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第211話 飛竜の理由

「ご無沙汰しておりますわ」


チョコンとドレスの両端をもちあげてシャルロットが淑女の礼。


「こちらこそ一息つかれるところ申し訳ありません。今日はご挨拶だけですぐにお暇いたします」


シャルロットはシンプルなドレスに王女スマイルだ。


「いつも王国の食をお支え下さってお礼申し上げますわ。おかげで民も飢えることなく、私もおいしいお食事を頂けてますもの」


侯爵領は食肉の生産基地だ。

王族にとっては軽んじることなんて出来ない。


「とはいえ、今日はあまり放牧されているところをみませんでしたわね?」


聞きたいことは早い方がいい。俺達の滞在は短い。


「最近ちょくちょく飛竜が出て難儀しています。放牧する牛や羊が空から狙われますので厩舎から出せないのです」


「ワタシ達も大森林の終わりから何体もの飛竜が旋回しているのを見ましたわ」


「冒険者ギルドに駆除を依頼していますがヤツラは自由に空を飛んでいます。ずる賢くて冒険者がいる場所には近付いてきません。さりとて冒険者を全ての牧場に置くには人数か足らず、このままでは王国軍に救援を依頼するしかないかと苦慮しております」


ハンカチーフで汗を拭き拭き語るパリシヤ侯爵は恥ずかしい告白でもするように頭を下げる。

俺より一回り年上くらいだろう、領主としては若造だ。周りの古参貴族から圧をかけられてアクセク奔走してるのが目に見えるようだ。


「ワタシ達も協力して差し上げたいところですけども。一匹二匹、いえ十匹二十匹減らしたところで元に戻ってしまいそうですわね?」


そんなことを平気な顔で話す王女。


え?十匹二十匹?ホントですか?


アッケに取られてるのが侯爵の顔に出てる。


「い、いえ、それはそれだけ減らせるなら助かるのですけども。でもそんなことは可能なのでしょうか?」


「そうですわね、王国の秘密兵器を使えばあっという間かもしれませんわ?」


バサリッと扇子を開いて口元を隠すシャルロット。俺たち側には表情がモロバレだ。そして俺の方をニマニマ見てる。


この侯爵も年寄り貴族たちの間で右往左往してるだろう。立場が似て大変なのもわかる。協力はいいけどよ?

ジョバンに頑張ってもらえば俺は目立たないハズだし、つまり人間でできる範囲なわけだから。


ホント大丈夫か?

何かオレ間違ってないか?


侯爵が膝まずいて頭を垂れる。ナリフリかまっていられないのだろう。

「親愛なる女王陛下にパリシヤ領を代表してお願い申し上げます、我が領に御力を貸していただけますでしょうか?」


「もちろんですわ。王国を支え日々奮闘されるパリシヤ領にできるかぎりの協力をお約束します」

当たり前のことだとシャルロットは言い切った。微笑むからは慈しみのオーラ。侯爵からすれば天からの助け、王女が輝いて見えるだろう。


ポタリ


侯爵の涙がカーペットに跡をつけた。


飛竜の問題は重くのしかかっているのだろう。

声をあげる領民にどうもできず悩み抜いたに違いない。


「さあ涙をお拭きなさい。ワタシ達王族は忠実な臣下とともにあるのよ」


そっと渡したハンカチは白く輝いていた。

涙にぬれる侯爵を立たせその手をしっかりと握りしめる。


「ところで飛竜が増えた原因は何か思い当たりますの?やるのであればその原因に対処すべきでなくて?」

涙をぬぐうと、おっしゃる通りなのですがと侯爵は頭をひねった。


「ほんの数カ月前まで飛竜が出ることはなかったのです。もともと大森林にはほとんど生息していない種族ですから」


どこかから大森林に大量に移動してきたということになるのか?


「もともと飛竜は国境の先、深淵の森の奥深い山脈で竜の守護を受けて生息する魔獣ですので」


どうしてこの場で聞きたくないワードが出るのだろう。


「深淵の森に異変が起こったようでして、飛竜たちが逃げるように大森林へと移動してきたのです。しかし懐深い大森林でもヤツラが満足する獲物には足りませぬ。それでわが領地の牛や羊を狙い始めたようなのです」


俺をからかうように笑っていた姫さんの笑顔が固まっていく。俺に向けた目が細くなってジトリと冷たい。


困っている領地に力を貸す立場が一転。

その原因はウチラのせいでしたすみませんご迷惑をおかけしてます!自分がまいた種は自分で刈り取らせてもらいます!そんな空気だ圧がすごい。


ちょっと待つのだ、かなり俺のせいっぽいけどまだ決まったわけじゃない。


『竜種に加護を与えていた竜神が毎日私のところへ訴えにきてますから。竜族が混乱したシワ寄せは下位の飛竜に押し寄せているでしょうね?種族の生存が脅かされたら下位種ほど慌てて逃げ出すでしょう』


何となくわかる説明ありがとう先生!


俺は膝を手のひらで打つ。パンッといい音がした。


「わかりました!姫様がそこまでおっしゃるなら私が何とかしてみせましょう!」


「・・・・」


おい。


俺は今、姫さんの面目を立てたよな?


なんでそんな冷ややかな?氷のような目で?何を言ってるこの虫けらめ!って俺を見るのやめてもらっても良いですか?


わかってる!そうだ俺のせいだよ!


『その通りですよ。そして自分の非を認めてさっさとリカバリーした方が物事は簡単ですよ?』


ううう。


俺をなぐさめてくれる相手がいない。


『泣き言を言ってる暇があれば対策を考えるのがよいのでは?飛竜を二・三十匹討伐しても根本的な原因解決にはなりませんよ?』


「竜種との話にケリをつけなきゃ収まらないってことだよな?」


『竜の子が保留になってますからね。おかげで竜神からのお詫びとお願いが絶えることがありませんよまったく。マトメてさっさと片をつけてください』


あの子はギンさんとロボに預けてある。

ギンさんはしょうがなさそうに笑って受けてくれた。

俺の従魔でも何でもないのに、面倒くさい話を頼むと『しょうがないなあ』って感じで受けてくれるからつい頼ってしまう。俺ってそういう姉御とかに縁がいいのかあぶなっかしくてほっとけないのか、どっちにしても感謝しかない。


「ならこの件は私に一任していただきますわね?数日滞在を伸ばしますので」


もちろんシャルロットがこちらの事情を侯爵にわざわざ説明はしないのだけど。お手伝いじゃないわよやるしかないのよ!そんな強い意志が向かってくる。


「ありがとうございます王女様、この御恩は我らの忠誠をもって必ずお返しいたします」

侯爵の断固とした瞳は信頼出来る。それだけのことなんだ。


「それは全てがうまくいってからでよろしいですわ?では副師団長さっそく作戦を立ててくださいませ」



ウチは通常営業

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