第192話 これでダメなら滅べばいい
サバちゃんはいくら呼びかけても返事してくれない。
完全に怒りで我を忘れている模様だ。
エルフの女王は俺の呼びかけに答える気配はない。
ドヨーーーンとした暗い波動だけが短剣から伝わってくる。
地竜はフリーズが続いている。よほどショックだったらしい。
「お、おい。俺をひとりにするなよ、なあ?」
見渡す限り俺に応えてくれるヤツがいない。
それならばと新しく生まれ変わった魔法杖、これまでのカールスバーグのロットに呼びかける。
「俺まだ新しい魔石に慣れてないから。忙しいから後にしてくれる?」
声をかけてくるなオーラ全開だ。
ウサギは・・・俺の腹のところでプルプルふるえて顔を出す気配はない。
なんなんだ?
俺の仲間達があんなポンコツ竜に全滅した?
いや待つのだユーリ、そういえば俺には最強の案内者がいる。
『それでワタシを呼び出すとは。ほんっとーにいい根性してますね?』
いまこそ俺をナビゲートしてほしいオネガイシマス。
『そういえば竜神からワタシにアクセスがありましたよ?つっぱねましたが』
「はいっ?」
つっぱねた?
竜を殲滅してカタをつけるにはソコが気になるのに?
竜神様とモメる気はないけど、だからって竜種は無罪放免とはいかない。
そういうのはホラ、神様同士で、うまくやるとかそういうのアルんじゃないの?
「だったらあの地竜が来たのはオマエのせいってことだな?あってるよな?」
絶対に手伝ってもらうよ?
『違います。あなたが竜と揉めた上で竜族を殲滅させる捨て台詞をはきやがったからです。言葉の力がわかっていないアナタは十二分に反省すべきです』
完全否定された。
いや違うだろう!今こうなってるのはおまえのせいだろう!?
『慌てるくらいなら影響というものを考えるべきです。さっさとその竜の処分を決めなさいよまったく!』
怒ってる?
アナタ神様だよね?
俺をナビゲートするために遣わされた存在だよね?
「ま、まったく?まったく?おおい神の御言葉がまったく?」
『うるさいですねホント。次はもっとまともな用事で呼び出しなさい』
プツンッ。
切れた
切れた・・・
「なあ、ユーリ?」
なんだ?悪いけどちょっと余裕ないぞ俺も!!
神の御使いから『うるさいですねホント』なんて言われるヤツが他にいるかって!!
「俺もまだまだ本調子じゃねーけど手伝うからよ?俺達は細かいとこ苦手なんだからゴチャゴチャ考えるよりあの竜を片づけちまわねえか?」
結局それしか浮かばない。
「もうやっちまうか?」
いいよなもう?
「それで?いい加減に要件を言え。次に言わなければお前ら一族は滅ぼす」
地竜の長老に最後のチャンスだコレでダメならやっちまおう。竜神が何と言おうと関係ない、そうさ俺は不機嫌の極みだ!
神になろうかって存在がそれでいいのかって?
んなもん知るか!
俺と相棒の魔法杖がそう決めたんだ!
「う、うむ。ワレはお主と対話をしたいと思ったのだ」
我慢だ俺。
さっきまでよりは随分マシな気がする。
「要件を言え、20文字以内で簡潔にだ!」
「に、にじゅうもじ?そんな短い?」
<拘束>
いいから言えってのにわからないのかよ!
こっちはもう、腹立たしさの極致なんだよ、ギリギリなんだよ!
魔法杖を横にナギると地竜の両腕がピンと横に伸びて固まった。
貼り付けの囚人だ。
「最後のチャンスだ。次に失敗すれば縦に真っ二つだ」
腕に体に力をいれてモガいてもビクともするわけがない。
この星の力を集めてるんだ、本気になれば自分が引きちぎられるだけだ。
「お、俺達をほろぼさないでくれ、許してもらうにはどうすればいいんだ?」
ポロリポロリ。こぼれる涙。
泣くなよな長老なんだろおまえ!
また哀願だ。『願い』だ。
俺を罠に嵌めたくせに俺が悪者みたいじゃないか!?
勝手に俺を神様扱いして慈悲でも願うってのかよ。
「おまえらは俺を罠にハメて滅ぼそうとした。負けたお前らは滅ぶべきじゃねえか?」
「それはっ・・・首長と若頭が勝手にやったことだ。俺達の、いや地竜族の意志ではない」
それこそ俺には関係ない。
これ以上こんな面倒くさいことに関わりあっていられない。
「残った竜の意見をまとめてオマエが話にこい。俺とドンパチしたいって結論ならそれでいい、いつでも相手になるぞ?」
<心拘束>
ヒュンッ
光の鎖の先が錨となって竜の体内に流れる魔力路の中心にガッチリと突き刺さった。
第二王子の密偵に使ったヤツの強化版。
「それもイヤなら、死ぬまで俺の前に現れずに大人しく静かにしてろ。ワザワザ出向いて滅するほど暇じゃない。これからお前に関わる全ての竜にお前と同じ錨が連鎖して埋め込まれていく。会わなくても魔導通信や念話しただけで同じだ。そして錨が下りた竜が俺の仲間に近づいた瞬間に」
俺は握った手を開いて見せた。
「その竜は自動でボンッだ」
爆発しちゃうからな?
あと俺の意志関係ないぞ?
「言っておくがエルフ族は俺の仲間だから二度とエルフ王国へは近づくな。エルフの森の周りが竜の死体だらけなんていい迷惑だ」
「そ、そうならない為には?」
「話がまとまったら竜の代表でおまえが俺に連絡を寄越せ、話だけは聞いてやる。お前以外の誰が勝手に出てきても瞬間あの世行きだ」
シャキンッ
シャキンッ
シャキンッ
「気の早いヤツがいるな、他の竜がお前をさぐりに魔力をつなげてもアウトだ。さっそく三匹釣れた」
遠くで魔力路に食い込む感覚が生々しい。
「当然だが、こいつらに会った竜も一緒・・・
シャキンッ
シャキンッ
シャキンッ
・・・だぞ。もう遅いか」
どのみちこの山脈にいる全ての竜はつながる。
プライドの高いこいつらの意見がまとまるのかといえばノーだ。
こいつは『地竜を代表してここに来た』なら他の竜種は会話する気すらないのだろう。おそらくコイツは竜族の中では自分を曲げてプライドを差し置いて俺に詫びにきた、立派な族長なのだろう。
全く伝わってこないのが残念だ。
《竜はほぼ全滅するわね》
お。
エルフの女王が復活したか?
《いいから何でもサッサと決めなさいよトップの役目でしょう!トロトロしてるからさっきみたいなことになるのよっ!》
まだキレてやがる。
しかも俺のこと勝手にトップってきめられた?
俺の中ではみんな仲間というか対等なんだけど?
なんだけど。
そんな仲間を大切にできないヤツなんて・・・
俺はそっと、ほんと優しくそっと、胸ポケットを開いてみる。
泣きつかれたトカゲちゃん。タップリと涙を潤ませた黒い目で俺を見上げていた。
「ご主人様、トカゲはきらいですか・・・?」
今にも泣きだしそうなか細い声で訴えられた俺にできるのは謝罪だけ。
「うおおおおおおっ!!!ゴメンッツ!ゴメンッツ!ゴメンッツ!ゴメンッツ!」
ゴツンッ!ゴツンッ!ゴツンッ!ゴツンッ!
大きな岩にそっとトカゲちゃんを降ろしたあと。
俺はひたすら土下座脳天割を繰り返すのだった。
思いがけず長くなってしまいました
次回から舞台は西の王国に戻ります




