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第159話 東の実力

その夜。


各国の護衛部隊が交代で見張りを立たせた状態で、ささやかな調査団発足の宴が開かれた。

もちろん俺達西の王国の結界を張った上で。


南の調査団はいろいろとこの場所で魔物に襲われて苦労したようだけど、それは南の調査団でも生き残れる程度のと割と安全な場所とも言える。

所詮この場所はそれなりの魔物が弱い魔物を狩るための場所だ。魔法使いとの連携ができる部隊であれば問題にはならない。


「それでは今回の調査の成功と全員の無事、3国の共栄共存を願って。乾杯っ!」

「乾杯っ!!」


いっせいにかかげた木製のジョッキがゴツゴツと重ね合わされる。

キャサリンはすっかり調査団全体の団長の体だ。

そのまま、南の調査団、東の調査団と会話を重ねて、軽くほろ酔いで戻ってきた。

うん、キャサリンが戻ってくるのは俺のところだよ。

よしよしよく戻ってきたね・・・


「よお挨拶ご苦労さんっ!ガッハッハッハ」


おまえはこなくていいのに。


俺の横はキャサリンの場所なのに。

戻ってきたキャサリンを高笑いで迎えたのはゴルサットのジイさんだった。

ちゃっかり俺の横でジョッキを掲げている。


「ねえユーリ。なんでこんなに仲良くなってんの?」


キャサリンがゴルサットとは反対側の俺の横に座りながらムウッとした顔で聞いてくるけど。

いやいや。俺だって仲良くなったつもりはないのだけど。


「知らない。あと仲良くなったつもりはない」


「そうなの?さっきからずっと横で肩組んでたし。今も隣にいるから誰がみても意気投合って感じだよ?」


くそったれめ。

ヤッパリそう見えるよね?

俺のこと知らないヤツからはどう見えてることやら。


「さすがは西の王国の自然科学の権威であるキャサリン教授だ。われらの仲をよく知ってるな!その通り我らは意気投合したのだよ。なあユーリ!!」


「いいからおまえダマれって。それより・・・」


ジョバンの方を見るとあいつも気が付いてるようだ。

強い魔物の気配が近づいてくる。

A級クラスの魔物だろうか?

今張っている結界なら破られはしないけど放っとけないレベルだ。


「なに今はうちの兵士たちが何人か見張りにでておる。何とかするだろうさ」


ゴルサットのおっさんは全く気にするそぶりはない。

そう言うなら大丈夫なのか?



ドゴオオオオォォォンッ!!!


魔物の方向から爆発音が鳴り響き、直後に大きな火柱が上がった。


「おお、始まった始まった。派手にやっておるなあ。森が延焼したらどうするつもりじゃい」


オッサンにあせった様子はない。


「随分と他人事だけどほんとに大丈夫か?森が燃えちまうといろいろとまずいぞ」


もちろん俺達が生き残るのが最優先だけど。

今はよくても後で降りかかってくる。


「後始末までするように訓練しておるよ。ほれもう炎も消えておるし魔物の気配も消えたぞ?」


「随分手際いいなあ」


無事に討伐したようだ。いろんな意味で手際いいな。

南の兵士と違って森林での魔獣討伐まで訓練されてる。


「連れてきたヤツラはワシが直々に鍛えておる親衛隊じゃ。武力と魔法力の両方が高レベルのヤツラじゃから心配はいらん」


「でもよ。剣術も魔法もなんてそうそう極められるもんじゃねーだろ?才能あるヤツはできるだろうけど」


西でもそんなヤツはなかなかいないぞ?ジョバンは魔導士だしジンは剣士だ。


「そこはほれ武力は鍛錬するしかないがの。魔法はお主らの魔法師団と違って欲張らずにやってくのじゃよ。得意の元素を極める、得意の獲物を極める。不足するものを魔道具なりパートナーで補い合う。炎を扱うものは水や氷を扱うものと組み合わせておるからな。先のも問題にはならんよ」


「そういやあんたらが統一しているコートも魔道具だよな金かけてんなアレ。対魔法防御に対物理防御。グローブには魔力増幅の魔石を埋め込んでブーツには俊足の魔法陣が織り込んである」


おそらく東の隊員たちはハイレベルだけど飛び抜けた実力者じゃないのだろう。

西の隊員と互角以上なのは魔導具による底上げが大きいようだ。


「おいおい。あまり機密情報を口に出してバラさんでくれ?おまえに気付かれるのは織り込み済じゃがコッソリじゃ。無いものは水面下で必死に水を搔くしかないからな」


口ではヤメテクレヨという感じだが何の未練も感じない。こいつ大抵のものは飲み込んじまうから読めない。


「無いもの?うちの兵士たちよりよっぽどいい装備じゃねえか?こっちは金属メイルってわけにもいかねーから急遽魔物素材のよろいや盾しかつけてないんだぜ」


「そういう意味ではないのだがな。お主のとこの隊長のように剣術の達人は東の隊列にはおらん。ジョバン殿ほどの魔術師もワシを除けばおらん。絶対的な積み重ねや研究は西にかなわんから得意技を特化して魔導装備で底上げしておるのが実情じゃ」


