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第18話 信じられないこと

キャサリンの父であり、魔導士団の上司でもあるキルリスは驚いて目を大きく見開いた。


「ばかものめ。この瞳は気軽に使ってよいものではないと重々話しただろう?このスキルは神から与えられて王国の為だけに使用されるべきものだ。気軽に使っていいようなものではないのだよ」


困ったことだと肩をすくめるが瞳はやさしかった。

普段はそんなことをする娘ではない。

キルリスとしては娘が何故やってしまったのか気になった。


「何か理由があったのかい?いくら宰相のご子息とはいえ普通の子供だ。まだ何の訓練もつんでいないのだから、他の子とそんなに差が出るもんじゃないだろうに」


魔法の才能も神様から与えられるスキルも12歳になったときに大教会の宝玉が確認する。

その結果についてキャサリンも知っているのだから。わざわざ魔眼まで使用して改めて確認する理由が見当たらなかった。


「なんだかおかしいと感じたんだよ。違和感?って言えばいいかな。自分ではうまく隠してるつもりなのかもしれないけど、妙に大人びてるし魔法知識もかなり先のことまで理解してる。魔法学院の卒業生で魔導士団に入団するレベルだよ」


真面目な顔をして説明するキャサリンに思わず笑いだしてしまったことを詫びる。

そんな学生がいるなら顔を見てみたい、と思う。

王国最先端の教育体系と講師陣を揃えた魔法学院を入学前の少年が超えているらしいのだから。


それなら学院に入る理由がないではないか。


そんな化け物を作り上げるとしたらそれは神か悪魔か。どちらにしても人間ではない何かだ。

キャサリンが家庭教師をする必要がない。


「彼が読んでいたのはボクが魔導研究所で書き上げた「魔法大全基礎理論」だよ。あの子は魔力の性質変化を深く理解するために調べていたみたいだね。質問の言葉は拙くて魔力の色がどうのって言ってたけど」


真面目に話を続ける娘に、困ったもんだと笑いながらキルリスも話を合わせる。


「それは買いかぶりというものじゃないのかい?受験対策に図書館で関係ありそうな書物を開いたらチンプンカンプンだった、だから顔見知りのキミに質問したということだろう?」


偶然、稀にはある。そんな程度の流れだ。

キャサリンが書き上げた「魔法大全基礎理論」は確かにタイトル通り魔法について記載してあるが、内容は魔法の基礎よりも自然科学に近い。上位の魔法使いが自分の魔法元素の自然現象を正しく理解するための説明書だ。ろくに魔法を放つこともできなヒヨッコが読んでも理解できる代物ではない。


まだまだ自然神信仰が根深く残っており、火も風も神様が起こし、水も土も神が生み出したものだという考えが庶民では一般的だ。

しかし魔法使いとしての高みを目指すものにとっては、より深く正しくこの世界を認識することが死ぬまで続く課題になる。


「その子はこの星で起こる自然現象を何の色眼鏡もなく理解していたよ。この星が巨大な球で自転してることも宇宙や太陽のことも。そして質問したボクを見た顔にかいてあったんだ「なぜそんな当たり前のことを聞くの?」って。もうビックリだったよ!」


さらに真面目な顔をして言い募るキャサリンに、キルリスの中で疑問が起こる。

彼はまだこの話を冗談としか受け取っていないが、愛娘があまりにも真面目に語り続けるので浮かんだ疑問だ。

話が本気だとはとても思えない。そんな人材がいるならいますぐ魔法師団にスカウトしてしまわないと、王宮の他部署にあっという間でかっさらわれてしまうだろう。

そんな存在を夢見ることは楽しいし、もし本当にいればきっと魔法に革新が起こるに違いない。


そんなホンワカした夢見がちな娘が夕食後の雑談として父に語るジョーク。

素敵な時間だな、と思う。


それでも。

それでも。


この話はいつまで続くのだろう?


