第22話 実技試験とその後
午後の試験は魔法の実技。
元気になったソフィアと実技試験の受付して校庭へ移動。
高い壁に囲まれた魔法訓練場?に連れてかれて受験番頭順に並ばされる。
呼ばれたら順番に何でもいいから魔法を打って終了。
10メートル先にマトがあるので狙って打つもよし。
その場で何かの魔法現象を起こすもよし。
魔法を放つ生徒のそばで魔力感知の得意な先生が計測してくれるから、体の内での魔力錬成だけでも点数をつけてくれる。
並んでいるソフィアの顔はばっちり自信満々の顔してる。
いつもの強気の顔になってるから大丈夫でしょう。
「じゃあ〇〇番、お願いします」
「はいっ」
体の中で魔力を循環させて元素の色を付けて練り上げていく。
見てる俺の方が体に力が入る。
よし、今だっ!
「ウォーターボムッ」
彼女の手から野球ボールくらいの水球が出てマトに向かって飛んでいった。
やた、成功っ!
「あっ」
残念ながら水球は、マトまで2メートルも手前で地面に落ちてペチャンと割れたけど。魔法を撃ち出したという意味では成功だと思う。
あの「もうちっとだけ足りない」感がキャサリンから「優秀だけどまあまあ」と言われるところだ。
その後の子たちもみんな魔法を発動していく。
ファイヤーボールやウィンドウカッターといった初歩の魔法だけど、何人かはマトに当たっていたし出来る子は大きく揺らした。
俺の番が近づいて実はちょっと焦っちまってる。
やろうとしている風と土ボコじゃ、コイツラになめれるんじゃないか?
だったら2属性の魔法とわかって的にむかってヘロヘロ何とか飛んでいく感じをできないか?
予定していた土ボコ風魔法、土が盛り上がって風が軽くそれを巻き上げる超初級魔法は捨てた。
それならストーンパレットにウィンドで勢いをつけて石礫を軽くマトに当てれば、両方の魔法使えるのが見えて格好良いいのでは?
受験勉強を始めたころキャサリンじゃない方の先生(!)から一発クリアした魔法だ。感覚は憶えている。
少し弱めてゆっくり放って。
マトに軽く掠るくらいにコントロールして。
「次、〇〇番」
「はい」
俺の番だ。
無詠唱で撃てるけど打ち合わせ通り採点係の先生に聞こえるように詠唱する。
「ストーンパレット!」
「ウィンド!」
撃ち出しは思った通りの感覚。
2~3個の小粒の石くらいがピューっと飛んでいくイメージ。
先生に教わった懐かしい感じ。
しかし。
実際に出現した魔法はそうならなかった。
ゴオオウウウウっ!!!!!
轟音が鳴り響き、大粒の「礫つぶて」が俺の手から無数に発射された!
強風に乗って砂嵐のようにウズを巻きながら!!
思わず「おい、おおおおおいっ!!おまえら行くなっ!!」口に出てしまった恥ずかしい。
大量のつぶてが砂塵を巻き散らかしながらまるでドリルのようにマトに向かう、これじゃこのあたり一帯が吹っ飛ぶぞこれ!!
慌てちまった俺が今度は声に出さずに心の中で唱える。
「風魔法、遮断!!」
マトの直前に上から強烈な風圧をかけてドリルを叩き潰す。
礫がマトの直前でいきなり垂直に曲がって落ちて、礫がいくつもドゴドゴと地面に突き刺さる。
あたり一面に衝撃の土埃が舞い上がり、何も見えなくなった。
ああよかった・・・
じゃなくて、安心してる場合じゃない!ごまかせ!!
「ストーンパレットを撃とうとしたら届かなかったあーー、はずかしーなーざんねんだなー」
棒読み。
間違いなく大根な俺のつぶやきは誰にも聞かれず消えていったのだった。
採点の先生がかわいらしく首をかしげてほほを指で支えて。
バーコードの髪が反対側へ垂れている。おっさんがやるポーズじゃない。
その顔にはハッキリと書いてあった。
「ナニコレ?」
振り向くと貴賓席の学院長キルリスも頭を抱えていた。
その後は何事も無かったかのように淡々と実技試験は進んだ。
試験官に受験生、貴賓席でみている観客までも全員が示し合わせたかのように。
頭の上にハテナマークが離れないままだったけど。
試験中止になったらどうなるのだろう、という不安はみんな同じ。
何年も勉強して修行してココにいるヤツラが大半なんだから。
おかげで全員が疑問をそのままに何もなかったことで試験はつつがなく進んだ。
そして俺はほっと一息ついていたところを首根っこ掴まれて別室に埒られた。
場所は学院長室。
相手は学院長キルリスひとり。
「何を考えてるのかな?そんなに目立ちたかったのかな?」
ヤツの額には怒りマークがピクピクしている。年なんだから血管切れるからやめた方がいいんじゃない?
