第161話 ウサギとキャサリン
「なんだか随分と長ったらしい話してたわよね?」
宿舎にもどるとウサギちゃんが俺の胸元からピョコンと顔をだした。
どこかに置いておくと勝手に騒ぐから服の中で眠らせてたのだ。
「でもこれから大変よ?あのジイチャンじゃないけど溺れそうになった人間はワラでも掴むんでしょ?ワラどころかあなた不沈艦だもの。すがりつけば助かるなら誰だってあなたに跪くし掴んで離さないと思うわよ?」
「ああそうだなあ。深淵の森に棲んでるピンク色のウサギとかな」
「そうそれな!って、おーーーーいッ!!!」
コイツ本気で自分を除外してるからなあ。
「ちょっと憂鬱だよな。俺はキャサリンと二人でノンビリ過ごしたいのに」
「え?ちょっと待って聞き捨てならないわよ?本当はユーリと私の二人で、って言いたいところを特別に勘弁して人間の女と私の3人でにしといてあげる!よかったわね、私が心の広いウサギで!!」
ほんとこのアホうさぎはもう!
なんなんだコイツの自信は。
「ああ、もうお前に突っ込む元気すらないよ・・・」
「なに?そんなに簡単にめげないでよアタシの主人のくせして。いいからドンとわたしに任せておきなさいって、ユーリにぶら下がろうとするヤツラは私の方で対処しとくから」
パチンとウインク。
言葉だけならユーシューな秘書さんみたいなんだけどなあ。
「お前そんなことできるの?どうやって?」
「私の審美眼で」
自分の大きな黒目を指さして誇らしげ。
「それで言うこと聞かないヤツにはキックね」
バン、バン、と後ろ足を踏み鳴らす。
いやいやどうやって?
「可愛らしい私のお願いを聞かないヤツなんていないでしょうけどね?フフン」
フフン、って。
いや進化していけば悪女になるかもしんねーんだからあながち間違いではないのか?
「じゃあま頼むわ。ちなみにその審美眼でさっきのオッサンはどうだった?」
「少しなら話を聞いてあげてもよかったわね。ちょっと朽ちかけてる生き物だったから情けくらいは自分のためよ。言ってることも私欲ってわけじゃなくて『願い』だったから。あげる時間は30秒ってとこかしら」
ああ見てるとこは一応見てるんだな。
しかし『朽ちかけてる』魔物の寿命からしたらそうだろうけど。
ホントこいつはどこから目線なんだ?
「そのマウント感覚はどこから出てくるんだ?」
「なに言ってんの、あなたの第二夫人だからに決まってんじゃないのーーー」
照れながらバシバシと俺のほっぺを叩くな。
あと俺に第二夫人はいない。
「あたしが窓口になればあなたは面倒ごとをさけられる。私はあなたから感謝されてしかも手下にできそうなヤツを青田買いできる。これって一石二鳥じゃない任せてよ!!」
「任せられるかアホ!おまえ勝手に自分の手下つくりたいだけじゃねーかよ!!」
ごちゃごちゃやってる雰囲気はすぐにキャサリンが気づくんだよな。
最近その辺りの気配を察知するのがうまくなった気がする。
「今度はどんな生意気をいってユーリを困らせてるんだい?ボクでよければ相談に乗るよ?」
キャサリンの優しい言葉を聞いたとたん、ピョーンとキャサリンの胸元に飛び込んで彼女のホッペにスリスリしはじめた。
「やっぱりかわいいなぁ。ユーリが言うように生意気言ってるようにはとても見えないよ」
「そいつ今キャサリンを自分の所有物として臭い付けしてるからね?メロメロにさせて手下1号にしてしまおうゲヘヘヘヘ、だってさ」
「キミお腹かっさばいたら真っ黒だね間違いないよ。やってみようか?」
氷のような目線でお腹の正中線にスーーーッと指をすべらせるキャサリン。
指先から延びた尖った氷が真っ白なお腹に切れ目を入れて、同時に発動している回復が傷をなおしていく。
あらふしぎ!なんの傷もないウサギちゃんのお腹に一本の血の筋ができました!
「ユーリを困らせちゃダメだから・・・ね?」
首根っこをつままれてキャサリンの正面に顔をあげられたウサギちゃん。「すんませんでした姉さん」と目線を脇にそらすのだった。