「ふーん・・・お、あんたの部下たちが戻ってきたぜ」


「でっかいブラックタイガーだな?」


直立すれば3メートルはあろうかという巨大なブラックタイガーを抱えて帰ってきた。

黒毛の巨大な猛虎は闇に潜んで獲物を狩る。

巨大な牙、爪。さらに己の不利を感じると雷撃までついてくる。

必要なのはとにかく先制攻撃で一気にケリをつけること。強靭な足腰で俊敏な動作をしてくるので、武力だけで倒すにはなかなかにやっかいな魔獣でもある。

剣術でもジンくらいの達人クラスなら一刀両断しそうだけど、それができないと消耗戦になるやっかいな相手だ。


抱えてる東の兵士。あの巨体のタイガーを軽々抱えてるけどすんげえ力持ちってわけじゃねーんだろうなあ。

東の副官クラスだとやはり闇魔術を使うのか。


「魔石はこちらで保管していいかな?毛皮は残念ならが黒焦げだ。肉は食えなくないが固くて食えたもんじゃない」

東の副隊長がちょっと申し訳なさそうにゴルサットとキャサリンに告げる。


「しょうがないんじゃねーか?プロでもなかなか手をやく相手だしな」

ジョバンが寄ってきてキャサリンに助言する。冒険者として命大事に欲張らないのは当然だ。


「ご理解いただいて助かるよ、さすがはS級冒険者だ。軍隊だけしか経験ないとわかってもらえなくてね」

東の副官がジョバンと手を握る。暗に南を当てこすった、というわけではなさそう。現場がわかる者同士が意気投合した感じだ。


「わかった。俺から南の隊長にも話しを通しておくよ。素材は共有財産でいいんだろう?」

「そう考えてもらって構わない。後々研究に使えるものは持ち回りで使用することにしてそれ以外はどの国か買い取りでと考えている。そうしておけば南としても国に戻って顔が立つと思う」


この深淵の森では南の武力は役に立ちにくい。

協力しあった形で獲物も等分して持ち帰れれば、彼らもそれなりに評価されるだろう。


別に南の兵士が弱いわけじゃない。

この「深淵の森」に生きて立っていること自体が奇跡なのだから。


「ゴルサット隊長もそれでいいですよね?」

「キャサリン隊長もそれでいいか?」


それぞれの上官に確認をとるとジョバンとマスク副隊長。東の副官は南にも説明に向かう。

ジョバンが「俺が説明する」といったがそれでは申し訳ないと思ったのだろう。

義理堅いのかきちんとしているのか。そういう感じの人だ。


「うーん、さすがにジョバンは慣れてるねこういうことに」

「それはそうなんだけど東の副隊長もすごいと思うよ?軍隊の人なのにジョバンと普通に話してるんだから。ジョバンも現実的な話が通じてるから気安く話てるし」


二人は現場を知ってるもの同士、て感じだ。

強い魔物に対して仲間を率いてきた立場が似てるのかも。


「カッハッハッハうちの若造を褒めてもらって悪いな!何せうちは現場主義だからそこらのお堅いヤツラとは違うわい!」


頭をかきながら笑うゴルサットにキャサリンが挑戦的な目を向けた。


「それで東の隊長はうちのユーリをどうしたいんだい?」


その一言で笑っていたゴルサットがピタリとその表情を止めた。

彼女は両足でふんばって正面から大男を睨みつける。


「それはどういうことかな?ワシはこのユーリを気にいったというだけだが?」


「そうかい?随分と無理やり取り入ろうとしているみたいだけどね。油断させて寝首でもかくのかな?」


キャサリンの腕が少し震えてたから俺は横に立ってその手をぎゅっと握る。

キャサリンは言いたいことを言えばいい思ってることを言えばいい。いつだって俺が横についてるのだから。


「さすがに神となる男の伴侶だ肝が据わっておるな。ワシらは神に抗うほどバカではないし話をしてみてもユーリと敵対する必要は感じておらんよ?」


「どういうこと?ユーリを確かめにきたってことかな?」


「単純明快でよかろう場所を変えて話をしようか?ワシは西の貴族のような上っ面のやりとりや様子見は好まない。どのみちキャサリン殿との会話も必要となることだと思っておったしな」


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