第195話 王女訪問
「お久しぶりね?調査隊のお役目ご苦労様でした」
物事は順番だ。歩みは一歩一歩だ。
いろんなことが山積みになって待ち構えてるからスケジュールを決めて順にこなすだけだ。
調査隊のこと、家族のこと、深淵の森で関係を結んだ仲間達、保留にしている竜種の処遇。そういえばキキルリスがどっさり仕事持ってくるから覚悟しとけっていってたな。
面倒なことは1つ1つをクリアしていけばいつか終わる。
そのはずなんだきっと。
王女との約束を果たしに訪ねた俺。
前にも通されたプライベートスペースへと案内された。
先々代の王様と当時の世界的魔導士カールスバーグが打ち合わせに使っていたお部屋。
「以前ここで話した時とは随分と状況が変わってしまったわね」
前に置かれたティーカップからは暖かい湯気が立ち上っている。
俺と王女以外誰もいないスペース。王女が手ずから入れていただいた尊い紅茶だ。
そんなの誰かにやらせばいい話で恐れ多いんだが。
「それより話が中断する方がつまんないでしょう?」
とかわされた。
尊い紅茶はうまい。
「あの後は随分と人が入れ替わったけれど、やっと落ち着いたわね。でも問題は人材が有限で、さらに優秀な人材は貴重だってことよ」
久しぶりの王宮は空気が変わった感じだ。
ゴタゴタ感は仕方がない。東の諜報員という裏の顔を持った一流の職人たちがダース単位でいなくなったからだ。
「情報については注意した方がいい。変わり目に油断するとまたエージェントを送り込まれるぞ?」
人が足らない、だから採用もゆるくなるし調査も適当になる、では元の木阿弥だ。
東が手を出してこなくても北も南だっている。そしてゴルサットが諜報活動をしないと誓ってくれたのは俺に対してだけだ。
「それでも第一王子の派閥は解体したから随分風通しはよくなったわよ?ワタシに取り入ろうって貴族が随分と増えて面倒だわ」
ヤレヤレな顔で手をふるのも仕方ない。
くるくる回る風見鶏なんて信用できないけど結局は優秀な人材がいなければ誰も何もできない、何もまわらない。
「これで女王になれる可能性もあがったんじゃねえか?」
どんなでも数は力になる。俺はそういう圧力が大嫌いだから深く突っ込みはしない。
「解散した派閥からの貴族もいるし冷遇されてきた地方の豪族たちもいる。思惑はそれぞれだし信用しきれないけどね」
シャルロットのまわりに人が集まり始めてる。
王になるためには人材が必要だがそこに漬け込むやつはいる。他の派閥のスパイだっているだろうし、近づいて悪さをしない保証がない。
「がんばってくれよ?ヤバくなったらすぐに呼べよ?」
ひとまずシャルロットの状況はわかったし、俺が注意しておかなければいけないことも理解できた。
「ええありがと・・・ってあら?あなた話を終わらせにかかってないかしら?」
「気になってるあたりは聞けたからな。俺もいろいろあってぼちぼち・・・」
いいよな?俺のまわりゴチャゴチャで忙しいのわかってくれるよな?
「話はこれからでしょう、今までのは単なるさわりよっ!こっちはいろいろ聞きたいことがあるから覚悟なさいって言ったでしょうっ!!」
俺の願いはいっさい通じなかった。
久しぶりでいろいろ話を聞いてやりたい気持ちはあるんだぞ?
「そういえばコレをキャサリン教授へ渡していただけるかしら?王家に代々伝わる安産祈願のお守りよ。大聖教会で大司教が祈りを捧げてたから神の加護を授かるのではないかしら」
アアそういうのって、と思った瞬間
《精霊の神々がまた荒れるわ。きっと今頃サバちゃんに神託が下りてるわよ?》
全ては大河の流れだ、当たり前のように流れていく。ただ一粒の水滴である俺には止めることも抗うこともできない。そういうことだ。
すぐにサバちゃんからもお守りが届くに違いない。
「あなたこの前の婚礼の前にエルフの森で結婚式をあげちゃってたんでしょう?大司教様が困ってたわよ、神の怒りとか天罰とか言って」
それはなあ。
話せば長いんだよなあ。
「エルフと知り合いになったってことでしょう?エルフの森はどんなところ?」
半分まじめ、半分は冒険譚をせかすワクワクが隠せない少女。そうだよな、誰だって知りたいよな。
行く前なら俺だって知りたかった。
知り合い・・・ふむ。
キャサリンに無礼を働いた長老たちを抹殺しようとして部族全体が俺の配下になった。
言葉にすると俺って随分と悪人。
なんかめっちゃ誤解されそうだ。
「まあ・・・仲良くなったよ。俺は国王からもらったエルフの短剣を持っていたからな」
何度もうなずきながら、そうよねそうよね、と喜んでくれる王女様。
俺の胸がチクチクと痛む。
「それなら王国と友誼を結べるかもしれないわね?王家とエルフ族はともに戦った仲って神話で伝えられてるのよ?」
