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第150話 深淵の森へ


「やあ、今日もいい天気だね。絶好の研究日和だ!」


ピクニックにでもいくようないい笑顔で話しかけてくるのはキャサリンじゃない。キャサリンの部下?研究員の男の人だ。若いのかおっちゃんなのか、無精ひげで年がよくわからない。少なくともまともなヤツじゃない。


「そうですね、まずは他国の研究団との合流しないとですから『安全優先』でいきましょう」

俺も研究員として参加してる。学生だし一番下っ端の立場だろうから一応は丁寧に。

でも研究者の人たちはそういうのあまり気にしてないように見える。

ココにいるのは王国でも有数の研究者たちだし、根っから研究のことしか考えてない感じ。おかげで面倒くさく威張ったりするやつはいない。

中途半端なヤツが権威とか気にして威張り散らすんだよな、とか思ったり。


「もちろんだとも!せっかく深淵の森に来たのに、こんな森の入り口で死んでしまっては死にきれないからね!アッハッハッハ」


「いや、ほんと頼みますよもう・・・」


このテンションの高さが危ない。

この人は道端の石ころからだって何かの意味を見つけ出してしまうタイプの研究者だ。

見るもの聞くもの嗅ぐもの味わうもの五感から感じるもの、その全てが研究対象となっているようだ。

言動が証明している。


「よく眠れましたか?」と問えば、「深淵の森から流れ出るフィットンチットのせいか妖精の加護のせいか、夢も見ずに深い眠りでスッキリ目覚められたよ、やっぱり空気に独自のオーラが漂ってるのでしょうか?」と自分の睡眠すら分析をはじめてしまう。そんな感じ。


はじめはこの人が東の間者かと疑ったけども。毛色が違いすぎる。

あいつらには、真面目さとか必死さとか一生懸命さとか他国への恨みつらみとか信念とか、良くも悪くも何かに殉じている固さを感じるけどこの人はちがう。

カラッカラ、お日様の日差しを浴び過ぎたような乾燥注意。

純粋な研究者?そんないいものじゃない。

天然の研究バカと言う類の生き物だ。

東のヤツラとは違う。この人は自分のやりたいことのためにしか動かないし動き出したら止まらないタイプだ。


「キャサリン、ほんとに彼は大丈夫?」


俺よりは年上だから立てるけど。20代後半?それでいえばキャサリンよりも年上になるけど、こういう研究に参加するには随分若いし行動は俺よりガキっぽい。


「深淵の森で安全確保する意味だと、ちょっとあぶないかな?研究者としてならバッチリだよ。テンションがバク上がりしちゃってるけどうちの研究所の筆頭研究員だし。技術面では頼りになる人なんだよ」


「ほかにいなかったの?安全優先でないと不味くないかな?」


「先日東をあぶりだしでボクのまわりからもかなりの数が連行されたからねえ。優秀で常識があって頼りになる人はたいてい東絡みなんだから、やっぱり研究員は常識のネジがはずれた奇人変人が当たり前なんだって思ったよ」


「じゃあ、その中で一番まともだったんが彼・・・?」


「アハハハ、常識面では似たり寄ったりだったから、たんに一番優秀な研究員を連れてきただけだよ。でも優秀で王宮や貴族や学会なんかに呼ばれて発表することも多いから一番常識を磨かれてるハズなんだけど。研究の才能は間違いなく輝いてるけど、常識を使いこなす才能はさび付いてるかな」


