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第222話 夕食会

そのあとは侯爵主催の夕食会が開かれた。

シャルロット、ユーリ、ジン、ジョバン、今回はザハトルテさんも。もてなす側は侯爵の家族、そしてキスリーノ。対面形式の長テーブルであり、奥座からシャルロットと侯爵、ユーリと侯爵夫人が向き合って談笑している。

ザハトルテさんはせっかくの繊細な料理を一気に口へと放り込み次へ次へとひとりだけコースをせかし、食べ終わるとさっさと退席したため侯爵夫妻が苦笑する。シャルロットだけが冷や汗をかいたが、サラマンド侯爵や奥方は立場に気を遣うような人たちではない。サラマンド夫妻とジョバンの会話にそれが端的に表れている。


本来ただの冒険者であるジョバンがこの席に同席することはない。貴族社会においてジョバンには爵位もなければ準貴族としての立場もない。

それでもサラマンド侯爵はジョバンの冒険譚を聞きたがった。それは貴族の上から目線でも命令でもなく、丁寧ではあったがタメ口で、要は実力を認め合った戦士が会話しているだけだ。

ジョバンの話は面白く冒険心を震わせるもので、それは侯爵の子供たちにとって遥かなる世界の冒険譚として自分たちを鍛える努力の糧となるのだから、侯爵はありがたがりテーブル越しにジョバンへ酒をドボドボとつぐのだった。


ジョバンの語りで子供たちは盛り上がり、シャルロット王女と侯爵がこの領地の特産品や施政について談笑する。地方侯爵家の夕食会としては穏やかで楽しい時間が過ぎる。


さて、自分のところにもそんなフリがくるのかこないのか、とユーリは待ち構えていたのだけど。

侯爵も夫人もなぜかユーリに対しては、まるで大聖堂の大司教に話しかけるよう汗をかきかき話しかけるのだった。この夫妻はシャルロットへ話す方が気楽とでも言うように、王女へは笑顔でフランクに話しかけるくせ自分には緊張して固まった顔でバカ丁寧に話をされる。


これは?


ユーリにはいくつかの記憶が横切った。


サラマンダー一族と顔をあわせたとき。

捕獲した東のエージェントの隊長を尋問したときもそうだ。

竜神と会話したあとの飛竜一族も・・・


なんだこれ?

俺はこの人たちになんにもしてないけど


侯爵夫妻はまるで降臨した神様を見るようにガンきまりの表情だけれど、子供たちはユーリと目があうと楽しそうに笑う。むしろ『あなたのお話は?』とワクワクと期待されてプレッシャーになっている、それでも子供たちの気持ちなら理解できる。


なんだよこれ?

よくわからない、いやさっぱりわからない。


さすがに自分だけ特別扱いされていることに気付いてチラリとジョバンに目線を向けると、ジョバンもコクリとうなずく。すぐに両手を広げたからジョバンにもワケがわからない様子。

シャルロットの方を見ると侯爵と笑顔で談笑しているけれども、話がとぎれた瞬間に目を細めてジットリと見つめらるのだった。



俺がなんかしちまったって話かコレ?

それにシャルロットは最近俺へのアタリが強くねーか?


そんな心配が頭を過るのだけど。


ユーリは知らないが別に悪くないのだ。


シャルロットが侯爵とやり取り話するのは、この場に差しさわりのない辺境の国防、他国の動向、王宮の話。しかし話題が深まると侯爵夫妻はユーリの方をチラリと見てから話をやめてしまう。この場で話してはならないことに触れる前に引き上げてしまう。

シャルロットもなかなかにやりずらいものがあり、話が興に乗って密度をたっぷりあげておきたいのに話が進まない。シャルロットは『もうちょっと突っ込んでも問題ありませんわよ?』と言いたいところだが、関係のない子供もいるからやはり口をつぐんでしまう。


なんだかうまく会話がまわらないわね?


こういった気楽な場でこそ、自分の人となりを知ってもらい親密になっておきたい。そんな気持ちもあって歯がゆいところだ。

この食事会の後はすこしだけ個別での打ち合わせを予定しているので、詳しい話はその時にでよいのかもしれないのだけど。フランクな関係の重要性も身に染みている。

そしてその打ち合わせの間に、ユーリにはキスリーノ執事長の二人が会話する時間を作って欲しいとお願いされている。


「ユーリのところに才能や力が駄々洩れしてませんこと?」


ユーリは悪くないのだ。


普通の相手ならそんな心が狭いことを考える自分を責めるシャルロットだ。

彼女はそんな自制心のきいた理知的な王女であり、本質は己を律し相手を思いやる王族だ。

そうなのだけど。本人は気づいてないけどユーリに対しては別なのだった。


嫉妬とは違うのだけど。優秀な人材、圧倒的な武力、技術力、経済力、人脈など自分にとって喉から手が出る程に欲しい力がなぜかユーリのところへと流れて集まっていく。

そんな現実は自分に力の無さを突きつけてくるし、まだその程度としか認められない自分がくやしくて腹立たしい。そんな気持ちがユーリに向いているだけなのだ。


本来の王女とは生まれ持った絶対的な立場を持つ者。相手は最終的に自分へかしずくしかないという立場。だからこそシャルロットは上に立つ者の矜持として筋違いな感情を相手にぶつけることはしない。立場が上だからとしても、己より優れた人材も才能も確かにあることがわかっているし、それを活用するのが王族の役目だと考えるからだ。


しかしユーリは王族という立場に固執しないしへつらったりしない。

世界中の最強種族たちが続々とユーリに首を垂れる。集まる種族たちに人間なんて相手にする気はないだろうし、西の国の王族なんて知らないだろう。ユーリは世界の理から認められている上位者であり、自分はその世界の片隅を治める一族の末席にいるだけなのだから、人間の爵位などで測る関係ではない。


結局シャルロットにとってユーリは本音をぶつけても喧嘩になっても、絶対に自分と一緒に歩んでくれる友人だと信じている相手だ。なにせ出会った初日からやりあった仲であり、そんな自分の命をユーリは救ってくれたのだから。


王女は唯一頼ることができる相手に甘えているのだが、そんなことは本人すら理解していないのだった。


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