第218話 飛竜の結末
まばゆい光の奔流がひいて、暗くなったコロニーに目を凝らす。
女神との邂逅が終わった俺の目の前にはズラリと飛竜達が平服しているのだった。
殿と呼ばれた首長は地面へ頭を突き刺さんばかり。
女神さまは飛竜達と会話もしなかったのになぜ?
「り、竜神様に顕現していただけるお方でしたとは!大層な無礼をお詫びしますので!何卒お許しのいただけませぬか!」
突然の変わりよう。
大仰なセリフに願われた俺も気付いた。
女神様はこうなることがわかっていたのだ。
俺が会いたいと願い顕現してくれた、竜神がわざわざ会いに来る存在だと飛竜達にわからせたのだ。
それで俺の願いは叶っていたのだ。
願いは却下されたのではなくて、慈悲深い女神様が最初から飲み込んでくれていただけだった。
『神ですからね、あなたにとっても飛竜たちにとっても』
飛竜たちを俺から救うために手を差し伸べた。
俺が滅す前に。
「神様だな」
やっぱり神様ってすごい存在だ。
そんな感動に浸ってる場合じゃないから後ほどじっくり嚙みしめよう。
「ではやっと話を聞いてもらえますか?」
少し嫌味になってしまうかもしれないけども。これまでの俺の我慢に比べればなんでもないだろう。
「もちろんですとも!なんなりとお話くだされ!」
俺はまず人間側の立場を伝える。このままでは国をあげて飛竜の討伐隊が組織されることになる。
飛竜種は空中ならば人間に負けはしないが、家畜を襲うには地上へ降りる必要がある。
上位パーティなら魔導士が遠距離でも魔法を放つだろうし落ちてきた地上ならば剣士たちも負けはしない。討伐できない相手ではないのだ。
それがわかっている飛竜たちにザワメキが起こる。
「ではどうすれよいのじゃ?」
「飛竜が人間になぞ後れをとらんぞ!」
顔を見合わせうろたえるか息巻くか。
飛竜達は種の存亡をかけて深淵の森からここまで放浪した経緯なのだから、次の行先が無ければ人間と戦うしか道がない。
この一帯を離れると森はさらに小さく狭くなる。今よりもっと獲物に困るだろう。
頭が痛い話だ。
発端は俺も絡んでいるから飛竜達を全滅させるのは気が進まないんだ。こいつら竜種だから俺を襲った責任で滅べなんて思えない。
こいつらはこいつらで生き残るために必死なんだから、それを知っちまったら。今日のメシのために必死だって思うと、それが俺のせいだってなると胸が痛む。
このままじゃあ飛竜に滅亡を運んだ死神じゃないか?
「ここからは人間ではなくオーバー・スペックの立場で言わせてもらうが」
言葉を区切って話を続ける。
結局こうなるのか?覚悟を決めるしかないらしい。
「お前たちは深淵の森に戻ればいい。しばらくで深淵の森は元の通りに落ち着くハズだ!」
シンと静かになった。
本当なのかとか、なぜ俺が知っているとか、そういう疑問が浮かんで消えてるのが手に取るようにわかるぞ。
誰も疑問を口に出せずに困っていると、隊長飛竜がおそるおそる手をあげた。
「本当でございますか?」
「竜神の加護も大竜達もそのうち落ち着くだろうからな。それとも人間の家畜を捕食することに慣れて危険な深淵には戻りたくないか?」
首長を見つめる。
弱肉強食の深淵より身の危険が少ないこちらがいいと言うかもしれない。
それなら残念だけども自分達の選んだ道を行けばいい。
首長はしばらく俺と目を合わせて再び平服の恰好をとった。
「おおせの通り深淵の森に戻ることにいたしましょう。たしかにこの場所に危険は少ないが我らを満足させる食には程遠い。竜神様の加護が戻り竜種が統治する深淵に戻るなら異存はありませぬ」
随分と話が通じるようになったな、最初からこうしてくれりゃ荒事にならなかったというのに。
竜種といっても下位の立場だから話が通じやすいのだろうか。
「ではそのように頼むぞ?お前達が深淵に戻るころにはゴタゴタを落ち着かせると約束するよ」
『それで?どうするつもりなのですか?』
ジョバンと合流して街へと戻るすがら、さっそく神の御使いナビゲーターから確認が入る。
「しょうがねーだろう?他に手がなかったんだよ」
『それはもう結構ですから、今後竜種をどうするか尋ねています』
「・・・あの子、竜族の子供を預かるしかない。竜達は勝手しない限り今まで通りにさせる。世界の秩序がどうの言い出しても必ず俺に声をかけさせる。飲めないならその竜種は滅ぼすってことでいいだろう?最悪でも地竜は残ると踏んでる」
『いいでしょう、竜種は力が全てですから。あなたがそれぞれの竜種の首長を締め上げればその条件を飲むでしょうね』
なんだか先生がぶっそうなことを言い始めた。
飛竜は通じたら普通に会話できたから、なんとなく大丈夫かって思ってしまった俺が甘いのか?