「俺の前の人たちがバンバン魔法撃ってたから。ショボイ魔法だとなめられるかなとか?思ったりして?」
ちょっと可愛く言ってみたつもり。
でも俺の後で魔法が発動した受験生はいなかった。
「見ていてわかったとは思うけど、事前に申請してもらっていた能力でグループ分けしていたんだけどね」
そんなん言われても。
聞かされてないから知らんし。
「問題は魔法をストーンパレットに替えたことじゃないのわかってるかい?なぜわざわざ風魔法で強化した高威力の2元素魔法を放つ必要があったのかってコトなんだけど?しかもわざわざマトの前で礫を叩き落したよね、アレ中級魔法だから!!!」
まくしたてるように言い切られた。
「やっぱりマズかったよな、ははは・・は」
「目立ちたいなら大成功さ!キミから聞いてた希望とは全く逆だけどね!!」
しかしなぜあんな威力になったんだ?
おれは前に撃ったストーンパレットを弱くする感覚で撃っただけなんだけど。
『レベル6でやっと魔法を放っていた頃と、レベル18で中級魔法を使えるあなたの現在の能力が同じなワケありませんよね?魔力量もこの半年でいっきに伸びましたから相乗効果です』
俺レベル18?知らないけど。
そういえばずっとお受験対策でステイタスなんて気にしてなかった。
コイツわざとレベルを俺に教えなかったんじゃないだろうか。自分で壁をつくらないように。
『レベル18は人間世界の魔法使いは独り立ちするレベルです。あなたは神の恩恵で魔力量が同レベル魔導士の5倍ほどありますから、ふつうに戦争の前線で敵を殲滅するレベルです』
せ、せんそうとかぜんせんとかぶっそうなこと言うなよ。
ヤダぜってーヤダ。
死にたくないから必死こいてるのに。
『ではなぜ何の考えもなしにあんな魔法をぶっ放つのでしょうか?その感覚が全く理解できません』
「キミの中ではミツカイさまからの神託が降りていると思うけど。何をおっしゃってるかはわからないけど、御使い様のおっしゃる通りなのは間違いない」
キルリスまで。
だめだ何の言い訳も思いつかない。
「すんませんでした」
一応神妙な顔をして頭を下げてみる。
けどよお。
「まずはそこからだよね。こちらももう少し試験の状況を話しておけばよかったかもしれないけど。キミが思っている通りに目立たずにいたいのだったらもう少し考えて自重くれ」
「わかりました」
へいへい。
「それでこれからのことについて。最後の中級魔法は無かったことにできるけど、最初に発動したパレットとウインドは記録に残ってしまったからどうしようもない。もうキミは「まあまあ」とか「結構できる」ではなくて「めちゃくちゃ優秀な」「トップクラス入学」してもらうしかない」
「と、とっぷくらす、ですか。一番とか言わないですよね?」
「当然一番なんだけど、一番にはならないようにするつもりだ。ペーパー試験トップの受験生がファイアーボールを的に当てたから、ワタシからはその受験生を首席に推薦する。次席合格になるがトップ合格よりはまだマシだろう?」
「次席って2番ですか」
「そんなに嫌な顔されてもね。これでも私はできるだけ頑張ってそうなるようにアレヤコレヤするんだけど。あの中級魔法まで知られたら国王への報告案件になるところだよ」
こ、国王へ報告?
されるとどうなんの?
ラチ?されて洗脳?されて人間兵器?とか?
「報告されるとどうなるんですかね?なーんて」
「さあね。少なくともこの学校へ入学することはない。「どうしても入学したい」と言い張ったら、入学式の当日に卒業証書が届くだろう、王の勅命書と一緒に!!」
あーー、うん。
そりゃー、こまる、なー。
ありがとございます?でいいのかコレ?
「あの中級魔法は大丈夫なんですか?大分マズイですよね。」
「それは大丈夫。私があの場にいて幸いだった」
ギリギリセーフだったぞ、とフンと息はかれても。
「あれは私が咄嗟に撃ったことにするから。あのままでは訓練場が破壊されて試験が続けられなかったから。私が入学試験を続けるために緊急で魔法を撃ったことにする」
「き、記録とかは」
「試験の記録がとられているのは魔法の撃ち出しまで。まさか魔法を覚えかけのヒヨコが自分の魔法を叩き落すなんて誰も思わないから」
「じゃ、とりあえず国王がどうの、ってのはナシでいいんですよね?」
ジトリと睨まれた。
「これからナシにするんだよ私が!ほんとーに、キミといるとノンビリしているヒマがないよ」
キルリスの顔には全然言い足りないからなって張り付いて見える。悪かったよ、ちょとだけ。
「そ、それは良かったですよね、バリバリの魔法学院長がノンビリなんてもったいないですよハハハ・・」
「もちろん嫌味に決まってるだろう!このバカタレが!!」
そ、そりゃそーですよね。
俺はいろいろしてくれてるヤツの気持ちを逆なでする星の下に生まれているんじゃないかと思う。
「だ、だよなー」