笑顔のハズのキャサリンの目元は全く笑っていなかった。


「キャ、キャサリンも苦労してるんだね・・・。」


「それもあるんだけどね?」

ギュム、とキャサリンが俺の腕を抱きしめて腕を組んだ。

柔らかい感触があたって幸せだ。


「ボクらが諸国漫遊の旅に出ても大丈夫な人材が育って欲しいし。ザハトルテくんは常識がつけばすぐにでも副所長になれる人材だしそうなって欲しいし」


「残せるものは残しとかないとだね?さっすがキャサリンは俺のおくさんだよね!」

「そりゃそうだよ、だんなさんにふさわしい人になんなきゃだからね!!」


最近おくさんだんなさん呼びが少しブーム。

もう勝手に私達結婚しちゃいましたでいいんじゃねーかとか思うけど。


「ジンわりいけど頼むわ」


ジンに頼んで兵士数名でザハトルテさんを見てもらうことになっている。

キャサリンは俺が護衛担当。名目上はジョバンが指揮を執りながら俺とキャサリンを守ってくれる。ジンは部下5名でザハトルテさんを見ているという、普通の旅なら過剰すぎる戦力なんだけど今回は偏りがある。


「まかせとけって言いたいけど、ジョバンから聞いた話でもなかなか楽しいことになりそうだな」

「そういうなって実際はジョバンもそっちをフォローするからさ。キャサリンは俺が見てるから気にしなくていいよ」

「おまえのことはわかってっからいいけどよ、いつかの夜中の襲撃事件みたいにおまえが直接動くわけにもいかないだろ?」

「そうなったらそうなっただわ。それに多分」


東と合流すればどちみちあいつらが動いてくるし、深淵の森も深くなっていく。

気にするだけ無駄な気がかなりしている。



3時間歩いて、ようやく5キロ地点。

ここからは昨日来ていない領域。

ここから道をはずれて湖へとむかったけど今回はこのまま進む。


このペースで進めれば、休憩をいれてもあと5~6時間でつくはずなんだけど。

まだ天中までも時間があるから、順調にいけば夕方より前に合流地点までたどり着ける寸法だ。


「おっ?なんかくる、かな?」


魔力探知に反応あり。だけど、随分小さいな。

動きも大したことない。


そう思っているとけものみちの正面から、小さな生き物がピョコピョコとやってきた。


小さい体で後ろ足で飛び跳ねるようにピョコピョコと。

随分と目立つ体はそれはきれいなピンク色の毛並み。


「ピ、ピンクウサギだーーーー!」


キャサリンがあげた声に反応して足を止めて立ち上がり鼻をフンフンいわせている、ちっこいうさぎちゃん。名前の通り薄くてきれいなピンク色。ピンクっつーか、桜色。

よく見ると、足元は4脚とも靴下をはいたように黒いのがポイントになってる。

ジッとこっちを見ていたウサギは、そのままピョコンピョコンと俺達の方へむかってきた。


「めずらしいよボクだって初めて見た希少種だよ。ピョコピョコ動いてるけど、本当はめっちゃ動き早いし魔法も撃てるんだよ。臆病で人には慣れないから生息地にいっても滅多に見ることができないんだよこの子」


早口だなあ。珍しいし可愛いしで大興奮なんだよね。


「どうしたんだろうね、なんだろうね?」


なんてとぼけて言ってみるけど。

ウサギは迷うことなく俺の前まで来て、抱き上げてほしげに俺を見上げるのだった。

うーん、オッケーなヤツ?