「話してると魔力操作自体の訓練は終わって魔法も発動してるみたいだったんだよね。ハッキリとは言わなかったけど話の流れ上。実際にはポロポロ言葉に出てたし。そんなことあり得る?」


いつまで続く冗談かわからず、少し猜疑を交えてキルリスが答える。

「普通の子供ならあり得るわけがないだろうね。自分一人で魔法の訓練を進めて魔法を放つことができて。さらに極めるために図書館で難解な書籍を漁って魔導士団の研究所長に質問するなんて。世の中の子供みんながそうなったら魔法学院は閉校するしかなくなると思うよ」


言葉遊びは続くのか。

元々はキャサリンが思わず魔眼を使ってしまった説明から始まったはずだけども、どうにも要領を得ない。

母親譲りの実直な性格に育ってくれた。延々言い訳をして下手なごまかしをするタイプでないと信じているのだけど、ならば続く話で何を言いたいのかがわからない。


「それで。それで思わず魔眼で見ちゃったんだ。ごめんなさい。でも本当にボクが感じた通りの子供だったら魔導士団としても放っておくわけにはいかないかも、と思ったんだ」


話はつながった。だがおかしい。

何が、どこが冗談かわからなくなっていく。


「あの子、いいや子って言っていいかわからないしあの人、って言っていいのかもわからない。宝玉での判定は2属性持ちでレベル1スキルなしだったけど本当は全属性持ちだよ」


何を言っているのか、冗談でもいって良いこととそうでないことがある。

それでは宝玉の判定が間違っていることになるではないか。

王国一の大教会の宝玉の判定が間違いだなんて、これまで判定を受けた貴族たちがだまっていられるはずがない。


「キャサリン、それは冗談でも言ってはいけないことだよ。まるで大教会の宝玉が間違いをおかしているように聞こえる。この話はここで終わりにした方がいいんじゃないかい?冗談にしてはそろそろ笑えない話になってきたしね」


キルリスが優しく諭したことに、今度はキャサリンが大きく目を見開いて驚愕する番だった。


そしてすぐに態度を改める。

自分が滔々と話している内容は、とても正気な話だと受け取ってもらえるものではないことに気付いたから。

彼女は自分が話の切り出しに失敗していたことに気が付いたのだ。


スックと立ち上がると、王国軍と魔法師団で共通となっている上官への敬礼を行う。

そこにいるのは娘ではなく、魔法師団での上官キルリスに対するキャサリン所長だ。


「キルリス師団長に報告いたします。魔眼を持つベッシリーニ家の一員として、エストラント家ご子息のユーリ氏のステイタスを確認した件で報告いたします」


「おいおい。まさか本当の話なのかい?」


「本当であります」

厳しい表情を一切崩すことなく瞬時に返答する。


正式な作法には同じように返す。

立ち上がって敬礼のしぐさをとったキルリスは、力の抜けた笑いを漏らしてそのままソファに腰をうずめた。


「わかったよキャサリン。もうそんな疲れる恰好はいいから話を続けて。キミが本気で話しているのを茶化してしまったようで悪かったよ」


「うん、そうなんだよ。でも普通に考えたら冗談としか思えないよね」

即座に自宅の娘に戻ったキャサリンは笑顔に戻る。


「しかし4元素持ちとは恐れ入ったな。稀代の天才魔法使いだ。おそらくものすごい師匠について修練しているのかもしれないね」


「そう思うよね、でも間違ってるよ8元素持ちだよ。あと固有スキル持ち。内容まではわからないけど。レベルは全レベルで5だから魔法使いの仲間入りしたヒヨコくらいだけど。ちょうど魔法学院を卒業する首席レベルだよね」


「!?」


愛娘の話を信じることに決めたキルリスには驚くことしかできなかった。


それはそうだ。

基本4元素までならどんな神のイタズラかと思う。

しかし8元素ならば基本4元素に加えて上位4元素も適性があることになる。上位元素は基本元素を極めた上で取得できるものであり、上位元素持ちとはつまり1流の魔法使いということだ。


