第160話 三者会談
各国の宿舎からは離れた焚火。人払いをお願いした。
もちろん防音の魔法もかけてある。
その火を囲むのは東のゴルサット隊長、キャサリン、そして俺、の3人だ。
「先の続きであったな?ユーリにも言ったがワシはお主らと知己を得たいと思っているそれだけよ」
「ずいぶん強引だけどな」
俺が突っ込むとカッカッカと大きな声を出して笑った。
「しょうがないだろう東というだけで警戒されては話しもできん。お互いの本音が垣間見えねば形式の会話をしても面白くないだろう?」
「じゃあ今回はユーリと知り合いになれたからよかったって話で終わりなの?」
本当かな?って顔してキャサリンが聞いた。
こういうパターンもあるかな、ってキルリスと話してあった東の選択肢のひとつ。
それでも其れだけで終わるハズはない。
「基本的にはな。いろいろと確認したいし見てみたいのはお主らだってそうだろう?
わかって欲しいのはワシら東はお主らと敵対するつもりはないということだ。西と東の争いでお主と戦うことになるなんぞゴメンだわい」
パチパチと焚火の火がはぜる。
暗闇のなかで3人の顔が炎の灯りにてらされる。
「だが西からの理不尽な侵略には命を賭してでも対抗せねばならん。それは逆の立場からすればお主らだってそうであろう?」
「もちろんだな」
「だが実際に国と国の争いなんてのはどちらがいいとか悪いとか割り切れるばかりではない。西から見れば東が悪いが東から見れば西が悪い。双方の言い分が食い違う」
「言いたいことはわかるよ」
誰も自分が悪いなんて言わない。
どこの国の政治家だろうと同じだ。
「そこでお互いの国力や外交力で押したり引いたり戦ったりが通常じゃ。だがお主の力はひとりで東を壊滅させるじゃろう」
出来るけど。
するつもりなんてない。
「考えてみてくれぬか?壊滅させられた後で『やっぱり悪いのは西だった』とおヌシが気づくことがあったなら?ワシらは死んでも死に切れん。魂は死んだあとですらそんな宿命を課した神に反抗せなばならん。それでは黄泉の国ですら報われぬ」
「・・・・・」
わかんねーよそんなタラレバされても。
そんなことにならねーように気をつけとくから、でいいのかよ?
「せめてお主の意思で滅ぼされるならな。つまり神が決めた定めなら受け入れるしかないかもしれん。しかしくだらん西の貴族の甘言で滅ぼされるのであれば、我らは進む道もわからず永遠に黄泉への入り口で迷うことになる」
「俺は神様じゃねーぞ」
「お主の状況はわかっているつもりだ。オーバースペック、神へ至る道を歩む者で間違いあるまい。全ての現象がそれを事実であると証明している」
ここまでバレてるのをいちいち否定しても話がすすまねえからな。
「じゃあどうしたいんだよ。俺にどうして欲しいんだよ。俺は神様になる気なんてねーしそんな難しいことなんてわかんねーんだぞ?」
「ほんとうにお主が神になれるかワシにはわからん。ただお主は神のようにふるまえる力を持っているのが現実だ」
最近はそんな感じの話によくなる。
なんなんだよ?
「そんな気なんてねえよ。だいたい世界なんてわかんねーし興味もない。俺はまわりのヤツラが楽しくやっていければそれでいいんだ。偉くなる気も威張る気も何もないぞ。それじゃダメなのか?」
ゴルサットは返事をせずに何ともいえない顔をして今度はキャサリンの方へと向き直った。
「西の現国王は聡明で慈悲深いな」
「そうですよ他の国へ無益に侵略するような方ではありません」
「わしらの分析でもそう考えておる。しかし我らは次の世代を見据えているのだよ。第一王子、第二王子、そしてユーリが後見人となった第二王女。これはお主らにとっては不敬になるかもしれないが。まあここだけの話に聞いておくれ」
いったん区切ってからグビリとジョッキをあおぐ。
「普通に考えれば第一王子か第二王子が王位をつぐだろう。第二王女はあまりに力が無さすぎる。第一王子は考えが浅く欲深い、第二王子は策略家で知恵があり陰謀を好む。さて世界が安寧のままであるためには誰が次代の王となるべきかの?」
「それは東が考えることではないでしょう?間違っても西が東に操られるわけにはいきませんよ」
だから他の国を操るってなら。
国の民を守る為でもやり過ぎだろうが。
「そうだな。だがその先でユーリが利用されて東に派兵されてはたまらんのだよ。ユーリの力は簡単に大国間の均衡を崩す」
「では何をお望みですか?ユーリを東の手先に取り込みたいとでも思われてますか?」
「それこそまさか。言ったじゃろう、ワシはお主らと知己を得たいというのが願いじゃと。少なくともユーリが東を壊滅させる前に一時でも話を聞いてくれるように。今回の調査隊でお互い国を超えて知り合うのは今後の世界に悪いことではないと思わんか?」
想像したくねえぞ。
なぜ俺がどこかの国を滅ぼしてんだよ?
本人が想像できないのになぜ周りが勝手に心配してんだよ!
「ひとまずわかりました。この調査を無事に成功させることについてはお互いに同意しているということでいいですね?」
「無論無論。ユーリだけでなくキャサリン嬢とも語り合えたことは望外の幸せだな。いつか二人して東の国へと来てみぬか?皇帝と4賢人のワシへの国賓として迎えるぞ?」
「いや、国賓とか興味ねーんだって」
俺ってなんなんだよ?
俺ってどんなに思われてんだ?
「では普通に研究者として。それか武芸者でも商人としてでもいい。それから街に出て当たり前に東の人間とその生活を知って欲しいのがワシのささやかな願いになる。ユーリよ、願わくばもっと世界を知って欲しい」
しかしこのおっさんは。
熱量が高いっつーか暑苦しいっつーか。
悪いヤツではないんだろうけど。じゃあ純粋にいいやつってのでもねーだろうし。
そういう単純な2原論で割り切れるタイプじゃなさそうだ。
言っていることはわかるけどこいつの口車に乗って動くのもなんかなあ。
誘いにのったらやっぱり、こいつの意図に沿ったもの見せられて話聞かされる気がするしなんか誘導されそうなのもなあ。
おっさんが言ってるのは自分を通してって話じゃねーから。今のところは単純に「平等な目で東を見て欲しい」ってことなんだろうけど。
こんな国の重鎮にお願いされてどうすりゃいいんだ?
今の王様が理不尽に東を滅ぼせなんて言うとは思わない。
シャルロットだってそうだ。
けど、最近縁のある第二王子だったら?
そう言うか言わないかは別として、俺の能力のことがバレれば他国への脅しの手段として利用するだろう。
それを俺が嫌がったら?
西の王宮と俺が揉めるか西から出ていくか。
だったら東を頼るっつーのも選択肢かもしれねーけど。それもなんかなあ。そこまで見越されてるような気がしないでもない。
俺としてはそういう国同士のやりとりから距離を取りたい。関わりたくない。
今はまだ南と北は俺のこと知らねーし西だってバッチリばれてるわけじゃねーけど。
なんか先行きが暗いよなあ。
「すまんな。年寄りは話が長くていかん。じゃが今日ワシは偽りのない気持ちを伝えたつもりじゃよ。今日の話しを少しでも気にかけてもらえると嬉しく思う。あとはまあ」
「なんだよ。長いぞ」
「くくく、まずはこの深淵の森の調査を終わらせねばなあ。正直にいえばワシら3人でとっとと飛び回った方がよっぽど安全で早くに終わりそうだが。コブが多すぎて動きがとれんというのが本音じゃな」
 