《大丈夫じゃない?ピンクウサギは精霊ちゃんたちとも仲良しだから。うちの神官に言われて迎えに来たに違いないもの。そうでなきゃ人前なんかに出てくる子じゃないし》


俺が優しく抱き上げるとびっくりしてバタバタしたけど、そのまま俺の胸におさまった。

うわー毛がフワフワしてるし大人しい。かわいい。


「え?どういうこと?なんだかすごく羨ましいんだけど。ってかボクは?ねえ、ボクは?」


駄々っ子キャサリンが始まっちゃった。


《キャサリンちゃんは大丈夫だと思うわ。妖精の子が守りについてるから私の関係者だってわかるもの》


見るとウサギちゃんもフンフンとうなずいているみたい。

キャサリンも興味があるように見えるけど、それより髪の間から顔を出してる妖精ちゃんに興味あるようだ。


わいわいとメンバーが集まって来る。なかではとくにザハトルテさんの目が熱い。


「ええとキャサリンは大丈夫らしいですけど他の人は無理らしいです。はいキャサリン優しくしてあげてね?」


ピョン、と俺の胸元を蹴って飛ぶと、そのままキャサリンの胸に抱きしめられた。

そこは俺の場所なのに。


「か、か、か、かわゆるるるる・・・」


そのままウサギちゃんの頭にオデコをひっつけて、毛並みを感じてるのがちょっとうらやましいぞ。

ウサギちゃんがキャサリンじゃなくて後ろから顔を出した精霊ちゃんとあいさつを交わしてたのが冷静だけど。


「あの、わたくしはダメですかね?」

やはりザハトルテさん。気持ちはわかるけどね可愛らしいから。


「ウサギちゃん、どう?」

真っ黒なお目目。お鼻がフンフンいっててかわいい。


「・・・・・」

ウサギちゃんは、キャサリンの腕の中からピョンと飛び降りると


バンバンバンッ!


後ろ足で何度も地面を踏み鳴らした。

《ダメね》

「ダメだそうです」

《お怒りね》

「お怒りですね。二度と言わないでください」


ショボンとする男に興味はねーぞ。


それにしてもエルフの宝剣から伝わるウサギちゃんの意志を翻訳していく俺?なんだか面倒くさいぞ。


「なあ、俺はウサギちゃんと直接話せねえの?」

《だってあなたはウサギちゃんと契約してるわけでも守護関係があるわけじゃないしね》

「そりゃそうだけどなあ。おまえがいれば困ることはねえけど」


「おっとっと」

ピョーン、とウサギちゃんがジャンプして、スッポリと俺の腕におさまった。

俺の目をみあげてお鼻がフンフン言っている。


《『いいわよ?私って結構尽くすタイプなの。そう言ってくれるのを待ってたのよ』だそうよ。要は従魔契約の誘いだろうけど、やめとく?》


エルフの女王。結構適当で自分勝手なコイツがそれとなく否定するんだから、推して知るべしだけど。

ちょっぴりキルリスとギンさんやロボの関係がいいなあって思ってたり、でもそんな縁ってどうやって生まれるんだろうって不思議だったりしたんだ。


「いや俺はいいんだけど、そんな簡単に契約なんかしてこのウサギちゃんになんか得があんのかよ?」


《あんたと縁が結ばれるわ。あなたからの庇護対象になれるからウサギには得しかないわね。なんとなくユーリがこの森でも強者なのは魔力から感じるだろうし私のパートナーってだけでこの森なら上位者だし》


キルリスにはロボもギンさんもいる。

俺も少しくらいモフモフしたい。

きっとこのウサギちゃんもギンさんみたいに俺を支えてくれる?


「そうだな。じゃあお互いお試しってことで結んでみる?」

フンフンとうなずいて丸いシッポをフリフリしてるの可愛い。どうやらOKらしい。


<従魔契約>


パアッと光が広がるとウサギちゃんの思いがスルスルと流れてくる。


始めての従魔契約だ。

お互いの額に契約印が光りウサギちゃんの気持ちがつながってくる。

小さな愛らしい生き物との優しさに包まれたふれあいの時間が始まる・・・


"ヨッシャあああラッキー!!神格クラスの契約主ゲットオオオオオオオオッ!!!!"


"安全安心、お腹いっぱい、将来は玉の輿いいいぃぃぃ!!!!"


"最強の将来性の塊ぃぃぃ、ずうぇったい逃がさなわよおおおぉぉぉっっ!!!"


・・・・。



そりゃあね。

小さいし愛らしいからって頭の中まで見た目通りなわけないよ。

わかってますから。


俺はウサギちゃんの首根っこを掴んでひょいっと目線まで顔を近づけた。

「ウサギちゃん考えてること全部俺に流れこんでるんだけど」


"・・・ヘッ?"


ハテナ?と可愛らしく首をかしげられてもなあ。


キリ番です

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