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第193話 帰ってきました

久しぶりのベッシリーニ邸。

周囲をとりまく空気感が穏やかなものに変わっていた。


取巻いていた魔力の流れがスッキリしておだやかな正常な流れだ。

輝く日の光を浴びると力が湧いてくるし、そよ風は心地よさを感じさせる。


以前のベッシリーニ邸にはなかったもの。

こちらを監視する結界に囲まれてギスギス張り詰める感覚。気持ちがケバ立って五感から危険をシグナルが送り続けてくる。

キルリスや俺、精霊達やロにやギンさんが防御することでムリヤリ正していた狭苦しい圧迫感。


そんなこの屋敷を取り巻いていた探る気配や観察する魔力、人の目、一部呪いなんかがスッキリとそぎ落とされて、今は自然な空気が漂っている。


「なんだか随分とスッキリしたよなあ」


「ボクだって感じるよ。そして何だか祝福されてる気がする」


間違いなくゴルサットがいい仕事をしてくれてる。

東の諜報機関を引き下がらせてくれただけじゃない。

俺のことを観察しようとしていたやつら、おそらく暗殺者集団やどこそこの国のエージェント、貴族から依頼を受けたゴロツキ魔導士たち。

そいつら全てが引き上げたとしか考えられないスッキリ具合。

裏から徹底して手を廻してくれたとしか考えられない。


どうやってここまで手を廻したのか見当がつかないけど、ゴルサットが言っていた言葉が頭をよぎって合点がいく。

全ての悪人の情報は東の帝国に集まる、だからこそできるのだろう。

今度会った時に締め上げて吐かせるか?


ベッシリーニ邸の前でキャサリンと二人手をつないで。懐かしの我が家(ちょっと恥ずかしい)を見上げながら。

帰ってきた。


陽だまりの中、昼寝していたロボさんが俺達を見つけて顔をあげる。

ふかふかの毛並みにバフンッとダイブするキャサリン。

もちろんロボは気にするでもなくキャサリンの好きにさせてるんだけど・・・


「キャ、キャ、キャサリン、ダメ!メッ!モフモフはいいけど飛びついたりするのはメッ!!」


「えーーー大丈夫だよ?ふんわりやさしい毛並みが受け止めてくれてるんだから。むしろこの幸せをこの子にも味合わせてあげないと」


「ダメっ!メッ!!キャサリンメッ!!」


なりふりかまっていられない。

俺の心の安寧のためになら土下座脳天割だってするから!


「うーーわかったよー。気を付けるよお」


《大丈夫だといっておるのに。おぬしも随分と過保護よの》


ダメなもんはダメ!赤ちゃんが潰れちゃうでしょっもうっ!!


《あのグレートウルフの毛並みならフカフカの布団にやさしく包まれるくらいにしか衝撃はなかろうに。もちろん赤子の豪運が働いて衝撃どころかもっとも多幸感を感じる場所へピンポイントに飛び込んだはずよ。母体の幸福感がそのまま体内の赤子にも感覚が伝わり、胎児は今まさに世界からの熱烈なラブコールを全身で感じておるに違いない》


ごちゃごちゃ理屈はわかるけど、いいことだとしても・・・それでもダメだっ!

なぜなら俺が心配だからっ!


《狭量な神ね》


ま、まだ神なんかじゃねえよ!

ただの人間だ俺はっ!!


