第217話 懐かしい記憶3
ユーリ様の偉業はこんな辺境のサラマンド領でも届いてくる。
本当なのかと疑う話ばかりだが事実はどのみち改編されて広まるのが歴史の常。
それよりユーリ様のお立場が随分と俺の未来図と異なっている。噂が半分も事実なら俺なんて道端の石ころにすらなれない。
こんな噂だ。
魔法学院に首席で入学された。
聡明なるユーリ様であれば当たり前だ。
王国最高学府へ首席合格してしまうユーリ様に仕えるには俺も夜寝ている場合じゃない。
睡眠ゼロで勉学に励んだが4日目で領主に止められベットに倒れこんだ不覚を恥じている。
学院のガキどもを束ねて番長になった。
首席で合格されたから妬みもあっただろう。これを思うたびに自分がお傍にいられない悔しさで眠れなくなる。
圧倒的な力で貴族のガキどもを制圧されて、誰も逆らわなくなったのだから溜飲が下がる。それでも自分がお傍にいられないことはやはり悔しい。
第二王女のシャルロット様の護衛者となった。
別の噂ではお二人が恋仲という不敬なものがある。真偽は定かでないが強い信頼関係で結ばれているに違いない。
優しさと勇気にあふれたユーリ様、民衆想いで聡明だと噂のシャルロット王女。今回もお忍びでご一緒に旅行をされる仲だ。
ことの始まりはユーリ様が王女様を裏世界の陰謀から救ったからだと話す吟遊詩人もいる。みんな笑い飛ばすがユーリ様は自分の身近な人を放っておく方ではない。
御前試合でガイゼル総司令官に勝利した。
これも信じられない話のひとつだ。
勝敗は別としても御前試合でガイゼル司令官と戦ったのは本当だ。王都の知り合いから裏がとれた。
相手は10年間無敗の男ガイゼル。
圧勝したという話もあれば、幼いユーリ様に手を抜いた司令官に善戦したとか、ユーリ様の魔法に見どころを認めただけだと話の結末はいろいろ。少なくとも軍神に認められたのは違いない。魔法において国内トップレベルだと示されたのだ。
この話には続きがある。
御前試合の代表に選ばれる前に、ユーリ様はキルリス師団長を魔法で圧倒し最後はぶん殴って勝利したらしい。代表に選ばれたのはその功績だとか。
御前試合の代表に選ばれるのは武人としての最高の栄誉。国王に謁見の機会が与えられ名前は世界に知れ渡る。
そんな御前試合に魔法学院最強だから選ばれるなんてあり得ないから、俺はこの噂が真実であると考えている。
そう結論づけたオレは足が震えてベットにへたり込んだ。
ああ、あなたはどこまで行こうとしているのですか。
神様は善なるあなたにどれほど力を与えたのですか。
喜びに震え、恐怖におびえる。
ユーリ様が偉業を成されるほど、自分が小っぽけに思え、お目の端にすらかからないのではと震えが止まらない。
そして、北の連邦国の侵攻を防がれた件。
軍は公表していないが、キルリス師団長やキャサリン研究所長と出撃していく様を兵士が見ている。
戦場に神が降臨し北の大軍勢を追い払ったという話だ。
神様はユーリ様を守る為に奇蹟まで起こされたのか?
生徒会の副会長であるユーリ様は、尊敬する生徒会長の領地であるタペストリー領を守るために学生でありながら自分から志願したという。
俺は神様の降臨を固く信じている。
曲がることなく義に殉じ情に厚い。
そんなユーリ様を神様が見捨てることはあり得ないと信じている。
この話は吟遊詩人が謡い国中に広まっている。ユーリ様の名を出せないのが残念だが、我が領地では神に愛されし若き英雄のサーガとして劇場で演じられ民衆が熱狂している。
キルリス魔導師団長に気にいられてキャサリン所長と婚約されたことは有名だ。王国一の大教会で女王様も立ち合われて婚約の儀を行われた。神が祝福し教会が光り輝いた様子は広大な王都の端からでも見えたらしい。
キャサリン所長はキルリス師団長の秘蔵っ子。
美しい容姿でありながらも親しみやすく、誰とでも気軽に接し笑顔を絶やさない明るいお人柄で知られている。優秀な研究者で魔導士、そして誰からも親しまれる聖母。俺は一晩中神の采配に感謝の祈りを捧げた。
他にも噂は絶えない。
国王陛下から魔装具を下賜された、軍部の臨時教官に任命された、巨大企業ガリクソン社で開発顧問の契約を行いヒット商品をかっとばした。
冒険者としてわずか数カ月でS級認定された、師匠は冒険者ギルド一番のS級魔導士ジョバンであるとか。
深淵の森の共同調査で東の4賢人ゴルサット魔導士と友人関係を結ばれ今回も国賓として招かれているらしい。
王宮もユーリ様の価値がわかってきたようだ。
帝国がユーリ様を引き抜かないようシャルロット王女が目を光らせるのだ。西と東でユーリ様を取り合っているのが目に浮かぶ。
チャンスは今回しかないだろう。
なんとしてもユーリ様に認めていただき配下に加えて頂くのだ。
このままユーリ様が東の帝国の大幹部になり東の4賢人が5賢人に増えてしまうかもしれないのだから。
ユーリ様が西の王国のお立場のうちでなければ、わが領主様のお立場が疑われてしまう。ユーリ様と同じく大恩のある領主様に迷惑をかけることはできない。
深い森の遥か遠い先で神々しい光の奔流が天空へと昇っていった。
精霊のいたずらか神の降臨か。
森の騒がしさが自分の心のように思えて苦笑いが漏れる。
遠いこの地に影響してくることはないだろう。
馬車で何日もかかるほどの遠方での出来事だ。
「心がザワつきますね?強い火酒でもあおって少しでも眠らなければ。恩人に会う前に倒れてしまっては情けないですから」
サラマンド領の夜はふけていく。
次話は飛竜にもどります




