第135話 家族会議
ここはベッシリーニ邸。
リビングのソファで5人と他いろいろが集まった。
キルリス、マーサさん、キャサリン。ジョバン。そして俺。
でもこれまでのメンバーだけじゃなくて。ギンさんが俺のお膝で丸くなり、部屋の端では真っ白い山のようなロボが座って大人しくしている。
あと俺の頭の中ではカールスバーグのロットも勝手に口を出すこともあるから、俺ってばホントよくやってると勝手に思っている。
ナビゲーター先生のお言葉は久しく聞いてない。それは宝剣に宿るエルフの女王も同じ。
人間社会のことには完全にノー・タッチを貫いてる。
「ということがあったんだ。場合によってはいろいろと面倒なことになりそうだ」
キルリスが今日あったことを流れに沿って説明。
「ユーリお前は手が早すぎ。宮廷の中ではうまくやるもんなんだろ?どんな罠がくるかわからなけりゃ俺でも同じように動くけど」
ジョバンは相変わらず適当だ。どっちなんだよって矛盾したことを平気で言う。
それっぽいこと言ってみただけなんだろうけど。
それでもジョバンの感覚は俺に近い。
危険は察知したら先制して即時対応。そうしなければ危険地帯では生き残れない。
「殺してないならいいじゃねえか、なんて思うけどな。王宮では通じないんだろ?」
だから俺はあそこは関わりたくねえんだ、とジョバンは投げ出した。
ジョバンは東への対策でココに来てもらっているから王宮内のトラブルについては部外者だ。
そのくせイチイチ口を出すのは俺のことをフォローしてくれてるんだと思う。
俺の師匠ってことになってるし。
「ユーリはどうなの?このまま王都にいるのがイヤだったらボクは別にどこに行ってもいいけど。せっかく声をかけてくれたからタペストリー侯爵のところに行ってみてもいいね。なんなら二人で冒険者やろうか?ボクは見てみたい場所も景色もいっぱいあるし、ボク達ならお金に困ることなんてないよ」
キャサリンが言ってくれる言葉にいつも背中があったかくなる。
思った通りにやってみなよ、って気持ちのつまった手が俺の背中にそえられてる。
聞いたマーサさんがニンマリ。
「あらそれなら私も一緒にいくわよ?ユーリと一緒ならS級クラスの魔獣も討伐できるわ。とりあえず3匹も狩っちゃえば今くらいの生活は死ぬまで大丈夫よ?」
そこにジョバンが焦って口出し。
「おいおい?おいしい話するなら俺もかませろよ。だいたい俺とユーリがパーティなんだからな?」
何だかワチャワチャしてきたなあ。
「あら私もユーリとパーティよ?この前の討伐で登録しちゃったもの」
「じゃあボクも登録しないと。冒険者ランクは師団での等級をそのまま冒険者ランクにあててくれるから。ボクだけA級になっちゃうから早くS級にあがらないと」
みんな勝手を言い始めてワイワイと話しが進んでいく。
もうそれでいいんじゃねえか?
今回のことが終わってもこの国にいる限り同じような話になるだろうし、それならさっさとトンズラこいた方が気が楽だ。
確かに東はやっかいだけど西が安全じゃない。
歴史があって繁栄している最強国家、それって世界中で一番に貴族たちが暗躍している国だ。余裕があるから富をかすめとろうとするヤツがいる。一番面倒くさい国。
みんなの楽しそうな話を難しい顔で聞いていた男が目を見開いた。
「ちょっと待て?いいから待て」
キルリスだ。ビシリッと手をあげて話を留める。
出たな常識人め。
あんたの立場はわかるけど。
このメンバーならこの流れは当然だよなあ。
「パパはそういかねえな?なんかあったら呼べよ?今回の借りはでけえからいつでも手伝うよ」
「いいから待て」
「なんならおまえもいいだろ?後任に引き継いで一緒にこいよ。それとも貴族の爵位がおしいか?」
「バカヤロウ!!いいからダマレ!!!!」
あ。
切れた。
なんか食わせれば落ち着くか?
俺がガリクソン商会と開発したハンバーガーを差し出すと、キルリスが俺の指にかぶりつくようにガブリガブリとかみついた。
咀嚼している間はしゃべらないマナーだから貴族をだまらせるのに手っ取り早い。
あと半分くらいは俺のせいだけど、キルリスが夜遅くまで仕事をすることが多いので、たまにコレを差し入れてるのだ。気にいってくれてるらしい。
どうせならタペストリーさんとこでレストランとか開いてみるか?
ガリクソン商会と提携しちゃえば腕のいい料理人もノウハウも物流も確保できそうだし、侯爵にお墨付きもらっちまえば好き勝手できるぞ。
それで手があいてるヤツがローテーションで冒険者やって魔物を狩ったり野草や果実を採取したりして。それを店で出せばその分は原材料費無料、原価ゼロだ!
商売人の頭が計算していく。
楽しそうだなぁ。そういうところで頼りになりそうなのってマーサさんかな?
