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第196話 東との関係

細い指がモフモフを優しくなでる。

ウサギも悪くない気分なのか目を細めて大人しい。


ここは王宮でも王族達のプライベートスペース。

公務で使う効率重視の部屋とは異なって、王族の個人的な趣向がにじむ趣味の部屋みたいな感じだ。木目重視のアンティーク調なのは先々代の王様の嗜好なのだろうか。


「ところでユーリ?できれば私に教えて欲しいのだけれど」


下がりっぱなしだった目じりがきりっと上がった。

まじめな話に入るつもりなんだろうけど、お手てはひたすらにウサギちゃんを撫で続けているなあ。


「できれば、とか言われるとなんか怖いな?」


「ふふふ。怖いのはね、私の方」


ピクリと耳を立ててうさぎちゃんが顔をあげるのは、少しシャルロットの空気が変わったからだろう。

ウサギちゃんを撫でている手が少し震えている。

でも俺のことでシャルロットが困るような展開にはなってないと思ってたけどな。


「調査隊では東の4賢人ゴルサット総督と随分仲良くなったのよね?」


いろんな意味で目立ったからなあ。当然いろんなヤツから報告が入っているハズだ。

アイツも俺も、別に隠れてコソコソしてたわけじゃない。


「なんだかんだで話のわかるジイさんだったし、俺をかばってくれようとしたしな。姫さんにはわかりずらいかもしれねえけども、命がけの戦いで背中を預けちまうとやっぱり通じるんだよ」


「あら?ワタシにもわかりますわよ、もちろんワタシが戦場で剣を振うわけではありませんけど。命を救ってくれた相手とは通じるものがありますわ。通じて欲しいという願いかしら」


ジッとみつめる姫さんの目には願いや不安といった色が浮かんでる。

言いたいことはわかってるから、隠し事なんてしねえから安心してろ。

俺は両手をあげてお手上げポーズ。


「俺と東との関係を気にしてんのか?特別に何かあるわけじゃねえよ、あのオッサンと仲良くなっただけだ」


「そういえばベッシリーニ家の監視がいっさいなくなりましたわね?あれはゴルサット団長の声かけでしょう?」


シャルロットも自分で情報網を作ってる。

誰が手を貸してるかは気になるところだが?


「ゴルサットが約束してくれたんだ、一切監視はしないってな。その代わりにまあ、そういう感じだな」


「その代わりがあるのですか?それでは交換条件か交渉事みたいですわ?」


ズイと顔を近づけてくる。

俺の言い方が悪かったよ、東と交渉してるみたいに聞こえたよな。


「特に何にもないから安心してくれよ、たまに会って話がしたいって言われただけだ。大したことじゃねえしあの爺さんもおまえに伝えればいいって平気だった」


「・・ゴルサット総督は随分と余裕があるのね?そしておそらくユーリからすれば大したことはないのでしょう。縁のある人とたまに会って茶飲み話をするだけ。でもそれでは取引のようにも見えますわ」


「それではって、何か疑われてんのか俺?東はちょっと前までうざったい敵だと思ってたし、西の立場からすればわかるけども」


「今は?今は敵ではないのですか?」


あせりを隠さずにじりよってくる。

シャルロットからすれば東のヤツラは今現在も「最大の敵」だ。

でも適当にゴルサットをけなしたりする気はない。そういう言葉はアイツ本人に俺が直接言って笑ったり文句言いあったりする時だけだ。そして、ごまかしは本気のシャルロットに失礼になる。


「どうなんだろう。油断はしないようにしてるけどそこまで悪いヤツラだとは思ってないな。敵でもないけど味方でもない。ゴルサットは勝手に俺を友達呼びしてきてウザイけど憎めねえヤツ、そんな感じだな」


思いつめたように見つめてくる。

わかるよ?でもダチの本気を適当にごまかすわけにはいかない。


「国と国の折衝の場ではどちらも自分の利益のために動くのですよ?悪い人ではない、いい人かもしれない。けどそれと国際的な場面で自分に与えられる立場は違うわ」


「そりゃそうだろうけど。何を言いたいかわかんねーからハッキリ言っちまえば?」


「あなたにとっては他国の友人。でも東を我が王国は敵国認定してるわ。『あなたは東の帝国のすごく偉い幹部と友人』だし今のあなたは世界中から監視されるほどの大魔導士よ?それは揚げ足とりが得意な貴族たちには恰好のえさになる。実際にあなたがどういう会話をしてどういった関係を結んだかなんて関係なく」


