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第17話 おじいちゃんとあの子

死んじゃったおじいちゃんは私のヒーローだった。


いつもいろんな人がおじいちゃんを尋ねてきた。

荒っぽい大男、病んだ子供を抱えたお母さん、大けがを負った街の人、怖い空気の怪しい人。

そして王様も。


誰が来ても堂々として、困っている人を救って。脅してくる人を懲らしめて、王様と楽しそうに笑う。

どんな筋肉男が突然襲い掛かってきてもぶん殴って静かにさせるし、魔法で襲い掛かろうとしてくる魔術師は瞬きする間に拘束された。


世界一の魔法使いと呼ばれていることは知ってたけど。誰とも気さくに話すし笑いあう。泣いてる人や困ってる人はほっとかない。

おじいちゃんの仲良しさん達やお礼をする人も、みんなが最後は笑顔になるのを見ていると嬉しかった。


王宮へは何度も連れて行ってもらったことがある。

そして宮殿の中で私は肩車してもらうのがいつものこと。

今にしてみると恥ずかしい。


始めて肩車された日。

王宮のいろいろな飾りが物珍しくて。キョロキョロしていた私が背の高いおじいちゃんをうらやましがったからだ。

ピカピカ光る獅子の像とか、何がかいてあるかよくわからない極採色の大きな絵画とか、正面からじっくり見てみたいのに背が届かない。

全体を見ようとすれば遠くからだし、近くから視ようとすれば下からしか見えない。

そんな私がおじいちゃんをうらやましがったら、ヒョイと肩車してくれた。


王宮を行き来する貴族たちが目を見張ってたのはわかるけど、その頃の私は自慢だった。

背の高いおじいちゃんのおかげでこんな高い景色が見れる。みんな羨ましいのね!としか思えなかったから。


どこでも誰にも媚びることがなかった。

強いくせに優しくて涙もろい。

王様だっておじいちゃんを頼っているのは子供だってわかる。


おじいちゃんには爵位も序列も関係なかったから、私もそれが正しいと思っていた。

誰からも頼られて愛されて、そして困っている人にも悲しんでる人にも真っ先に手を差し伸べる。

悪いヤツには屈しない。おじいちゃんを見ると後ろ暗いところがある人たちはコソコソと影にかくれる。


これが私のスーパーヒーロー。

そしておじいちゃんは私のことが大好きなのだ。

なんだか鼻高々だよ。




今でも尊敬する祖父のことを思い出すと、やっぱり寂しくなる。

大人になればなるほど、そのすごさがわかるようになる。

何故そんなことができたの?

どうしてあの人のことが放っとけなかったの?

聞いてみたくても、もういない。


たった一人の孫である私には過ぎるほど甘々だった人。

いつでも私のことを周りに自慢していた人。


そんな最強の人は、でも自分の昔の話をするときだけは辛そうで悲しそうだった。

あまり話したがらなかったけど、子供心に疑問がすぐ口に出してしまった時とか。

嘘もごまかすことも得意じゃなかったし、私が太い首に抱き着いてぶら下がってお願いすれば何でも教えてくれた。


今の私なら雰囲気を察して聞けない、あの頃はとてもごめんなさい。

でも聞いておいて良かった。


おじいちゃんがお祖母ちゃんや王様と出会う前の話。

いつもひとりで戦っていた話。

騙され続けた子供の頃の話。

頭の中で神様と話ができる話。

大切にしている魔法ロットが実は生意気な話。


利用されたあげくに村を滅ぼしてしまった話だとか。

そして仲間を殺してしまった話。


楽しい話は誇らしく、哀しい話はポツポツと話してくれた。

その目が涙にぬれる時には、私がポケットから小さなハンカチで拭いてあげるのがいつものことだった。

腹立たしい時は一緒に怒ったし、哀しい時は一緒に泣いた。

私のポッケには、おばあちゃんがいつもきれいなハンカチを入れてくれた。


子供に聞かせる話じゃなかった気もする。

でも華やかな今と哀しい過去はきっとひとまとめなんだ。


ボクはおじいちゃんに降りかかった哀しい出来事に腹が立って哀しくってどうしようもない気持ちだったし、今の格好いいおじいちゃんの周りにいてくれる人たちにはいつも感謝した。


学んだんだ。

必死に戦っている人はひとりじゃ寂しすぎる。哀しすぎる。

でも誰かに出会うことで心を支えられて幸せになれる。

哀しさを乗り越えられる。


おじいちゃんが死ぬ直前までわたしは胸元で抱き着いて眠っていたそうだ。

いつも温かくて、頭を撫でられる手が優しくて嬉しくて熟睡してた。

いつもなら。

私の目が冷めるとおじいちゃんはウトウトしながら、でも幸せそうな顔で手だけは私をなでてくれた。

その日もそんな日なはずだったのに。

撫でてくれる感触がないことに気付いて目が覚めた。

おじいちゃんの手は止まっていたけど、顔はいつも通りに幸せそうだった。


「おじいちゃんのことを思い出したんだよね」


父に頼まれた書物を取りに図書館に向って、そのまま役目をブッチ切った私に父はジトリとした目を向ける。

どんな言い訳をするのか言ってみろと目が語ってる。


「何となくだけど。絶対に他に負けない力をもってるハズなのに、どうしても心に辛い何かが刺さって弱気になって。力を持っていることはわかっているのに自分を無価値だと思っている、そんな子に出会ったんだ。例の私が家庭教師するかもしれない宰相の息子さんだよ」


「でもそれはその子の性質だろう?名門家の家柄で宰相の跡取り息子、自信を持つには十分だ。でもエストラント侯爵も奥方もお忙しい身分で殆ど子弟にかまっている暇もないと聞いてるよ。そんなの当たり前という子供もいるけど、不安感や自信喪失につながっていく子供もいるのじゃないかな?」


うちの父親は学校の学院長をしている教育者でもあるから、冷静に分析しようとしてくれる。

でもそうじゃない。


「実はお父さんに謝らなきゃいけないことがあるんだよね。おじいちゃんの魔眼でその子のこと見ちゃったんだ」


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