第213話 飛竜の殿
「お主は誰じゃ?」
隊長の後ろからひょっこりと顔を出した俺を殿が興味なさそうに一瞥する。
「俺はユーリで見た通り人間だ。飛竜の首長に話があってやってきた」
ショバンはついてこなかった。人魔大戦に巻き込まれるのはイヤだそうだ。
危険管理の勘が効いてるというか役に立たないヤツ。
「俺は俺が戦うべき相手と戦う。それが俺の宿命だ」
ジョバンがのたまったセリフだ。
爽やかな笑顔に白い歯がこぼれて帽子のツバをクッと持ち上げる。
これ以上巻き込むなこの野郎、をハードボイルド調に恰好を付けただけ。
そのくせ言ってることは当たり前?それとも『自分が戦うべき相手からも逃げる』と言わないだけましなのか?こいつの言う『戦うべき相手』って『自分が勝てる相手』のことだから。
「俺は決して自分の命を手放さない」
フッと笑いやがる。それって『命大事に』だろう?
冒険者として正しい、正しいけどな?
なので俺は一人で隊長の後ろにコソコソ隠れてまわりの隊員飛竜たちに気づかないフリしてもらって、ヒョッコリ顔をだしたわけだ。
「隊長ヨ、この虫を潰しておけよ?」
目に入った瞬間には俺や隊長に興味を無くしたようだ。
見向きもせずに丸くなって眠りに戻ろうとする。
相手にされないならしょうがない。
俺から目が離せないようにしてやろう。
慌てる隊長の背をポンポンと叩いて手の平を下げた。
下がってくれ、という合図で隊長も困った顔になる。
あんたに迷惑かける気はないぞ。
「なあ殿さま?俺はあんたに話があって来たんだけど」
闇魔法の魔力を集中させてクイッと人差し指を曲げると、殿の頭が万力に押さえつけられて無理やり動かされたようにクイッと俺の方を向く。
簡単な魔法だけど使える存在は世界に一人しかいない、闇の魔力で縛って全身を操る魔法だ。
もちろんこの飛竜はそんなこと知らない。
頭はビクともせず俺の方を向いていて背けることはできない。
どうしたらよいかわからず両手両足をバタバタと動かして慌てふためく殿。
「行儀が悪いな、きちんと座れよ?」
手のひらを開いて5本の指で両手両足からシッポに背中のハネまで魔力を通してすべてを俺の配下に入れる。グイッと指を握ると、シャンと音がしたように直立不動で立ち上がってそのままゆっくりと頭を地面まで垂れる。目だけはキョドキョドしてあっちこっちと忙しい。
話ができるようになったかな?
顔のすぐそばまで近づいていくと、ギョロギョロと俺を睨んで牙をむき出してきた。
体はピクリとも動かせないくせに反抗心だけは旺盛のご様子だ。
<身体強化>
強化した拳を威嚇してくる牙に振りぬいてみた。
竜種の最強武器のひとつがゴキンと音がして簡単に砕けた。
「おまえまだわかんねーの?体にわからせないとわからないか?」
こんなに優しく聞いてるのに?
竜種ってやっぱり力が全て、みたいなのか?