「言ってることはわかる。それで?」


ゴルサットが言ってたっけな。

西の貴族社会はすみずらい。面倒くさい。


「おそらくお兄様たちがあなたのことで騒ぎ始めるわ、わたしに対して攻撃する意味もこめてね。お父様もお母さまも私も、あなたが操られるようなタイプじゃないのはわかってる。わかってるけどあなたの周りが次々と変わっていくし私たちは何故そうなってるのかわからない。何をどうすればいいのかわからないのよ」


そういうことになるのだろう。


いつの間にかゴルサットと仲良くなって東からの俺への警戒網が解かれた。

俺があいつらと通じたって取られてもおかしくない。

知らないヤツを煽ろうとするなら『俺が東とニギって西に攻め込んでくる最強魔導士』ってとこか?

東を恐れるやつらは不安になるだろうし、いくら説明したって可能性を消しきれない。国を亡ぼせるような存在が敵国の幹部と友人なんだから。

そして、その俺は王様も認めたシャルロットの後継人でガーディアンだ。

まるでシャルロットが裏で糸を引いて東と交渉?それとも王族の意思を無視して勝手やってる危険人物?

どちらにしてもシャルロットにとっていい話じゃない。


「おまえに迷惑かけるつもりはないけど、そうなっちまうなら謝るよ。やっと王選のメンバーとして認められてきたし、傍にいるだけでくだらない疑いを持たれちまうなら。俺はもうバックレちまった方がいいのだろうな」


シャルロットに迷惑かけるつもりはない。本気で国のことを考える友人の邪魔をするつもりなんてない。ばっくれるのは前々から何度も頭を過った話だ、俺や俺の家族だって笑って許してくれる。


そう思ったんだけど。


ムシリッ


「ピギャッ!!」


ウサギの毛がムシリとられた。


「だからあなたにそう言わせないために困ってんじゃないのっ!!本当にバカタレねっ!!!」


立ち上がったシャルロットは本気で怒って睨みつけてきた。

コロンと転がったウサギだってビックリして硬直したまま。


「あなた東に通じてるわけっ!?」


「そんなんじゃねーよ。ただの知り合いで友達だ」


「じゃあ王国を出て行ってどうするの!?東に行くの!?」


涙が滲んだ本気の瞳が必死に問いかけてくる。


「誘ってはくれたけどそれも違う感じだから。諸国漫遊?いろんな国を見て回るのはありかなあと思ってるけど」


「じゃあ、じゃあ、じゃあ、ずっと私を守ってくれるって言ったのは嘘だったの!?」



静まり返った部屋。

迫力負けして俺もウサギちゃんも動けなくなった。

それだけの必死さと熱量がシャルロットから迸っていた。


「嘘は言ってねえけどよ。近くにいて迷惑かけたらお前が危なくなるだろ?」


「なら私は一人で戦うの?今寄ってきてる貴族たちはあなたの力に恐れて寄ってきてるのに?誰かがワタシを殺そうとしたら私はどうすればいいの?」


「身の危険からは俺が手を打つつもりだぞ。でも近くにいれば危険と混乱、離れると危険に対処しずらいよなあ」


「だいたいどうして東は貴方とそんなに仲良くしたいの?まだ探られている間はよかったわよ。でもその後にゴルサット団長があたなに接触してきたのは何故?彼は東の4賢人のひとりなのよ、何の企みも勘ぐりもないなんて誰が信用するの?」


俺はウサギちゃんを抱き上げて回復をかけてやった。

毛がむしられただけで大したことないっちゃないけど。


「ごめんなさい。ウサギさん痛かったよね?」


シャルロットが謝ろうと手を伸ばしてもウサギは俺の腹の中にサッと戻ってしまった。


「みんな私から離れていくの。王女だから?王位継承者だから?数少ない友人たちも結局は私から離れていく。わたしだって、わたしだって、いつまでも一人じゃ戦えないのに!」


昔のことを思い出してた。

忘れてたわけじゃない。

いつかも一人で戦ってそして死にかけてたよな。


うつむいた王女のツムジをみて、なつかしく思った。

きれいな髪と。

今となってはあの頃みたいにできないけど。

気持ちは変わらない。


おまえが頑張ってるのは俺が知ってる。


思いっきり泣いていいから。

涙が止まるまでゆっくり待ってる。



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