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第14話 家庭教師

嬉しいことが一つ、面倒なことが二つ。


嬉しいことは希望通りに魔力学院へと進学してよいと許可がでたことだ。

面倒なことはそのために試験があること。


試験?

この俺が?聞いてないぞ?


試験は魔法の実技に学科に面接。


実技は問題ないはずだけど学科?お勉強を?魔法と剣の異世界でやれ、と?

お受験社会の前世ニッポンでも縁がなかったのに?


面倒なのことがもう一つある。

試験まで家庭教師がくるらしい。

昨日の今日なのに父親はさっさと目星をつけて、声までかけてあるとのこと。

さすがに宰相は仕事が早い。

家庭教師なんていらないだろ俺にはナビゲーターがいるんだから。


『ワタシが教えられるのは世界の真実だけですよ?あなたに伝える魔法理論の真理は千年後の人間でも到達できません。今世の出題者に理解できない理屈を解答しても正解にはならないでしょう。学問も同様です』

あっさり否定された。




「始めましてキャサリン・ベッシリーニです。よろしくね?」


家庭教師として紹介された女性は、多分十代後半くらいの若くて知的なヒトだった。

黒縁メガネのせいでそう思ったのかもしれない。

貴族の家庭教師になるようなヤツは、もっと威張りちらかすオッサンかと思っていた。

「伝統が」とかいいながら態度でかくて口ひげがピンとはねてるようなヤツ。


「私も魔法学院の卒業生なの。傾向と対策はバッチリまかせてね」


気さくな感じで笑う人だった。

御貴族っぽくもなく、俺が前世で知っているような教師っぽさもなくてホッとできた。


侯爵邸の敷地は広い。

二人で林の遊歩道を歩きながらポツポツと受験の話をする。


「あなたの魔力検査の記録を見させてもらったけどよかったかな?」


「ええ、家庭教師するのには必要でしょうから」


「ならいいんだけど」


大きく口をあけてアハハと笑う表情は、貴族の娘さんというよりは下町のお姉さんっぽかった。

俺のステイタスなんて大したものじゃないのに。

ウソッパチの記録だからな。


風と土の2属性、レベル1。

2属性持ちという点で将来有望な若者、だけどそんなのはこの先どうなるかわかったもんじゃない。

伸ばしていけば土木工事とか、そっち方面でちょっと便利な感じ。

侯爵家の息子が建築現場入りするわけにもいかないだろうから立場では持て余す元素持ちだ。


「試験は受かりますかね?」


学院を卒業した人からみたら俺はどうなんだろうか?

俺としてはなるべく手間をかけずにいい感じに合格したい。

面倒くさくない感じでほどよく羨ましがられて。でもまあそんなもんか、大したことないなくらいの評価で。


「受かるでしょ?それだけ魔法の適性があるんだから」


当たり前のように合格を保証してくれて、なんでそんなことを聞くのかな?って不思議な感じでこちらを見られた。

「ここまで出来てて落ちる方が難しいよ。それよりどんな感じで受かりたいか聞かせてよ」


まるで俺を見透かすような口調だった。

だよね?と覗き込まれた大きな瞳は、何を知っているのかわからない。


「ダントツトップで主席入学したいとか?」


逆なんだけど。

俺の希望は目立たず騒がれず、でもナメられることなくマアマアな感じなのに。


「ギリギリ合格でもいいからなるべく楽して入りたい、とか?」

俺の顔が大層ひどかったのか今度は真逆を質問してきた。

無駄な勉強を最小限にできるならアリだけど。


「合格発表は名前張り出されるよ」


「はあ」


「入試得点の順位で上からね」


「はあ?」


「だから、ドンケツで合格したら一番下に名前出るよ」


「はああああ!!!!?????」


なんだそれは。

それならギリギリ合格ってわけにいかないじゃねえか!


「クラス分けもその順番だよ。だから学園ステータス保ちたかったらソレナリで入った方がいいよ」


「なんかひどくないかそれ?合格して喜んだ瞬間にランク付けされんのかよ」


「どうして?平等じゃない。自分の能力だけで相手を認めさせることができるんだよ。こんな楽はなかなかないよ?」


うーん、そう、なのか?

世の中では実力があるから認められるような簡単なもんじゃないのはわかる。

そんな簡単な話じゃない。それを認められるチャンスが必要だ。

だったら試験でいい点とれば認められるのは公平?

それでも受験環境は平等じゃねーから、これもやっぱり金とかの話か?


貧乏人が誰からも教わることができなくて、でも死ぬ気で勉強して合格したら一番下だったらどうなんだ?

すごい努力と才能、でもヒエラルキーの一番下。

這い上がれる可能性はめちゃくちゃ高いのかもしれないけど。


「ボク的には魔法師団への入団を狙ってる人以外に順番はあんまり関係ないかなーって思うよ。ドンケツで入っても受けられる授業の内容は同じだし」


「それならいいじゃない。楽して入れるならアリだよ。ドベからだって頑張るヤツは魔法師団に入れるだろ?」


「そうかもね?そんな人は見たことないけど。じゃあキミはどうしたいのかな?」


よく考えたらヘンな話だ。

受験に受かるために呼んだ家庭教師のハズなのに、なんかもう受かること決まってて、どのくらいの順位で受かるかの話ばっかりしている。


「あのさあ家庭教師さん。俺って受かるかどうかもわからないのに何を聞きたいか意味がわからないんだけど。それとも2属性持ってたら合格確定になったりする?」


「2属性持っていても合格確定にはならないよ、でも2属性持っていて落ちた人もいないよ」


また新しい話だ。どういうこと?


「じゃあ、俺は何も準備しなくても受かるってこと?」


「違う違う。2属性持ちってことは2属性の魔法が使えるだけじゃなくて、魔力も1属性しかない人たちより多いし魔力操作にも慣れていることが多いの。もともとの土台が有利なのね」


「それはわかるけど」


「これまで学院の歴史上で2属性持ちの落ちた人がいないから。有利なのに落ちるってどれだけ怠けたか頭悪いか、それとも家が貧しくて碌に受験できる環境ではなかったか」


有利なのに落ちてしまったらあとは本人の努力不足か家庭の事情か。そういうことか。


「だからね。2属性持っていても合格できそうにないなら、ボクなら初めから受験しないことを進めるよ。そして受験するからには絶対に落ちるわけにもいかない。『2属性持ちなくせに学校創立以来初めて魔法学院に落ちた家系』として本人もその家柄まで貴族社会で話題沸騰だよ!」


「あれ?俺なんかプレッシャーかけられてない?」


気付いた俺にキャサリンさんが微笑んでくれる。

真顔になったり笑ったりクルクルと表情が変わるヒト。


「そうだよ。少なくともキミが落ちたらエストラント侯爵家はろくに受験勉強もさせられなかったという話になるか、キミがボンクラでどうしようもなかったという話になるね」


俺は気づいたことを意地悪く口に出してみた。


「それか家庭教師がよっぽど悪かったか」


家庭教師候補のキャサリンさんはブフッと噴出して笑って頭をかいた。


「その通り!!だから受験するからはキミに落ちてもらうワケにはいかないよ!!!ボクのためにもね!!!」


キャサリンさん登場しました。GW中に第一話へつながります。

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