第203話 竜の子
「キャサリン帰ったよ・・・アラお客さん?」
「うんユーリ宛だよ。客間にお通ししてあるからね」
研究所の営業に学園での講義一コマ。
速攻でばっくれようとしたら熱心な生徒たちにつかまり質問攻め。
今日もよくやったよオレ。
ヘロヘロになりながらセーフティゾーンにたどり着いたハズなのに。
俺の聖女は笑顔だけどなんだかギコチナイ気がする。
「いつものようにベタベタできない・・・」
「ほら、がまんがまん。随分待ってるから行ってあげて?ベタベタは後からでもね・・・わかんないけど」
「え?キャサリン何か?」
「何でもないよ。さあさ行った行った!」
キャサリンに背中を押されるとしょうがない。
応接の間の扉を開けると、ソファに男の子がうずくまって寝てた。
横には小さなダンボール。
「誰これ。どこの子・・・?」
スウピイとあどけない寝顔の子供は6~7歳くらいだろうか。
「でも只者じゃない。これ人間じゃないよな?」
レベル250。人間なら完全にオーバー・スペックだけどあり得ない。同じ年ごろの俺はせいぜいレベル二ケタか?ぶっちゃけ人間で俺を超えるのは普通に無理な話だ。
神様のナビゲーター付きのオレより先はない。
スキルは竜の息吹、竜のブレス、竜の・・・ってこの子は竜種じゃないか。竜神様が送り込んできたヤツだろう、神さま仕事めっちゃ早い。
こっちの気が変わらないうちに手を打ってきたのだろう。
この子の人化はただ人間じゃないるめっちゃきゃわいい美少年、罪作りな神さま前世の俺がこれを見たら泣いてるよ天のえこひいきに。
「え?ご主人様に比べたらゴミクズですよこんなの?」
ピョコリと顔を出したトカゲちゃんが、なんで?ってお目目で俺を見つめる。
どうしてこの子はこんなにかわいいんだろうなあ。
俺が指の腹で頭をなでると嬉しそうだけど、フンッて顔で竜の子供から顔をそらすとポケットに戻っていった。
でも竜種もサラマンダーも大きな分類は爬虫類系なはずだけど。
「そんなこと言うご主人様は嫌いですっ。プイッ!」
珍しくトカゲちゃんが拗ねた。
実際の年齢はわからないけど若いドラゴンに違いない。
スウスウと寝息を立てるのを起こすのも忍びなくて、起きるまで子竜のことをチェックする。
竜は竜でも氷竜種。
見るのは初めてだなあ、魔法スキルも<氷結>や<猛吹雪>やっぱり氷系中心。
深い青色の髪がきれいなのはイメージ通りだけど、やさしくてフンワリした雰囲気からは戦闘種族のイメージは全く連想できない。
「ユーリ様でいらっしゃいますか?」
うつろなマナコをこすりながら、ボンヤリした顔で俺を見つめる。
「そうだけど。キミは竜神に言われて来たのかい?」
「ええそうです。ユーリ様がおっしゃるならどんな修行にも耐えて見せますので宜しくお願いします!」
寝ぼけながらのガッツポーズ。
こんな美少年にこんなこと言わせていいのか?
「いいんだけど。修行ってもなあ」
何を修行させればいいんだ?
腕立て腹筋背筋にランニングとか?
それとも魔法の特訓?
『あなたが竜種に足りないと思うものを修行させれば良いのでは?』
ナビゲーター先生からいきなりご指導だ。先生も気になってるな?ってあんまり言いすぎるとまたヘソ曲げるからやばい。
足りないもの?
竜なんだから放っといても勝手に強くなるだろうし。若い竜なら今でも十分すぎるのでは。
竜の成長は知らないけど、普通に数年?も成長していけばロボやギンさんとだっていい勝負だろう。
そう考えると竜種はずるい。ふつうに成長しても各種族の限界突破した強者と同等以上なんだから。
「あっそうだ」
ピコーンっ!
俺の頭の中の豆電球にピッカリ灯りが灯った。
竜種に足りないモノなんて決まってるじゃないか?
"常識"
これだっ!
