第207話 ある研究者のささやかな冒険(上)
全くどういうことでしょう?
皆さんワタシを不思議な目で見ますけど。
ワタシからすれば他の方々の行動の方がよっぽど不思議です。
誰だって興味があることをやりたいのは当たり前ではないでしょうか?
それをしないのであれば、なぜこの世に生まれたのかわかっていない。
興味があるから必死になれる。必死になれるから誰も到達できない発見ができる。
発見は人の役に立つのですから、もっともっとやりたいようにやるべきです。それが当たり前の道理でしょう?
なぜワタシがやろうとすることを皆さんが止めるか教えて欲しいですよ。
世界はまだまだ大きな不思議に包まれています。
それなのにちっぽけな人間の尺度でわかっているフリをする人間がいかに多いことか。
この世界をわかってるつもりの自惚れたバカな人たち。
人間は所詮神様の足元にも及ばないバカモノなのですから、フリなどせずにバカ丸出しで思いっきりやればいいのに。
どうせ私たちは神の御手の中で遊ばせてもらっているだけなのですから。恩恵を思う存分謳歌するだけです。
人生を楽しめないおバカ達をみていると、同じバカでもあんな風になってはいけないと思います。
彼らは私が研究を発表するたびにこういうのです。
「それってスゴイの?」
そして次にはこういう。
「それって何の役にたつの?」
新しい発見に目ざとい商人から商品が発売されるとはじめて
「便利になったもんだ、すごい技術だ」
認められるのは手に取って見えるモノを作り上げた職人や販売した商社さんであって、元の理論や研究を行ったワタシではないのですけど。いいでしょうそんなこと。
おかげで今日も食事ができて(正直美味しさも栄養もワタシにとっては関係ないのですけど)着る服があり(暑くなく寒くなければナンでもいいのですけど)眠る場所がある(ベットがひとつあれば場所は関係ないですし)のだから文句も言えません。
何せ私はこの世界という広大な遊び場を借りている立場ですから。遊びつくすには人生の時間が短すぎるのですから。他人にどう思われようと気にしてなんかいられません。
自分なんて最低限維持できればあとは何でもいいのです。研究場所も資料や器具も全て王国が準備してくれます。
夜の大森林。
冒険者さんたちは狩りで野営することもあるでしょう。ですがそれ以外の人間にはそうそう体験できることがないフィールドです。
研究者として調査の野営は森の浅い領域まで。そんな貴重な機会ですら護衛のせいで自由に動けない。
こんな機会二度とあるかわかりませんから行くしかないのです。
灯りと魔物避けの護符とフィールド研究セットを持って出かけましょう。
ナイフにロープに救護セットに水筒と小さな魔石が入っているオリジナルセットです。
魔石には普段から魔力を充電してあります。疲労して動けなくなった時の活力剤程度ですけどね。
頑丈さだけが取り柄の魔物皮の大きなリュックに詰めて出発します。
バレるとうるさいですから誰にも言わずコッソリと。
衛兵さんたち警護の抜け道はチェックしてあります。
魔力感知できるジョバンさんは酒瓶片手にユーリ副師団長のところ。しばらく経ちましたから今頃は酔っぱらっているでしょう。きっと赤ら顔で副師団長へ私のグチでも言ってるに違いない。
魔力感知は魔力量ではなく精密さと面倒くささですから。隊長のタイプは酔っ払ってしまえばやらないハズです。
副師団長だけは別ですけど。
あの青年は面倒くさがって私に絡んできませんしシメシメです。普段からの行いのたまものというわけです。
あの人についてはよくわかりません。
副師団長は若造だから何もできない体を装ってますけど、私が欲しいものを全部持っているようで底が知れない。
表だって宣伝しませんけどS級冒険者ですからわかってないはずがない。
若い研究者達の提案なんて軽く蹴っ飛ばすからみんな副師団長を怖がりますけど、知識も経験も私達の遙か先を見ているのでしょう。説明を面倒臭がってS級証をちらつかせるのは頂けませんけど、理由を聞けばワタシが理解出来るところまでは教えてくれますから。一度きりでもう聞きませんけどね、答えのわかった謎解きなんて面白くないですから。
一人で冒険者でもした方がお金も名誉も手にするはずですが、王宮貴族たちにペコペコくだらない折衝をしてくれるわからない人です。
利用させてもらっている私ですが、いなくなったら次の人にお願いするだけなので別に罪悪感もわきません。
そっと窓を開けて。
リュックを先に外に落として。
よいしょっと。
ひさしをまたいで静かに音を立てないように。
研究に必要な体術と体力には自信がありますよ?
必要なのは静けさ、タフさ、あとは度胸。
研究者をガリガリのモヤシと勘違いする方が多いですけどね。
実際痩せてますけどこれは食べるのが面倒くさいだけです。
外に出ると月が明るい。
影になっている部分は惹き込まれるような闇、月光があたっている部分はきちんと輪郭が見える。
別荘というだけあって小高い山の上から広大な森がみえる。延々と広がる巨大な闇に月の光が形を与える。
あたり一帯の木々が月光を吸って身を休めているようにも見える。
「月齢は満月ですか。この森全体から立ち昇るオーラは何でしょう?癒し?美しさ?それとも」
全体像を把握して今日のテーマが決まりました。
さっそく降りてみましょう。
現場に入り込まないと実際の森の中がどうなってるかわかりません。
キャサリン所長もよくおっしゃってます。最後は現場です。
少し下った先の湖まで。今日のところはそれくらいで勘弁してあげましょう、時間をかけてバレるとジョバン隊長がユーリ副師団長にしかられてしまいますから。
月光が与える影響を確認してみます。
ザクッザクッと湖へと向かう下り坂に歩みを始めたその瞬間。
彼は強い力で肩を掴まれた。
「副所長さんよ?勝手なことされると俺がこまるんだけどな」
ジョバン隊長だ。
三話ほど寄り道です
明日と明後日も 久しぶり連続更新します
年末年始の気分転換になれば嬉しです




