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第206話 馬車は行く

改稿は誤字脱字と表現の修正です

パカラッパカラッパカラッ


石畳を馬車が行くよ


4台連なった真ん中を走る馬車は豪華な王国の紋章入り。

国を代表して他国を訪問するときに使う王宮ご用達の馬車だ。

シンプルだけど品が良く頑丈なつくり。


王国軍のごっつい馬車で中の2台を守るように挟んで護衛任務してくれている。

調査隊の流れで今回もジンが参加してくれた。先頭の馬車で目を光らせてくれてるから安心だ。


目指すのは東の帝国の都、央京。

現代の世界観では中世ヨーロッパからお江戸へ行く感じ?

馬車は東方面へ。大陸の中央に任座する大砂漠を回避して端にかかる南の大国を通過する。

南も共同研究に参加してるから領域を通過する許可は国家同士で通っている。


旅は王都の東の大森林を通過するところからはじまる。キルリスが東の基地へロボさんと突撃したのもこの森の奥。大砂漠と深淵の森に伸びて先は東の帝国だ。


各方面から王都へと延びる主要街道には定期的な整備が入っているから馬車は問題なく移動していく。

商いは交易から。交易は船と街道から。

この時代、長距離を経た商品ほど貴重性があがり高価となる。

南の庶民の食べ物は北では王侯貴族が高級レストランで食べる御馳走となり、東で貝からとれる丸い玉は西で貴族ご用達の貴金属店に高額で並ぶ。

国も商いも人材も、その全ては海路でなければ陸路、特に国家間をまたぐ長距離輸送は各国が整備する街道を経由することになる。街道は国家にとっても街道は兵士が進軍するための経路であり、補給線でもあるのだからおろそかにはできないのだ。

整備に費用がかかってもその分通関税をとっているし、街道整備だって雇用を生み出す社会基盤でもある。


「こんな考察も実際に自分の目で見て体で感じてこそ深まるのですわ」


護衛に挟まれた豪華な馬車の中。

シンプルで動きやすいドレスの少女がうなずきながら考察する。

豪華さを控えてフィールドワークもできる恰好。

それでいて他国の貴族とも立ち話くらいはできる礼儀を外さないドレスをまとい、プラチナブロンドでキュリンキュリンに巻いた髪をなびかせる西の王国第二王女シャルロット。


「おいおい?窓から顔を出したら危ないって言われてたんじゃねーか?」


ひじ掛けにヒジをついて、だるそうに片目だけを開けて注意するのは東の研究団の代表であり魔導士団の副師団長ユーリ。

動きやすさ優先のシャツとパンツだが、高級な魔導士のマントを羽織って副師団長の体裁を保っている。

なにせ国の研究団の代表者だ、いつ国を代表して会話するとも限らない。戦闘向けの軽装とはいかないのだ。


こんな移動なんてやる気のヤの字も出ないユーリ。

難しい顔で目をつむっているが魔法索敵を大森林全土に巡らせており、一角ウサギがジャッカルから逃げようとして足を滑らせてコロコロと坂を転がり落ちる様や、森の奥の滝つぼでユラユラと優雅に泳ぐ大鯰のヒゲに川エビがかじりついてあやうく大地震が起こりかけたりを微笑ましく観察している。


「空気の質が変わってきましたよ生態系が随分と変わってきましたよ!これはいったん馬車を止めて観察せねばなりません、副師団長に号令をかけてもらえますか?」


研究者然とした白衣に身をつつみうなり声をあげているのは研究所の副所長であるザハトルテだ。

面倒くさい交渉事から逃げ回り丸投げは王都と同じだが、ユーリ宛てのお願いをわざわざジョバンにするところがユーリの癇癪に触れる。

ザハトルテからすると、即決でノーを突きつけるユーリより深淵の森で面倒をみてくれたジョバンの方が頼みやすい相手なのだ。


「・・・ユーリ、魔導士団内の業務連絡でわざわざ俺を通すのはやめてもらえるか?」


ユーリは細目を開けてジョバンと目を合わす。


「護衛隊長と護衛対象者の雑談に割り込むほどヤボじゃねえよ」


ザハトルテ副所長の願いは雑談として扱われ聞かなかったことになるのはいつものことだ。


「だとよ。あんたも護衛される側なんだから窓から顔出したりするのはやめてくれ」


ホトホト疲れたよとあからさまに顔に出すジョバン。

もちろんそんなことでめげるザハトルテではない。


「いい天気ですねえ、少し奥に入れば変わった魔獣と出会えるかもしれませんねえ」

ジョバンの忠告はワクワク感が止まらないザハトルテに華麗にスルーされた。


「なあ、ユーリ?」


「言わなくてもわかってる。言葉にすると腹立たしいから口にすんな」


ピシャリとユーリに言い切られてしまい、俺は便利屋じゃねえぞだいたい師匠なんだけどこの扱いなんなんだよ?ボソボソとひとりごちる冒険者ギルドのS級魔導士に中年の悲哀が漂う。