「そんなことはあり得ない。上位元素の魔法適性がそんなレベルで発現しいているなんて聞いたこともないし、基本元素の修練が土台にならなければ上位元素を取得できるハズがない。もし最初から上位元素への適性を持っているとしたら」


「いるとしたら?」

真面目な顔でジッと父を見つめるキャサリン。

自分の中で湧き上がる問いへの回答を待ちわびる。


「それは神がその子に祝福を与えたとしか考えられない。それじゃあまるで・・・っ」


そうだ。

キルリスはそんな存在をたった一人だけ知っていることを思い出す。


悪人に容赦なく、弱い立場で苦しんでいる人を救い、虐げられている人のために怒るそんな人物。

家族を振り回してでも世界を飛び回る一本気な性格のくせに、その家族の危機には自分がどんなにピンチでも飛んできた人物。

キルリスの父にして世界一であった大魔導士。


「そうだよ。おじいちゃんと一緒だとしか思えないんだ」


熱弁をふるうキャサリンと同じように立ち上がり、体中で否定しようとするができないことだった。


「わかった。すべてが事実だとするなら、宝玉の判定も故意に低いレベルへと誘導されたのかもしれない。真偽は保留するよ。それより明日その彼が来るのなら私も同席させてもらうぞ」


「え?ダメだよ?なぜ当然のように言ってんの?」


互いの意地がぶつかりあう。

引くことのできない想い。


「おじいちゃん言ってたよ。幼いころは誰も信用できなかったって。騙されて、騙されて、ひどい目にあってきたし人を悲しませる肩棒もかつがされたって」


黙って聞くキルリスの表情は厳しい。

彼もまた自分の父が過ごした境遇を知っている。


「おばあちゃんと国王陛下のおかげだって。それまで誰も信じられなかったし信じてこなかったって言ってた。すさんでたって」


「それは親父の境遇の話であって、現宰相の子弟とは話が違う。とにかく私はこれから王宮へ戻って国王へと報告する必要があるから出かけるよ」


キルリスも。もちろん若い日の父の苦しみについては話を聞いている。

そんな父の心を救ったのは後年に彼を取り囲んだ優しくて正しい人々だ。


世界一と言われた男は自分が人として戻れたことを感謝し続けていたし、だからこそ奢ることもなくいつまでも自分であり続けた。

そんな父親をキルリスは誰よりも尊敬していたし、彼自身も父が世話になった人々に不義理を欠かすことはない。

父と同じように、王国のため弱い立場の人たちのために自分ができることを考えて人生を歩んできた。

もしも同じように苦しまなければならない才能の塊がいるのであれば、世界一の魔法使いの息子として、そして王国一の魔法学院の学院長として。手を差し伸べて導くことは自分の宿命にすら思える。


魔法師団長として違う見方をするならば、王国軍も魔導士団も絶対に自分の父とは戦闘させてはならない。

肉親と戦うことをさけたい気持ちとは別に、世界一の魔法使いとの戦闘はしてはならないことだ。

あんな存在が他国軍や暗殺集団の味方をするなら全滅するのは間違いなくこちらだからだ。


騎士が何万人いても関係なく王国中を炎で焼き尽くすこともできる。魔導士が何百人いてもすべての魔法は無効化され拘束される。常識で測れない規格外の魔導士。

絶対に放っておくことができない。

前王の息子である現国王にとっても同じだろう。


「ちょっと待って、せめてきちんと信頼関係作ってからじゃないとおかしくなるから!ダメだからね勝手しちゃ!」


速攻で上着を羽織って出かけるキルリスにキャサリンの言葉は届かない。

このかけ違いがベッシリーニ邸での大乱闘へとつながるのだ。




今話の続きが第1話「秘密」からのお話になります。

次回の第25話「仕切り直し」は第4話「謝罪と始まり」からの続きです。

お待たせしました。

この先はストーリー展開進みますのでぜひご覧下さい。

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