第152話 うさぎのやくめ
「ところでおまえなんでココに来たの?」
肩に乗っているウサギちゃんがピョコンと長い耳をたててビックリした顔でこっちを見た。
"え?今更?"
「いやいや俺は何も聞いてないぞ」
"運命の出会いをするために"
そして俺の顔にスリスリ・・・
「ねえユーリ。いまこの子は失礼なことを考えてないかな?」
キャサリンの笑顔にだまされてはダメだ。
唇のハジがヒクヒクしてるからこれは顔と心が逆のヤツだ!
「うーんなんでコイツが来たのか聞いてるんだけど」
「ふむふむ。なんでだろう?」
"エルフに頼まれてご案内係よ。あなたエルフの女王と一緒なんでしょ?"
「ああやっぱそうだよな。でもおれたちこれから他の国と合流して森の調査だぜ?」
"好きなとこに行けばいいじゃない。迷路のような道でも危険な場所でもアタシと一緒にいれば大丈夫よ。どこかで一度エルフの国によってあげて欲しいだけだから"
「じゃあどこかでバレないようにさっと別行動しちまうか」
《悪いわね。わたしひとりでもいいんだけどこの体じゃあちょっと身動きとれないしね》
エルフの女王のクセに。
そんな風に言うなよ
「気にするな。短剣を国王から預かっているのは俺なんだから面倒みるのも俺だろ?」
《悪くない気もするけど面倒見てるのはアタシだからね?その辺り誤解しないでよね》
「わかったわかった。そういうことにしておくよ」
全て頭の中での話。
「うーーー。なんだかユーリがしらないところで話してるよお」
「おいユーリおまえのおくさんがなげいているぞお」
「あ、わりー」
そうだよなあ。
俺以外のここにいる人間的にはおれがウサギちゃんに向かってボソボソひとりごと言ってるだけにしか見えないよなあ。
ウサギちゃんはウサギちゃんでブーとがグウとかしか音ださないし。あとはおれにスリスリしてくるだけだし。
「たいへん興味深いねユーリさん!まるでウサギさんと会話しているようでしたよ?」
快活に笑うザハトルテさんに苦~い顔をするジョバンとキャサリン。
ぶっちゃけこの中で俺のことを完全にわかっていないのはザハトルテさんくらいだ。
ジンの兵士たちは俺の噂話を聞いてるだろうし、タペストリー領の防衛に飛び出すところを見てた兵士もいるだろう。
こういう会話のときは皆してソッポをむくんだから。こっちに話が来るなよ、って体が表現してる。
戦闘になった場合の連携もあるから知っておいてもらわないと困るとこもある。
「もしかしてウザギさんの気持ちがわかるんですか?先ほども気持ちを代弁するかのように話していましたけど」
とても興味深い、とでも言ってる顔だ。
おれは端っこに行ってコソコソとキャサリンと話に確認することにする。
「ねえキャサリンこのヒト微妙にイヤなとこついてくるんだけど」
「だてに研究員のトップじゃないから。いろんなことに興味をもつのが研究員の素養だし。そのくせ気配りとか空気を読むとかそういう対人スキルがぽっかり抜けてるんだよ」
研究者として、ね それならば。
どぼけちまおう。
「え?ザハトルテさんはわからないんですか?こんなにわかりやすいのに?」
「あれれ、そういうものなんですか。わたしにはサッパリですが。どういうことでしょう?テレパシーってヤツですか?」
くそう。
ところどころ鋭いせいで面倒くさい。
「いえいえ。顔を見れば表情も目やひげや口の動きもあるでしょうし耳だってたってたりペタンって倒れてたり、鳴いたりとか、足の動きとか、シッポとか。ウサギちゃんは全身でいろんなことを表現してますよ?」
一般的にはね。
「ほうほうそれでは具体的に・・・」
メモとペンを取り始めたのでそこはご遠慮願おう。
「あのう。私はウサギの専門家ではないので教えるほどではないですよ。でも動物はいろいろな表情を見せてくれますし。ご自分でいろいろと観察されてはいかがでしょうか?」
「そういうものでしょうか?なかなかに現場で実物を見ると興味深いですね。ユーリさんがいきなりそのウサギちゃんの気持ちを理解できたのはやはり経験によるものでしょうか?」
「まあ冒険者やってればいろいろな魔物や魔獣とやりとりしますから。なあジョバン?」
いきなり振られたジョバンはあきれた顔で首をふった。
「もちろんだユーリ。俺くらいになれば一目見ればこいつらの弱点がどこにあって、どんなを攻撃しかけててくるのかを読むことなんてお茶の子だ」
顔が無表情なのは面倒に巻き込むなという暗黙の主張だよな。
微妙に話をすり替えて本当のことしか言ってない。
「やはりそんなものなのですね。ますます興味深い。わかりました見ますよ私はいろんな獣を!そして気持ちを理解しあっていつかはモフモフ天国を手に入れて見せますよ!!」
「そうですか。・・・頑張ってくださいね?」
頑張らないでください。
あともうこっちに聞いてこないでください。