竜に人間の常識を押し付けるつもりはない。
だけどもエルフやサラマンダーやシーゲートだって、行動に意味不明な点は多々あれど(!?)話は通じるし意見を交換できる。思いを共有できる。
しかし竜種は・・・意志は疎通するけど話を聞かない。会話が成り立たない。あと面倒くさい。
最強種だったから、といってしまえばそれまでだけど。
それを言うならコイツラはすでに最強じゃない。
そんなの決まってる。
言いたくない、自分で言いたくないけど。
・・・今の世界最強、俺だ
そんな最強なハズの俺がくだらない貴族に我慢したりへりくだったり王族にペコペコしてるっていうのに!「強いだけ」のくせに常識がないとかダメ!もう信じらんねーくらいダメっそんなの俺が納得できないじゃない!!
『ついに言い切りましたね?まあいいんですけど』
自分でわかってるから!神々からしたら俺なんか最下級にも至らない俗物だし上には上がいることくらい!所詮この世界の生物として強いだけだって言いたいんだろう!
『何も言ってませんけどね?その謙虚という名の自信の無さや臆病さがあなたらしいです』
何気にディスりやがる。
どうせおまえの遥か足元に及ばない存在だっての、このアホっ!
『「遥か足元に及ばない存在」のくせに「おまえ」と「アホ」ですか。つくづくあなたの脳みそに何が詰まっているのか見てみたいと思いますよ』
思わず言い返したくなるけど。。今はコイツにかまっている場合じゃない。
この子のことが先だ。
「わかった。とにかくキミをしばらく育てればいいんだな?普段はどう過ごしてるの?」
「これまでは竜のコロニーに住んでましたけど、これからはユーリ様のお傍にお仕えします」
うん?
「いつもユーリ様のお傍で仕えさせてもらいます」
美少年はもう一回繰り返してから立ち上がった。
ツトツトツト。
ペタッ。
ムニリ。
傍に寄ってきた美少年が俺の胸元に抱き着いてそのプニプニのホッペタを俺の胸に押し付けた音だ。
小さい子のホッペって、なんでこんなにプックリして可愛くて他人を幸せな気分にするんだろうなあ。
それで体も小さくて温かくて(氷竜なのに!そこまでが擬態なのか?)きれいなフワフワの髪してて、見上げてくる目が大きくてかわいい。
「ユーリあんたこの子にダマされてるの気づいてる?この子は擬態してるだけで竜よ?」
子供が抱き着いてきて苦しくなったウサギちゃんがプハアと顔を出してきた。
「あ。そうだった」
そういやそうか?
この表情も全部作られたもんか?
言われた瞬間。
その子はユーリを見上げていた頭を下げた。
影になったその顔が。
カパァ。
爬虫類の。まさに竜のごとく口が裂け、金の瞳は縦に瞳孔が割れるとウサギに激しく目を合わせた。
「ヒッ!」
「うん?どうしたウサギ?」
ユーリの目線からは、男の子が頭を下げてウサギを見つめているようにしか見えていない。
チロリッ。
細く長い舌がウサギちゃんの鼻先を掠め、その大きな黒目にペタリと張り付いた。
「ッッッ!!!」
ユーリから見えるのは男の子の頭だけ、小さい子のツムジだけ。シャルロットを思い出すよな?と能天気なことを考えている。その瞬間にも死の恐怖にさらされて硬直するウサギ。
その恐怖はユーリにも伝わるのだ。
「ん?なんかビビってんのか?」
「ごめんなさい。ボクがびっくりさせちゃいましたか?」
上げた男の子の顔はもちろん可愛らしいおぼっちゃんに戻っている。
なんだか失敗しちゃいましたか?と困ってるかわいいお子様。
「顔を近づけすぎたかもです。ごめんなさい従魔さんをビックリさせてしまって」
思いっきり俺に顔を近づけてウルウル。そんなの見ると守りたくなっちまう。
ダメだな俺って。
俺は弱くて頑張ってるヤツにチョロい。
こんな知り合いも誰もいないところへ竜種を代表して来て、自分の種族を滅ぼすとか言ってる悪人?に一生懸命仕えようと自分を差し出す小さな子供。
竜神に選ばれてしまったために。
弱いヤツが必死になってるのはやっぱり身につまされる。
何とかしてやりたくなる。
「まあ何とかなるさ。気にしなくても大丈夫だよ?」
「はいっ。・・・ボクはあなたに仕えます」