《あなたが感じる幸福感はアタシらに伝播してるわよ?これを守るのもまた役目大船にのっているがいいわ》


エルフの女王にこう言ってもらえるヤツなんて、世界広しといえども俺しかいないよ。


「キャサリン行くよーーー」


絶賛モフリ中のキャサリンに腕を伸ばすと嬉しそうに俺の手を掴んで起き上がった。

ホントユーリは過保護だよね、と嬉しそうに笑いながら。


「帰ったよー」

「こんにちはー」


扉を開けると。


笑顔のマーサさんとキルリスが両手を広げて俺達の帰りを歓迎してくれていた。

なんか空気がポカポカ暖かくて。

嬉しくてちょっぴり泣けた。



「おやおや?随分とラブラブに磨きがかかったようだ」


俺がキャサリンをエスコートするのが面白かったようだ。

以前と何にも変わらずキルリスが突っ込んでくる。


「そう?これはラブラブというより・・・」


おや?という顔で俺達を見ていたマーサさんがキャサリンの全身を眺めて不思議そうな顔になった。


「戻ってから何をするにもユーリが丁寧にやさしくエスコートしてるわね?」


体が勝手に動くんだ。そんなに俺わかりやすいかなあ。

前と比べてどうだとか、意識してないからわかんねえけど。


「え?マーサさん。それって私も身にも覚えが」


キルリスの慌てた声がする。くっくっく。

疑問の目で俺たちを凝視している二人。

キャサリンがニッコリ微笑んだ。


「ボクのところに赤ちゃん来てくれたよ。まだ本当に初期で全然目立たないけどエルフの森の巫女様が間違いないってさ」


隣に座った俺とキャサリン。

なんだか嬉しくて、キュッって手を握り合って顔を見合わせた。



「わっ!」


ガタン、と音を立ててキルリスが立ち上がった。


「わわわわっ!!」


スック、とマーサさんも立ち上がった。


「「わわわわわわわわっ!!」」


そしてふたりともキャサリンを凝視したまま手に手を取りあった。

びっくりして、その後から喜びがこみあげてきてる!

照れくさそうに舌を出すキャサリン。


「とっても嬉しいわ!!」

ついに抱き合って喜んでくれる。


当たり前を当たり前に喜んでくれることに俺達だって嬉しい。


「ふたりとも、おじいちゃんとおばあちゃんになるんだよ!!」


「「えっ?」」

いい年の夫婦がピョンピョン飛び跳ねていたのに固まってしまった。

孫がかわいいのと自分達がおじいおばあになることとは別なんだな。

もうそれなりの年なんだからソコも当たり前に喜んどこうよ?


「それより、けっこん、結婚式しないとだろう!?」


キルリスが焦って口出してくるのは、貴族的な儀礼とか段取りじゃないハズだ。

婚礼の儀を交わしてるから、いつこうなっても祝福されることはあっても文句は言われないし、だいたいキルリスもマーサさんもそういうのは拘るタイプじゃない。いつも形だけお付き合いするみたいな感じだ。


たんに二人が結婚式やりたいだけではないだろうか。


「あーっと、それなんだけど・・・・」


「なあに?もうやっちゃったとか言わないわよね?」


やばい。

マーサさんがズズイと俺に顔を近づけてきた。


「あ、うん。いや、ほら、いろいろさ、あったんですよ」


「いろいろ?ワタシたちを差し置いて何があったか聞きたいものだがね?」


キルリスも顔を近づけてくる。

落ち着けよそれを今から話しすんだからよ。


「エルフの森で巫女さんが結婚式してくれたんだ。その時に子供のことがわかって精霊の祝福もしてくれて」


俺の横でウンウンと頷くキャサリン。

二人は話に付いてこれてないのかポカンとしている。


ヤッパリわからない?

この二人なら経験値でなんとなく通じるかと思ったんだけど。

エルフの森、精霊、どこから説明すればいいんだ?


「エルフの森?」

「結婚式?」

「巫女さん?」

「精霊?」

「祝福?」


・・・・


最後のテンテンやめてほしい。


「私達が参加していないんだが?」


どうやら話はご理解いただけていたようだ。

顔に書いてあるのは『ソッチじゃない』だ。

キルリスまでジトッと見るなよ、あの場所にいなかったんだからしょうがないじゃない。

男らしくないぞ?


「そういう人間の世界の結婚式じゃなくて、どういえばいいか微妙なんだけど、神の祝福の儀式みたいなものをエルフ達がしてくれたんだよ。なあわかるだろ?」


いろいろ経験してるんだろ?なんとなく想像できるんだろ?


「まったくわからんっ!!」


キルリスはいっさい聞く気ないし想像する気なしだ。

結婚式やっちゃったことを認める気なしだ!


いろいろあるのわかるだろう?

ねえマーサさん?

「まーーーったくわかんないわっ!!」


更に強く断言された。



「ほら、披露会は別にやればいいだろ。式も別に何回やってもいいだろ?でもキャサリンの母体が心配」


「そうだね、やるならすぐやるか、そうじゃなかったら子供生まれてからだねえ」


この人たちを納得させるには人間社会での結婚式が必要だ。

キャサリンと話してたのに、聞いて二人が立ち上がった。


「マーサさんっ!」

「あなたっ!」


そして二人は顔を見合わせて脱兎のごとく駆け出していったのであった。


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