第191話 ずるい女
「ちっ。しょうがねーなあ」
「あーー舌打ちしたーーー!ダメなんだ、ダメなんだ!神様が舌打ちしちゃだめなんだなーーっ!!」
くっ。
なんか突っ込んできやがる。
いったん心開いたらグイグイくるタイプか?
これ本当にサバちゃんか?巫女か?おしとやかで神聖か?
だいたい俺のこと勝手に神様扱いか?
「俺は神じゃねえっつーてんだろ、あと意地でもそれを片付けさせようとしてるだろ!!だったら亜空間に放り込んで永劫の時間を後悔させるヤツで文句ないだろ!?」
「ダメですダメです、絶対ダメです!この竜は長老さんですよ、いきなり行方不明になっちゃたら地竜の一族が路頭に迷うじゃないですか!!」
グイグイだけじゃなくゴリゴリ押してくるぞ。
多分サバちゃんの方が正しい気もする、だけどもう面倒くさいのだけど!
「じゃあ他の地竜も亜空間に放り込めばいいだろ!無限世界の中で数億年先には邂逅できるかも、なんてなんだか感動的な場面じゃね?」
「ぜんっぜん違いますっ!まず亜空間に放り込まれる理由がありませんって!!お願いですからーーもうちょっと話を聞いてやってくださいーーー」
「えーーーー??いやだよーーー」
「そこを何とかーーー」
そして俺がなかなか首を縦にふらないとみるとアッという間に膝まづく巫女様。
土下座って巫女職ののデフォルトなのか?
視界はサバちゃんを正面から映しているアングルに切り替わる。
《遠巻きに見てるエルフの誰かが必死なサバに情けをかけて映像送り始めたんじゃない?あの娘そういうのウマイのよねえ》
「な・ん・と・かっ!!」
ゴンッゴンッゴンッゴンッ
サバさんは一語口に出すたびに頭を地面に打ち付ける。そのたび鈍い音が鳴ってどんどん地面がひび割れていく。
同時にサバちゃんの額もひび割れて血がボタボタ流れていく。。。
「アレ禁止にしてくんねーか?なんであのエルフはモノを頼むときに体を張ろうとする?すっげえ断りづらいんだけど!」
《そんなの成功体験に決まってるわ!巫女の清純さ、頭がよくて礼儀正しくお上品で慈愛に満ちた態度。そのくせあんな全力で脳筋なお願いされたら誰だってコロリと落ちるわよ。あっけにとられてやるしかないっていうか》
「計算なのかよ」
《そうとも言えるし天然でもあるけど。でもアレやれば何とかなるって思ってるのは間違いないわ。流血確定だから他の巫女たちは絶対にやらないけど》
なんて。
なんて。
ずるい女・・・
「サバージュさん?」
「は、はい!なんでしょうユーリ様!!」
「その土下座脳天割ヤメテネ?あとあなたのマネをして横で地面を震わせながら同じことしてる竜を止めてもらっても?」
いつの間にか地竜もサバちゃんのマネをして土下座脳天割を始めていたのだが・・・もちろん地竜の脳天には傷ひとつない。
頭を打ちけるたび、ドッカンドッカン地面を掘り起こしているだけ。
きっとこの竜はサバちゃんがやってることをわかっていない。
話を聞いてもらうための祈りのポーズか何かと思っているに違いないぞコレ。
「で、では?」
「エエわかりました。でも俺に対して同じことは禁止です。やったらもうあなたのお願いは聞けません」
キャサリン困らせちゃダメですからね?
許しませんからね?
「は、は、は、はいいいいいぃ!申し訳ありません!同じことばっかりやって飽きましたよね!?女王様は毎回これで何とかなったんですけどさすがユーリ様!次は新しいワザをお見せしますので楽しみにお待ちくださいっ!!」
「・・・・・」
《・・・・・》
俺とエルフ女王、二人の絶句はしばらく続いた。
心情的に遠く山間に落ちていく夕日を眺めている気分だ。
だいだい色にゆがんで沈んでいくお天道様。カラスのシルエットが重なってカァカァ寂しそうな鳴き声まで。
このボンクラ巫女め!!
これは女王の教育の問題だろう?
どんな教育か俺には想像もつかないけど。
《あなたアレを教育できるもんならやってみなさいよ!あれ計算じゃなくて素だからね?『女王様はこれで何とかなった』って無礼だとも傷つけたとも感じてないのよ?もうアタシのハートはブロークンよ・・・》
「おいちょっと待て!オマエなんだかおかしくなってないか?語尾?」
《いいからあの竜をなんとかしなさいよ!!エルフの森に居座られて迷惑だわ?アンタ案件なんだからさっさと責任とってくれるかしら。もうこれ以上何も考えたくないの。籠りたいの。》
なんかキレた?
そして元気なくなっていく?
「フェイドアウトしようなんて考えてないだろうな?」
《あはははもうムリムリ。女王のプライドなんて欠片も残ってないわよ、あはははは》
たいっへん不穏な空気を感じたため。エルフの女王にこれ以上何か言うべきではないという結論に達した。
しょうがねえなあ。
「そこの地竜」
「なんだ言ってみるがいいオーバー・スペックよ!!」
くっ。
妥協しようとした俺の決意が一発でくじけかけたじゃねえか。
嬉しそうに頭を上げるくせして当然のように腕を組む地竜。
アゴで見る威圧感がバリバリと醸し出ている。
高飛車、それより他に表現できないんだけど。
本当に下手に出てるつもりなのか?
いや待て、待つのだよ俺。
確か心理学的には腕を組む態度は自分を守ろうとしているとかなんとか、図書館で読んだぞ。
前世の教師のヤツラとか。偉そうにしか見えないけどな。
考えてみれば、竜が滅ぼされるかもしれないこの状況だ。
もしかしてこの竜は俺にビビって自分でもワケわからん態度をとっているのかもしれない。
実は心の中は不安でプルプルしてるのかもしれない。
一縷の情けをかけようと竜の巨体を見上げる。
・・・ギロリと見下げてきやがるぞ。
悪びれた様子もビビッた様子も一切見えない。堂々と俺を見下している。
どうやったって態度がでかいヤツにしか見えん。
この状況、誰が見てもお伺いを立ててるの俺じゃね?
「もういいからなぜ俺に連絡とってきたかそれだけ教えろ。あと俺の名前はユーリだ。オーバー・スペックじゃねえから名前で呼べ」
「ではユーリよ、ワレがここに来た理由が知りたいと申すか?教えてやらんでもないが・・・ん?なになに?」
サバちゃんが横から出てきて、地竜に頭を下げて自分の話を聞くように身振り手振りで指示出してる。
そして頭を下げたところを・・・
おもいっきり殴った。
エルフが竜をなぐったっ!
痛いわけじゃないだろうが、なぐられたところを大きな手で覆って固まっている竜が見える。
そりゃそうだろうな。平和主義のエルフから殴られた歴史上初の竜だよきっと。
話が。
話がいつまでたってもはじまりません。
竜はかたまっています。
サバちゃんは頭から湯煙をだしながら全身で"プンスカッ!”と怒りながら見える画面の外へ歩いて出て行ってしまいました。
当たり前です。
この竜は彼女の必死の努力を一瞬で無駄にしました。
さて俺はどうしてよいかわかりません。
誰か何とかしてください。
お願いします。




