第145話 短剣でもクシャミはします
「お告げがありました」
オオオオオッ!
美しい大木の前に集まっているのは美男美女。
天高くのびた大樹からは幾重にも枝が分かれ豊かに繫っている。
ワサワサと盛り上がる新緑の緑からは、美しいエメラルドの小さな光珠が何千何万とあふれ出していた。
集まった存在は猛烈な美形揃い。耳がピンととがって長いがそれ以外は人族とは変わらない。
ゆるりとした光沢のある生地の衣服をまとい、どこの国の言葉でもない会話がいきかう。
静寂、そして輝く水晶。
集まる群衆に高位の神官からお告げが下る瞬間だ。
「我らの女王が近いうちに帰還されると申された!」
オオオオオオッッッッ!!!!
地面が揺れたかと思えるほどの歓声があがり、暗闇の中でエルフの聖樹はエメラルドに光り輝いた。
神官が御立台からゆっくりと降りてもエルフたちの興奮はさめることはない。
エルフが、妖精たちが、エルフ王国の全ての木々や自然が。女王の帰還を告げる予言に歓声を上げ続けた。
《ヘックチンっ!!》
その音が響いてしばらくは誰も口を開かない静かな時間が流れた。
「・・・・」
てんてんてんの間が聞いた者すべての気持ちを代弁する。
「なあ?」
ピクンとふるえてクシャミらしきものをした短剣。
エルフ女王の聖剣ということになっているが、女王様のクシャミがヘックチンッでいいのか?という疑問はおいといて。
ヘクチン、ではなくヘックチンッ。
小さいッが二つもついている、つまりもう自分で勢いつけて思いっきりくしゃみった。これはお上品なのか、女王としてありなのか?
《な、なによ!?文句でもあんの!?》
文句?いや聞きたいことはあるけど。
「風邪でもひいたのか?それとも鼻がくすぐったかったとか・・・?」
こいつ短剣。
あるはずもない鼻のことを訪ねているのは、湾曲に「おまえクシャミできるの?」と聞いているのだ。
なにせ相手はエフル女王が宿る宝剣だ。
装飾のついた短剣なんだから折れもするし手入れが足りなければ錆びるだろう。
しかし風邪をひくことはない、だいたい鼻なぞどこにもついていない。
《バカね!これはアレよアレ。誰かが私の噂をしてるってヤツよ!!》
「・・・そうか」
何故だろう敗北感。
「俺達が行くとエルフに攻撃とかされんのか?」
大自然と妖精の力による独自の魔法分化が発展したエルフの王国。
エルフたちは平和と自然そして神の摂理を愛している。
ことになっている。
《ほかのヤツラは知らないけど私たちは大丈夫よ》
「なんで?おまえがいるからか?」
《まあ結局はそういうことなんだけど。ちゃんと里にも近いうちに帰るって伝言しておいたから》
伝言?どうやって?それに今の姿ってエルフたちは知ってるのかよ?
「でもおまえ今は剣なんだろ?むちゃくちゃな誤解されそうな気がするし、まずおまえのこと憶えてるヤツなんているのかよ」
《へ?なんで?》
「だっておまえ、500年だか1000年前のエルフの女王だったんだろ?今となっちゃ誰も知らねーとか。だいたい剣だから姿ないし」
《あーーそういう。所詮人間ねあなたも》
あきれたような声。
俺の胸には、ヤレヤレ物を知らない困ったちゃんはこれだから、という上から目線の思考が突き刺さる。
エルフの国のルールなんてわからないけど女王なんてどこも一緒では?
「実は女王じゃなかったとか嘘ついてたとか?」
影で牛耳っていた自称「裏の帝王」とかそういう意味での女王か?べつに『勝手に自称してた女王』でもいいけど俺には。でも教えとけよ?
《そうじゃなくって。その頃も女王だったし今だってそうだってことよ》
「なんだって?」
《今でもエルフ王国の重要事項は私がお告げして国の巫女に伝えて仕切らせてるから。これでも結構忙しいし》
いやいや。
気にいらないことがあると電気バチバチしてるだけかと思ったのに。
それにお告げって、なんかちょっと神様っぽい?
《というわけ。エルフたちには私達一行のことは伝えておくから大丈夫よ心配しなくていいわ》