丁寧上品なくせに客あしらいだってお手の物だし。
なにせ腹黒い貴族相手だろうと荒れくれ冒険者だろうとあしらっちゃうから。
資金は自分で用意もできそうだけど、ガリクソン社長の銀行にも声をかけて、と。
その前にガリクソン社長にアポとって相談だな、まずは明日魔法学院で教授室を訪ねてみようか。
俺が夢をふくらませている間にキルリスが食べ終わったんだろう。
口元を布巾で整えるとあらためて俺の方を向いた。
「ここにいるのは王国内でも有名人だらけだ!全員で王国からバックレて冒険者なんて更にやっかいなことになるしかないだろう!!」
「そうはいうけどなあ」
それは王国としての話だろう。さすがに東に行くわけにはいかなくても、北か南かいってみるか?
他国の情勢ならジョバンがわかってるからヒトクチかませて。
俺達ならどこにいってもやっていけるぜ?
「家族が行くなら俺も行くに決まってるんだがな!その前にやることはやって周囲も自分も納得してからのことだ!!今すぐにそんな動きをしたら逆に宮廷から妙に疑われて面倒な話になるだろう!下手すりゃ俺達全員が手配されるぞ!」
ホント面倒だよなあ。
騒ぐのって俺のことを利用しようってヤツかロクに知らないヤツラだろ?
そんなヤツラ消えていなくなって欲しいけど。
レーザー・ショットで眉間を撃ち抜くのもちょっとなあ。
闇魔法で操っちまうか?ダメな気がするしそれも面倒くさいなあ。
「そりゃそうかもしんねえけどなあ。キチンとやればかえって面倒になりそうな雰囲気あるぞ?口うるさい相手の土俵に乗っちまうっていうか。これ以上深みにはまると嫌な目にしか合わない気がしないか?」
「いいからまずは第二王子の件だ!やるだけやってそれで揉めるようならその時考えりゃいい話だろ。面倒なことが多い王宮だが、それでも国の為に命をかけて業務を遂行しているヤツラがいる。後ろ足で砂をかけるようなことはしたくないんだよ!」
責任ってやつか?
そりゃあんたが面倒みてきたヤツラだっているんだろうし。
想像だけど。
「王様もシャルロットもいるしガイゼル総司令には世話になってるしジンもいいヤツだ。軍のやつらっていい奴が多いのは知ってるよ」
「そんだけおまえも現場寄りっつーことだろ?命張ってるヤツとそうじゃないヤツはやっぱり違うもんだ」
ジョバンは本当に王宮だとか貴族の闘争だとかが大嫌いだ。
面倒くさがりだし、おおざっぱだし・・・よく言えばおおらか、か。
でも俺もコイツも根っこにあるのは多分ソコだ。口だけでゴチャゴチャ言ってるヤツラなんて相手にするだけ時間のムダ。現場では今日も自分の命と引き換えに譲れない魂を秤にかけてるんだ。
派閥とかお貴族様社会とか、そういうのにかかずりあうなんてムダ。
俺にはクソ貴族たちなんかよりは東のエージェントの隊長の方がやってることがわかる。
自分の信念と責任感を必死にこなしてる。
もちろん俺に対して言ったことなんかは、いろんな計算や読みや策略があって狙いがあるのだってわかるけど。でも自分の命を張ってやろうとしてるヤツの方がわかる。
東のヤツラだって俺とおんなじ舞台に立っている。
観客じゃなくて命を懸けて本気でやりあう相手だ。
「第二王子はタペストリー領でのこと聞いてくるんだろ?なんて答えるんだよ?」
「私は王族に嘘はつけないからな。あったそのままの現象を伝えるしかない」
「俺がやったのかとか聞かれたら」
「おまえは好きにこたえればいいだろうが。知らないとトボけてもいいだろうし自分がやったでもいい。私に聞かれればそんなのわかりませんだ」
「好きにっていいのかよ・・?いや待てよ?むしろハッキリさせた方が早いか?」
そういえば俺はちょっかいかけてくるヤツラに圧倒的な力をみせて手出しさせないと思ってたのだった。
どのみちモメるならそれでいいのか?
「そうなればいろんな輩がお前を取り込もうとするだろうけどな。しかし中途半端なヤツラは手引くだろうからお前を見ているヤツラはハッキリする。そうすれば対抗するなり逃げだすなり手段を決められる」
だからまずはやるだけやるんだ、って気持ちはわかったよ。
なんだかんだ自分を秤にかけても家族を大切にしたいって言ってる。
一番面倒くさい立場にいるのはコイツなのになあ。
「ここにいる全員が別にどうなってもいいと考えてるんだから問題ない。ひとりになっても食い扶持に困るヤツはいないし、貴族の生活に未練があるヤツもいないからな」
わざわざ貴族に未練がないって言わなくても。俺が言ったことイチイチ気にすんなよな。
でもウチラって王国の最強家族なんじゃねえか?
だって何にもとらわれてないのだから。
金がなければ最初から選択肢がない。
でも金はあってもいろんなモノに縛られも選択肢は狭くなるんだな。
俺にはこの人たちがピッタリだから、いいよつきあうよ。
「しょうがねえ付き合うよ。俺としてはアイツにいろいろと教えてやるギリもない。好きに答えとくよ」