「え?しめあげって・・そんな面倒なことやらなきゃダメか?」
『拒絶した瞬間に滅ぼす選択ならそれでもいいですけど。あなたは月の女神や竜神に約束したのでは?神との約束を反故にするのはお勧めしませんけど、まあ好きにすればいいでしょう』
いやいやいや?俺だって神様との約束に勝手する気はない。
あと珍しくコイツが『お勧めしない』って?ナニがどうなるんだ?コイツは俺がどんな痛い目にあっても『それがあなたの選択です』だろうに。
「アイツら人の話を聞かないからやっぱり締め上げなきゃダメか?でも俺なんかに情けをくれた本当の神様たちから頼まれたから、お返しはしなきゃってわかってるつもりだよ」
『まるで本当ではない神様がいるみたいですね?』
本物の神様がたくさんいるのはわかってる。
でも信じる側が本当に神様だって思えるのは、こんな小さな俺達を気にかけてくれてる存在のことだ。
「俺が勝手に神様の理想を押し付けてるだけだろうけど」
『それがわかってるなら構いませんよ?どうせ私は本当ではないのでしょうし』
「バッ、ばかやろー!そんなこと決まってるじゃねーか!」
『その「ばかやろー」がすべてを物語っていますね、まあいいでしょう?今回はあなたの願いをかなえる神の役割も果たしましたし。ワタシに子守ではなく仕事をさせるようになったと自分の成果に納得しておきましょう』
プツン、と会話が切れた。
本当はちょっぴり感謝してるけどな?
ちょ、ちょびっとだけだけどな?
「それで?何がどうなったのか俺にはいつ教えてくれるんだ?」
俺の横で飛翔するジョバンが悲し気に問いかけてきた。
すまんと謝って飛竜とのことを説明しながらも俺は別のことを考えてた。
前世で俺が死んだときのことを。
俺はあの時に神はこの世にいないと強く信じた。
思い込んだだけかもしれない。でもあの時の俺にはそれが真実だって刻み込まれたんだ。
当然だ思っていた神様がいるなら俺は死んでない。
地球の神様のことはよくわかんねーけど神様はいる。
この世界にもきっと地球にも。
なのに救われることの無い子供たちが今日も死んでいく。
くそったれな人生だけ与えられて殺されていく。
凶悪な犯罪者に、集団の悪意に、狂った親に。
俺が思うような都合のいい神様はいないらしい。
慈愛に満ちて人々の願いをかなえる神様だ。
ならあの場所で生まれた俺は当たり前に死んだだけなのか。
俺の前世は何もなくて、殺されるために始まってただ終わったのか?
そんなことを考えながら俺達はシャルロットの元に戻ってきた。
「ひとまずかたを付けたぞ?飛竜たちは元々巣食っていた深淵の森へと戻ることになった」
「あらそうですの。手際のよい事で結構ですわ?」
あれ?口調が皮肉っぽい。
なぜに姫さんご機嫌ななめ?
ほっぽって二人で行ったから?
空気を察知したジョバンが口を挟んでくれる。
「シャルロット王女?ロクに話を聞かない飛竜達とのやっかいな交渉事を納めたんだ、ユーリにやさしい声をかけてやってくれよ?」
そうだそうだー
ジョバン俺は初めておまえのことが師匠に思えるよ!
連れて行った意味わかってるじゃないかよ!!
「あらジョバンさんもよかったですわねユーリと一緒に冒険ができて!お疲れ様でしたわ!ありがとうございますですの!」
いちいち語尾を強調するのはやめてくれよ。
竜の皇子とか深淵の森とか竜達にわからせとか。
飛竜達を深淵の森に返すためにイロイロしょい込んでトホホな心はライフがゼロなのに。
シャルロットは自分が置いてきぼりにされたことを据えかねているらしい。ジャジャ馬王女だってを連れていけるわけないだろうわかるよな?褒めたげないとダメなんだぞさみしいとウサギだって死んじゃうんだぞ?
「呼んだ?」
ピンクの頭がお腹から出たけど呼んでないゾ。