「どうかな?エルフって結構意識高い系だから」
やんわり否定したらジロリと睨まれた。
まるで不穏な言葉を聞いて疑い始めた感じ。
「道を究めようとする職人系ってこと?イメージだとドワーフなんかはそっちだと思ってたけど、エルフもそうなの?」
「いや、選民意識が高い、正確には選種族意識・・・」
それだけでわかってくれたようだ。
「そういうヤツね、それならまだイメージできますわ?よくあなたも仲良くなれたものですわね、まさかとは思いますけど力づくじゃないよね?」
ギクッ
いやいや待ちなさい慌てて結論を出してはいけないよ?まるで俺が暴力ですべてを押し通す男じゃないか。
物事には全て理由が存在するのだよ。
「では嘘のようなホントなような話を聞かせてあげよう?」
「入り口が嘘くさいわ、嘘ともホントともとれるような言い方ね。つまり本当の話とごまかしの話が混じった話というわけね、それで?」
ギクギクリッ
頭のいい子は嫌いだよ。
「俺達が深淵の森で調査を進めていたところ。なんとエルフの聖剣にSOSの念話が入ったのだよ。それもエルフの筆頭巫女様から」
「へえ」
いきなり疑いの目だな。
美人だけに冷たい目が怖いんだけど。
昔はもっとこう、怒った顔にも子供っぽい可愛らしさがあったというか。
「俺達が急行すると巫女様は悪いエルフに無理やり神へと祈りを捧げさせられていたのだ。食事も睡眠もなし、その祭壇から離れることすらできない見張りつきで!」
「へええ」
美人がジトリとした目でこっちをみるんじゃないってば。
だいなしだよ。
「悪いエルフたちを懲らしめたらエルフの巫女様から感謝されて友誼を結んでもらえた、と」
「それで?」
「それで終わりだけど?」
「でしたら王国と友誼を結ぶのは問題なしね?こちらがお助けした立場ですからそのエルフの巫女様に連絡をとっていただきましょう。人間のことを見直してもらえたかもしれませんね?」
「ぐっ」
めちゃくちゃはしょったから。
だいたい聖剣が女王だし。懲らしめた相手は長老だし。サバちゃんは土下座脳天割だし。
あいつらは人間としての俺に従属したのではない。オーバースペックとその奥さん?
「ところで『俺達が急行すると』とおっしゃいましたけど、あなたと誰が?キャサリン教授でしょうけど」
「ぐぐっ」
「それはよいとして。今回の調査団であなたがピンクウサギと従魔契約を結んだとか?魔導士団の副所長が随分と羨ましがってましたわ?」
今も俺の腹の中にいるけど。
勝手に王宮に連れてきたとなるとやっぱヤバイよなあ。
こいつも一応は魔獣だしここ王宮だし。
「いつもあなたのお腹の中に籠ってるとか。今もいたりしないわよね?」
そおっと俺のお腹に細くて白い指が近づく。
いますけど。
「おっと。俺のお腹に触っていいのはキャサリンだけだ。たとえ王族でもそこは譲れないな」
モギュッ。
あっ。
俺のたわごとなど何も聞こえてない。全無視だ。
迷うことなくその白魚のような手は俺の腹の中にいるヤツを服の上から掴んだ。
「随分と変わったお腹の形をしていること。しかもジタバタと動いてるようですけど?」
「しょうがねえなあ。おいお呼びだぞ?」
俺の胸元からピョコンと顔を出したピンクのモフモフ、長くて垂れたお耳、つぶらな瞳。
「きゃああああっ!かわ、かわいいいいいいぃぃぃっ!!!」
「ほれいけ」
「いやよ。アタシがユーリ一筋なの知ってるくせに。あっは、テレちゃうわね!」
ホホを赤らめるウサギ。ホッペに肉球を添えてピンク色なのにわかりやすいぞ。
このアホ。
「おまえ『あっは』とかどっかのマダムか?いいからいっとけ、これでもこの国の王女様だぞ?コビを売っといて損はしねえぞ。あとエルフの女王は王家とイロイロあるから守ってもらえるかもしんねーぞ?」
コイツが食いついてくる感じの下世話な感じで教えると目がキラリンと光る。
わかりやすい取引だ。
「ユーリも随分アタシと話ができるようになったわね?いいわよ、アンタがそこまでいうなら第一秘書のアタシがお相手してあげるわよ!」
お前が得しそうな情報しか言ってないけどな。
本当はどれも全くアテにならない適当ばかりだけど。
ピョコンと王女の膝に飛び乗って大人しくなでられてる姿、まるで昔から懐いているみたいな自然な姿。シャルロットがエルフとか精霊とかに近くて親和性があるからだろう。
しめしめ。これでとりあえずエルフの森の話はおしまいだな。
シャルロットはとろけそうな瞳でウサギちゃんを見つめてヨダレを垂らしている。
王女がヨダレ、ああかろうじて自分で気づいてハンカチ出した。
可愛いものなんてほとんどない王宮生活でぬいぐるみの何倍もめんこいリアルウサギだしなあ。
「はっ!あぶなくユーリの魔法に堕落させられるところだったわ!!」
使ってませんよ魔法なんて。




