第21話 試験当日。見てごらん?
1年近くも家庭教師キャサリンから受験対策を受けた俺。
いよいよ試験当日になった。
午前が座学、午後が実技。その後面談もある。
正門の先に張り出された案内で試験場を確認していると、後ろから声をかけられた。
「おはようユーリ。今日は二人で合格するわよ」
声の主はソフィア・ランドラスター。
一緒に受験する同い年の女の子で、この娘もキャサリンが家庭教師をしている女の子。
俺よりさらに1年も前から教わってるから受験への気合が違う。
これまで2度ほど一緒に勉強した仲でそれ以来交流がある。
勝気な性格で物事ハッキリ言い切るのがわかりやすい。
彼女と俺を引き合わせたキャサリンから聞いた。
「彼女は普通に合格するよ。勉強も実技も合格ラインより全然上だからね」
「それはつまり」
「まさにキミが望んでいる順位で入学する子だと思うから。紹介するからいろいろ話を聞いてみなよ」
ということだ。
彼女は勉強のわからないところを俺に聞いてきたりするし。
俺は彼女のいろいろを聞かせてもらって参考にする。同い年くらいの受験生の勉強や魔法のレベルとか。どんなとこで困ったとか、どうやってできるようになったとか。
彼女は気付いてないかもしれないけども、お互い助け合ってきた同士だから彼女も合格して欲しい。
「席は離れてるけどおんなじ教室で試験だね。お昼は一緒に食べよ?」
「昼飯が不味いメシにならないように頑張ろうね」
「まかせて。ユーリもよ!」
チーン
午前の試験終了。
「お、おい、泣くなよ。大丈夫だって」
「だ、だって、わかんない問題がいっぱい、あって、なんて答え書けばいいかわかんなくって、それで、」
俺が言った言葉がフラグみたいになっちゃったのなら申し訳ない。
潤んだソフィアの目からは今にも涙がこぼれそうだ。
とりあえず彼女のお弁当と水筒も小脇にかかえて中庭のベンチを陣取る。知り合いの女の子が泣いてるところジロジロと見られたくない。
「今回の試験はこれまでの試験とは大きく内容が違ってた。あれは受験対策だけじゃ苦しいよ。でもみんな同じだったと思うよ?」
俺は席が後ろの方だったからよく見えてた。
受験生の大半が問題を見て「あぁ~あ」ってお手上げな感じだんだから。
今まで出たこともない分野とか、入学前の子供にこれがわかるの?って感じの深い分野とか。在校生でも解けないヤツの方が多いのでは。
俺にはそれがわかる分、ソフィアは善戦したんじゃないかと思うけど。
大事なのはこれまでの受験対策でやったとこは確実に点数をとって。その上で他をいくつ答えられるか。
彼女のようにくやしい顔しているのは最後まで粘った証拠だから、やっぱりいい線いくと思うんだけど。
それに比べて途中であきらめたヤツの顔の清々しいことったらない。
俺はそういうヤツ好きだけど。ダメなら次へと割り切るのは生きていくには当たり前だ。
ソフィアは何としても受かりたいって気持ちが強くて、できなかったマイナスの気持ちを引きずってる。午後には魔法の実技試験があるから切り替えた方がいい。
不安や焦りは魔力を錬成する集中力を邪魔してしまうから。
彼女に俺が思ったことを分かって欲しいと思うけど、言葉で言っても慰めにとられちゃうだろうし。
なんとか気付かせたいな、とまわりを見ると、他にも疲れた顔したり泣きそうになったりした子たちがチラホラ。
俺達と同じように何とか気分を変えようと中庭に出てきた子供たち。
みんな考えることはおんなじだ。
落ち込んでうつ向いてるソフィアの後ろにまわる。
頭のツムジが目の前、へんな感じ。
でもうなだれてる彼女はそんな俺に気付く余裕もない。
俺はいたずらっぽく後ろから彼女のほっぺにそっと両手を添える。
「へ?なに、なに?」
ビックリして俺の方へ振り向こうとするソフィア。
少しは目が覚めた?
かまわずに彼女の耳へと口を寄せてしゃべる。
「ほら、見てごらん」
「へぎゃ」
へぎゃ?
彼女の顔を抱えて、まわりに座っている受験生が見えるように左へ右へ顔を向けさせる。
「え?え?」
俺が何がしたいかわからずソフィアは疑問符だらけ。
もっと冷静になれるから。
まわりを見渡してごらん。
「今日の試験は絶対に難しかったよ。あれが出来たのはトップクラスで合格するやつらだけ。それ以外はみんな口惜しそうだね」
ほっぺが柔らかくてあったかい。
グニグニしたい。しないけど。
「ここにいる子たちをみてごらんよ。みんなそうだから」
あちらのベンチにもそちらの芝生にも。
座っている子供たちはみんな落ち込んだ暗い顔だったり、無理して気持ちを切り替えようとひきつった笑い顔だったり。
午後の実技に向けて一生懸命切り替えようと頑張ってる。
「・・・うん」
まわりの子たちを見回して気付いたみたい。
みんな似たような立場だ。
「まだみんな点差はついてないと思うよ。もしかしたら俺たちはちょっとできてる方かもしれない」
「そうかな?」
「そうさ。ソフィアが最後まであきらめずに頑張ったのは後ろの席から見えてたしね」
こちらを振り返った彼女は、ちょっと赤くて膨れた顔していた。
照れてるらしい。
「ズルイ、ズルイッ!」
「なにがさ」
「ユーリばっかり私を見てっ。私もユーリが頑張ってるところ見たかった!」
言ってることにちょっと笑ってしまう。
人に見られながらの試験っつーのもなんだかだけど。
「俺じゃなくて試験問題を見ないと!」
「そりゃそうだったね!!」
いつものハッキリした口調が戻ってきたから大丈夫じゃないかな。
二人で昼飯食べてちょっとだけバカらしい話をして笑いあって。
彼女の気持ちもほぐれたかな?