しかしユーリからすれば、自分のほうこそこの面倒くささに勘弁してくれと言いたいのだ。


長距離の移動が馬車旅とだけでも面倒なのに、初の長距離旅行でワクワクの少女と見知らぬ場所に行けばワクワク研究者の「お守り」だ。

そんな自分勝手が過ぎる子供な大人たちを率いる責任者の立場。それでありながら王国を代表する立場で東とは面倒くさい話が待っているのだ。

本来代表という立場で一番大事にされるはずの自分が一番下っぱのように周りを注意し交通機関やルートも取り仕切り、相手国ゴルサットへの連絡も行い、さて今日のお宿や食事の手配から王様に預かった旅の資金の管理もしなければならない。


せめてもの救いはジョバンが前回の調査でザハトルテと顔見知りであり、面倒のひとつを押し付けられたことだ。

ユーリとしては返品されると困るためジョバンの泣き言はいっさい聞く気がない。


「今日は大森林の中にある王家の別荘で一泊するからな?遅くなるけど突っ走るぞ」


この国の中では王家の別荘や信頼のおける貴族の邸宅に宿泊する予定。

しかし王国の領土を超えればそこからはユーリの裁量にゆだねられている。


「ヒトケが無くなったら俺とジョバンで王女とザハトルテさんを抱えて飛翔しちまうかな」

ユーリがそんな泣き言をボソリと吐こうものなら。


ギュウウッ。


ユーリの太ももが細い指で力いっぱいつねられる。

痛い痛い痛いってば!


「何かおっしゃいまして?」


面倒くさいぞコレ。

どうせなら姫さんが納得してくれるイベントが起きて非常事態っつーことで飛んじまえば・・・いや偶然を待つよりむしろ俺がコトをおこしちまえば


ギュウウウウウウッ!


「とってもよからぬことを考えてなくて?」


「な、なんのことかな・・・?」


涙目で周りを見渡しても今度はジョバンが窓の外を眺めてスルーを返すのであった。



俺達が王族の別荘にたどり着いたのはすっかり日が落ちたころだった。


きちんと清掃された屋敷、待ち構えてくれていた世話係に料理人。

熱い湯をはった大浴場で汗を流せたし、滞在している衛兵が眠らずの番をしてくれる。どうせ今のうちの極楽、ゆっくりさせてもらう。


王女様はプライベートスペースへ、俺達には一人づつ客間を借してもらい清潔な部屋でのんびり。ジョバンが酒瓶を抱えて入ってきた。


「どうにも落ち着かないなこういうのは」


どこかの高級ホテルを思わせるベットルーム。

幅のあるベットに真っ白なシーツ、フカフカのマクラ。


ジョバンには似合わないな。

ジャバジャバと俺のコップにワインを注いでくれるけど、自分は酒瓶からラッパ飲みしてるヤツだ。


「いくつか気になったが何か知ってるか?」


「知ってはいないけどわかってるつもりだ。どれの話だよ?」


「王国の魔導士が1名随分後ろから俺達と同じルートをたどってる。鳥の従魔を先遣させてこちらの様子を見ている」


キルリスのやつだな。アイツが俺達を心配するわけがないから王様へのポーズが入ってる。


「冒険者の体をした魔導士と騎士のグループが俺達より半日分先を進んで露払いをしてくれてる」


「似たような感じのグループが後ろにもいて俺達の殿を務めてくれてるんだろう?」


ガイゼル総司令官も同じだ。


「そこまではいいんだけどよ?それ以外にも魔力の気配はするけどハッキリわかんねえ」


ジョバンの魔力ならそんなとこだ。

人間としては高度な魔力探知だけど、安全な旅には足りない。


「東のエージェントだ。2組ほどいるけどべつに俺達に何かしようとしてるワケじゃねえぞ?王国のヤツラより広範囲で様子見と安全確認をしてくれてる。おまえも<隠密>のスキルを勉強するのに丁度いいから注意して魔力探知してみろ。闇魔法のレベルが60台の腕っこき達だ」


かなりの実力者だ。

今は様子見でつかず離れずだけど、国境を越えたら王国側に代わってがっちり見守ってくれるつもりだろう。ぶっちゃけこの時点では国境侵犯だから悟られないようにコッソリと。

姫さんの前じゃ言えないな。

ジョバンがくやしそうだ。


「なんだかお前の方が俺の師匠っぽく感じるのは気のせいか?」


「ジョバンの了見がせまいせいだぞ?教えてくれる人がいるんだから感謝から始まらないと」


おまえも大人になれよ、ウンウン。

世界が広がっていくから。


「おまえ何でも正論を言えばいいってもんじゃないぞ?ちょっとは気遣ったり思いやったりしないと、俺の心のチワワがキュンキュン泣いてるぞ?」


「動物をイメージで見るのやめた方がいい。見た目にだまされるぞ?あと1組だけ身許がわかんねーコンビが森の中にいるけど敵意は感じないな」


「そうなのか?かなり遠方だろ?」


「離れて警戒してるだけだ。俺達じゃなくて離れて守ってくれてるヤツらを様子見してる。それよりほら、おまえにはもっと気を張ってチェックしなきゃいけないヤツがいるだろ?今も抜け出そうとしてるぞ?」


にがーい顔をしたジョバンが酒瓶をテーブルに打ち付けて出ていった。


「早く戻ってこねえと全部飲んじまうからな」

バタンと勢いよく閉まるトビラ。

俺は笑顔で見送った。


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