よだれの垂れる唇の端を掴んで、障子を指で破るようにビリビリと目玉の方まで皮膚を割いていく。
「これが最強の竜種の皮膚?随分柔らかくて指一本でスイスイ切れるけど。次はハネか脚か爪か?とにかく自分たちが最強じゃあないって教えないと話も出来ないから面倒くせえ」
俺が手刀を飛竜の肩にあてると、スーーーッと腕の付け根が切れていく。
バターナイフでバターを切るように。
しかもそのバターは少し暖かい場所でゆるくなっている感じの。
最後の腱が切れて、ポトリ、と飛竜の右腕が肩から落ちた。
「さあ話ができるかな?それともまだ生意気な口をきくか、っておい?」
俺をギラギラと睨んでいた目が白目になってバランスが崩れた体がゴトンと倒れた。
「き、貴様、殿に何をするっ!!」
さすがに焦った隊長が飛び出してこようとするけど面倒だから結界ではじく。
バチンッと音がして森へと落ちていった。意識はうしなっても竜種が地面に落ちたくらいなら大丈夫だと思う。
「極回復と。ふう」
殿を回復させてほっと一息ついた俺。飛竜の大軍が不安そうに取り巻いている。
微妙に距離を置いて。
危険物に近づくな、でもほっとくわけにもいかない。そんな距離。
飛竜たちは鳴き声ひとつあげない。不安そうに怖そうに頭を垂れて俺を見つめてくるだけだ。
見た目完全に治したのになあ。
ボカンッとシッポあたりを蹴り飛ばすと気が付いたようで、殿は顔をあげて自分の腕を見て、今度はその腕で自分の顔や牙をペチペチと叩いて確認。
「ワシはつまらぬ夢でも見ておったのか?随分と恐ろしい夢をええええ!?お主は夢に出てきた人間!?」
「さあな?ところで話をしたいんだけどいいか?」
「むむむ?お主なんぞと話すと口が腐るわ。ほれお前達さっさとコイツを排除するがいい!!」
さっきまでと違ってなんだかビビって腰が引けてる。それでも定番通りに俺を何とかするつもりらしい。
違うのは俺が振り返ると飛竜の兵隊たちがジリッと後ずさったことだ。
「俺とやるならいいけどよ?だんだん会話するのも面倒になってきた」
俺が一歩兵隊たちの方へ出るとジリジリッと二歩下がる。
なんだかまた弱いものイジメって言われちまいそうなんだけど。
こっちは会話したいだけなのに、他の種族とは対等でいられないのか?
手のひらに魔力を込めて輝く玉を生み出した。
魔力を込めて温度を上げていくと玉は白光りして白煙が何重にまとう。超エネルギーが玉に圧縮されて凝縮されて、今にも破裂しそうなヤツだ。どんなボンクラが見てもこれが破裂した瞬間に自分が細胞レベルから蒸発するのはわかる。
兵士たちを見渡すと目を見張ってピクリとも動かない。
「最初に死にたいヤツにプレゼントするけど。コイツと対話とどっちがいいか決めてくれないか?お勧めはしないけど全滅を選んでも瞬間で全員あの世行きだから寂しくはないと思うよ」
この山には結界が張ってある。
岩山が蒸発するだけで大森林に影響ない。
後退して逃げようとする飛竜が結界に当たってバチリと跳ね返された。
逃げ場はない。
「最終確認だ、俺と話をしないか?」
周囲を取り囲む飛竜に目を配ってから殿を正面から見据える。
「人間なんかとは話ができないというなら飛竜種は今日ここで絶滅だ。俺に手を出そうとしたのだからおまえらも覚悟はできてるよな?」
殺そうとしたヤツは殺されても文句は言わないよな?
「こ、これは夢・・・では・・・?」
まだ寝ぼけたことを言ってる。自分の種族が消滅するところなのに。
竜種って強さが全てなんじゃないのか?それとも自分達より強い存在なんて最初からいないと思ってんのか?相手を認める気はないのか?
だったら竜種は滅ぶしかない。
自分達のせまい世界が最高で最強だと思っているのなら。自分達以外を認める気がないのなら、永遠に話なんてできない。
「返事は『これは夢』でいいんだな、次はもう回復してやらないからな?魂ごと消滅してしまえばいい、兵隊さんたちも恨むならこの殿を恨めよ?」
ピッチャーのようにふりかぶって殿に特製のボールを投げようとしたところ
「ちょっと待ったあーーー!」
結界の外から隊長が必死の声をあげた。
この男だけはと締め出してホカしておいたのだけど。
ジッとして欲しかったけど。
まともなヤツはやはり現実に向かって声をあげるのだった。




