ」


ユーリがつらりと目線をとばすとジョバンは減速をはじめた馬車の扉を開けてそのまま飛び立った。

『やれやれ人使いの荒い団長だわ』とグチをこぼしかけたがユーリの表情をみて口をつぐむ。

飛び立つ瞬間に自分を見つめる目線が『油断するな』と告げていたからだ。


「なんですの一体?」


シャルロットが久しぶりにユーリへと声をかけた。

先日の一件以来ここ数日はどうにもギクシャクとしており、ユーリが目をつむっているので声をかけられずにいたのだ。


「それを探りに行ってもらったのさ。本来接触しないはずの軍部があからさまに近づくんだから何か用事があるだろうよ?目的がこの研究団なのかシャルロットなのか、俺なのか」


誰に向かう『お客さん』かで話は変わる。

普通に考えるなら、気に掛かかることを調べにきたのだろう。

ユーリを東に呼ぶためにゴルサットが必死に手をまわしたのだから、ここまで来て軍部が自分に接触してくる理由は薄い。せいぜい待ちきれないゴルサットが迎えに飛び出してくるくらいだというのは、すこーし自惚れだろうか。それでもあのおっさんなら馬車なんて使わねえよな、なんて思うのだ。


「私ということはないのでは?私のことはあちらの4賢人と皇帝しか知らないはずでしょう?」


ユーリはやれやれだとあきれ顔をしたけど、シャルロットがムッとしたのを見て説明を始めた。


「宮廷でも関係ないヤツは知らないと思うぞ。ではなぜゴルサットがこんなに厳重に警戒していると思う?」


関係者は知っている、ということだ。

シャルロットの訪問を東が全く知らないならとにかく、知った以上は他国の王女をぞんざいに扱えない。

主賓のユーリが王女を『友人』だと紹介してしまったことも大きく影響しているのだが、それはユーリも気づいていない。


「私のためですの?」


「シャルロットが考える以上に東はピリピリしてるってことだ、姫さんに何かあったら戦争が始まっちまう」


「来るのは東の中の敵対勢力と考えてよろしいの?」


「それは相手さん次第だ」


ユーリはあえて可能性の話をとばした。

彼の中ではシャルロットの敵となる可能性はあると考えている。自分達調査団は関係なしで、王女シャルロットに対しての敵意は想像できなくない。


相手はシャルロットが同席していることを疑問に思っているに違いない。ユーリを呼んだはずが、わざわざ西の王女がついてきたのだ。その意図を訝しく思うのは当然だし邪推されるとやっかいな話になる。そして宮廷はどこでも邪推して足をスクい合う面倒な権力者の伏魔殿に変わりはない。



二人の会話が途切れる頃。

飛翔するジョバンの目には向かってくる馬車が目に入っていた。

見た目では随分と造りのよい頑丈そうな馬車だ。馬車に似つかわしくないほどの大型な馬を2頭立てにしてあるのは、狙撃や投石にビクともしない重厚な造りなのであろう。

馬車全体は魔法防御も張られており、物理だけでなく魔法攻撃への対策済というわけだ。


この馬車は戦場に赴く要人が乗るような特殊なもので、間違っても一般の旅商人に手は出ないものだ。特別な理由なしに街道を走る代物ではない。

ユーリかシャルロット、どちらかへの接触を目論んでいることは明白だが、このままでは敵か判断はつかない。


どんなヤツが乗ってるんだ?


ジョバンの魔力探知ですら人数や魔力が全く感知されないのだから、馬車には魔法障壁に魔力妨害が仕掛けられているに違いない。目立たない見た目と違ってずいぶんと凝った馬車だ。

世界中でユーリを除けば誰が乗っているのかわからないだろう。


逡巡したジョバンだったが空中に浮遊したまま高い位置から見下す形で馬車に声をかけた。

こんな値段の想像もつかない馬車に乗っているのだ、ずいぶんと高位な立場の相手だと見える。上からでは無礼だと受け取られてはやっかいだが、いざとなればヤッカイ事はユーリに擦り付けようと腹に決める。

ジョバンは相手がわからないこの状況で、戦闘で優位となるポジションを自分から明け渡すほど無能でも素人ではないのだ。


「こちらは東の皇帝から深淵の森研究発表に呼ばれた西の研究団だ。俺は護衛を任されているジョバン、ウチの連中がココをすぐ通過するため確認させていただきたい!」


ジョバンの声はよく響いた。

上空からのやや無礼な形となったが、相手を馬車から引きずり出すために筋を通しただけだ。

さて戦闘になるかコチラを無視して押し通るのか?それとも


「前触れの使者にお伝えする!こちらは東の帝国で皇帝が認めた4賢人のひとり、バーミャ・バッハ老子である!対話する用意があるので降りてこられぬか!?」


どうやら解答は3番目の会話が選ばれたようだ。


本物なら上空の優位もきかねえよな?


本物の四賢人ならゴルサットと同格クラスだから少々の優位なんてどのみち無いようなもの。

正面切って対峙して勝てる相手ではない。

先ほどユーリが目くばせしたのは、ジョバンより格上が出てくるから気を付けろと合図したのだ。


「了解した。上から見下ろす形となった無礼をお詫びする」


ジョバンが街道へと降下したところでフルメイルを着込んだ御者がうやうやしく馬車の扉を開いた。


「はじめまして?西の魔導士さん、あたしがバッハですよ」




高貴な濃紫のローブを着こなす魔導士が馬車から現れた。

深くかぶった頭巾をとった意地悪そうな婆さまは楽し気だ。どうやら敵ではないらしい。


ババアの名前がバッハ。覚えやすくていい。

むしろバッバ、いやもうババアでいいんじゃねえか?


ツボに入ってしまい腹を抱えて笑い出したい。だが大人な俺は表情に出すことはない。

婆さんにはニヒルな笑みで答えておく。

言葉を出そうものなら噴き出してしまう。


そんな気遣い屋さんの俺にこのババアはいきなり!小さな魔法ロットを取り出して俺に魔法を発動させやがった。

魔力が瞬間的に沸点まで膨れ上がると容赦なく俺に向けて解き放たれた!


「いてててててててて!!!いたい!いたい!!いたい!!いたいってばよぉーー!!!」


こめかみを万力でグリグリされるやばい痛み!その超強力版が頭にガンガン響く!


「ギブ、ギブ、やめろって、やめてくれって!!ちょ、いいいいい加減にしろこのクソババア!!」


「けっけっけ、やっと本音が出たねくそ坊主が!おまえの考えなんぞ手に取るようにわかるよ!!」


息も絶え絶え膝をついたジョバン。くやし気に見上げると面白そうにニヤついてる。


「い、いきなり何しやがんでえ!」


「そっちこそいきなりずいぶんと失礼だね!誰がババアだ嫌われる顔は生まれつきだよ!」


なっ


なんで?と言葉にでなかった。


もしかして口に出しちまってたか?それがジョバンすぐに思ったこと。だがそんなハズはない。

まさかこのクソバ、もといおばあ様は俺の心が読めるのか?


「くだらないね?あたしゃおばあ様なんて上品なもんじゃないよ、バッハでいいからね。次にババアなんて呼んだらスペシャルだから憶えておきな!」



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