第15話 王立図書館へ
「ボクのことは置いておこうか。キミはどうしたいのかな?」
このしつこい話題はまだ終わらなかった。
どうしても本音が聞きたいようだ。
「まあソコソコ、中の上くらい?で受かれば一番だけど。入学早々から勝手に期待されるのもいやだし。でもバカにされるのも好きじゃない」
「魔法師団には興味がないって感じかな?それとも目立ちたくない?」
「両方だよ。まあまあ、くらいがいいんだよ、まあまあ、くらいが。」
「まあまあ、ね。じゃあもっと聞いてもいいかい?」
「答えられることなら答えるけど」
「なんで魔法学院に入ろうと思ったんだい?魔法師団に入って魔法を極めるとか、国の中枢にかかわる仕事をしたいとか。そうじゃなくても単純に将来出世したいとか。そんな理由ならなるべく上位の成績をとりたいところだと思うけど」
「あんまりそういうのはないかなあ」
「そうじゃなかったら、魔法学院を卒業したっていうブランドが欲しいの?もちろん平民が立身出世するのには魔法学院卒って使えるアイコンだけどキミに必要かな?」
なにせ侯爵家で宰相の長男だからブランドだけは売るほどある。
「そりゃそうだわな」
「むしろ2属性持ちのくせに成績平均以下とかだと能力疑われちゃうかもよ」
この人が言ってることはわかるつもり。
そして多分、正しいことばっかりなんだろうけど。
何だかすごく面倒になってきたぞ。
学校ってそういうもんだったっけ?
俺の中じゃ昼飯食いに行ってた場所でしかなかったのに。
「いいじゃない。俺にも考えがあるんだから」
「もちろんそれはキミの人生だからご要望にお応えするのがボクの仕事さ。キミのやる気と目指す目標がわかったよ。今日は次があるからまた来るね。今度くるときはキミの実力を見せてもらうよ」
じゃあまたね、とあっさり家庭教師の候補さんは帰っていった。
なんなんだよ。
『彼女の言う通りにしておけば受験には合格するでしょうね』
「なんでそうなるんだ?アイツ優秀なのか?」
彼女がいなくなったら早速ナビゲータの声が頭に響いた。
どうせコイツに秘密なんてできないからもういいけど。
『優秀すぎるのかもしれません。さて、それは置いて今日も魔法発動の訓練を始めましょう。風魔法は使い勝手がよくて奥も深い魔法ですから。いくら訓練しても損はありませんよ』
体内の魔力を操作する感覚には随分慣れてきた。基礎の鍛錬は自分でやるのが日課で最近は魔法の発動に関して教えてもらいはじめたところだ。
先を学んで自分で考える余裕を持ちたい。ギリギリは避けたい。
『それでははじめに』
俺はいつも通りに人気のない林の中で精神を集中する。
「おう」
『まず風の色を思い浮かべてください』
・・・はあ?
バカかこいつ?
以前に色がどうの言っていたのは、あれはわかりやすい例だって自分で言っていたくせに。
「風に色はない!」
『でしたら風とは何ですか?』
ぐっ。
い、いろと関係あんのかよ。
風は風だろ。
ソヨソヨとか、サワサワとか、ゴー、とか。
『〇カにつける薬がないのを忘れていました』
おい、ちょっとオマエ出てこい。
そして殴らせろ。
『そうですか。では、風と土について調べてください。ついでに火と水も』
「な、なにを調べろっつーんだよ。言ってることがわかんねーんだよ、ついでってなんだよ」
これって課題?宿題?ってヤツか?
俺そんなのやったことないんだけど。
『期限は「家庭教師の授業でその話が出るまでに」です。とくに風と土ですね』
王宮からほど近い場所に王立の図書館がある。
ちなみに宰相であるエストラント侯爵邸も街の重要地域、王宮からほど近い場所にある。図書館はお散歩にもならないご近所さんだ。
王立図書館。
セバスに聞くと貴族かその子弟であれば誰でも入れるらしい。
貴族なら、ね。
俺も貴族の子弟だ利用できるなら使わない手はない。
それに図書館は前世から縁がある。
タダだしエアコンきいてる。本があって暇つぶしができる。トイレットペーパー付のきれいなトイレ。
本をよんでりゃ知らないこともわかるし、じっとしていれば腹もそんなには減らない。
さっそく行ってみると前世の図書館の記憶とは全く違うものだった。
バカでかくてなんだか高そうな飾りのついた部屋。
丁寧な態度で接してくれる係の人。
パイプ椅子じゃなくてソファー。
奥まで見通せないほどの本棚が、受付のカウンターの奥に延々と遠くまで続いている。
本を取るのに入っていいんかコレ?カウンターのハジから奥へ入ろうとすると止められた。
「お好みの本をおっしゃっていただければ、私どもがご用意させていただきます」
別の係の人にソファーへ案内されて飲み物を確認される。
無料ドリンク付き。
はあ?
これが図書館?
どこかのホテルとか貴族の屋敷じゃないのこれ。
俺は、風と土と火と水に関して、要は自然の現象や科学について記されたある本をお願いした。
司書さんは「うーん」とうなっていたので、気づいてすぐに付け足す。
「魔法の4元素のことをもっと知りたくて」
前提条件大事。
お姉さん大分わかってくれたみたいだけど、まだ頬に手をあてて考えてるみたいだった。
「どうしたのでしょうか?そんな本は無いの?」
「いえ、そうではないのですが。関連する書籍を集めると100冊くらいになりそうなので。もう少し絞れるとよいのですが・・」
司書のお姉さんの顔にはこれより絞るの無理だよね、まだ小さいもんね、と書いてあった。
「じゃあ、自然科学の分野で4元素の定義をわかりやすく説明している本はありますか?入門編みたいに初心者でもとっつきやすいのがいいです」
お姉さんはえっ?て顔を一瞬したけど、すぐに余裕のある笑顔を取り繕った。
「はい、それでしたら3冊程度に絞られると思います。すぐにお持ちしますのでおかけになってお待ちください」
それから夕方までかけて、1番分かりやすそうな本を読んだ。けど10ページも進まなかった。
閉館になって本を返すとお姉さんに「どうでしたか?」と聞かれたので、続きをまた読みにきますと話しておいた。
「それなら次に来られた際にすぐに出せるよう準備しておきますね」
お姉さんがすごいのか図書館がサービス業なのか両方かな。
貴族相手だからそんなもんなのか?
俺の知っている図書館とは大違いだ。
『ニッポンにこんな図書館があったら、前世のあなたが入れてもらえることはなかったでしょうね』
てめえ、なんだいきなり。
それでもあの頃を思い返してみると。
ああ、そうかもな。
イヤなことを思い出させるヤツだ。