第134話 忠告
結局俺は首根っこを掴まれていつもの師団長室へと突っ込まれた。
俺達の様子を見てガイゼルも顔を出してくれる。
「すまねえ。本当に面倒なことになっちまったみたいだ」
「今回はしょうがない部分もある。お前ひとりであの部屋に戻さなくてよかったよ」
心底ホッとした顔のキルリス。
そこまで腹黒いヤツなのか?
「そしたらどうなっていたと思う?」
「殿下のおっさる通りに従えばそのまま拉致、反発するなら揉め事になって逮捕。逃げたら適当な罪状つけて指名手配されただろうな。前にも言ったがこの宮廷は伏魔殿だ」
「俺は第二王子なんて今まで直接会ったことも会話もしたことねえぞ。模範試合の時にいたのは知ってるけどそれも観客席にいたのをチラッと見ただけだしな。アイツ東とにぎってんのか?」
言った瞬間にベチンと頭をはたかれた。
マジメな顔で。
「うかつなことを言うな、ここはまだ王宮の敷地だぞ?防壁を張ってるが油断してると足を救われるんだ気をつけろこのサルっ!」
「おまっ・・・!!この野郎、アイツのまねしやがって!!」
なんだよピリピリしやがって。
食って掛かろうとした俺をガイゼルが止めてくれた。
半分は冗談だけど。半分だけな。
「悔しがるということは自覚もあるようだな。俺やキルリスは王宮内の揉め事にお前を関わらせるつもりはなかった。だが王国軍の手助けをしてくれたお前を守れずこうなってしまったのだから俺から詫びさせてもらう。これは俺の力の無さだ」
ガイゼルにそう言わせてはダメなんだ。
俺がタペストリー領へ行かせてくれと言ったのだから。
「俺が甘かったんだから司令官はそんなこと言わないでくれよ。これでもやりたいようにやってきたつもりだから」
「だからやりたいようにやるために王宮では弱みをみせらんないんだよ俺達は!お前にそこまでかぶせるつもりはなかったけどな!ここでやっていくにはサルじゃダメだってことだ!」
キルリスは頭がスパークして変な方向に走ってる。
それでもサルサルとうるさいぞ。
「お前またそれいうなこの野郎!いったいあの殿下さまは俺に何をさせたいんだよ!?」
今のキルリスに聞いてもムダだな。
ガイゼルに話を聞くことにする。
「考えられることは多い。だがどちらにしてもお前を配下においてうまく使おうというトコロだな。殿下は頭のまわる策略家だ、どう転んでも欲しい結果が手に入るように立ち回られる。今回も最低欲しい結果は手にされている」
「欲しい結果ってなんだよ?」
俺が聞くとガイゼルは話をそらすようにキルリスへと振り向いた。
「すまんが茶を出すよう声をかけてくれるか。おまえも一息ついてくるがいい」
「ああ。すまんが頼む」
何か気づいたように。話の途中だけどキルリスは扉をあけて出ていった。
「俺が謀略家だったとするなら先ほどの場でお前をキレさせるだろう。そしてお前を止めるようにキルリスに命令を出したはずだ」
「どういうことだよ?」
「お前が殿下に手をだしたら国家反逆罪だ、殿下の部下たちに手をだしても同じになる。そしてキルリスをお前の魔法で無効化しても、王族の命を受けた師団長に手向うから同じになる。捉えたお前を手ごまにできればよし、逃げたお前を反逆者とするなら第二王女は後ろ盾を失うからそれでもいい。第一王子の派閥はお前たちが追い詰めたから随分と弱体化している。内情を知るものならば王位継承争いは第二王子に傾いているのはわかっているだろう」
ポンポンと飛び掛かっていくのは相手の思うつぼだってキルリスは言いたかったんだろうけど。
あいつはサルサルとうるさい。ガイゼル司令官みたいにきちんと説明しやがれっての。
「危なかったんだな」
「そうだ。おそらく殿下も探りながらだったと思うが、キルリスがおまえを限界までかばったことで次善の策に切り替えたのだろうよ。俺やキルリスの立場ではよほど正当性を信じられなければ王族の言葉に反するのは難しいし、口にだしたら絶対に曲げることはできない。王族に対して間違ったならば簡単にクビが飛ぶからな」
「キルリスはそこまでの覚悟でやってくれた、それが伝わったから相手も引いたってことか」
ちぇっなんだよ。
サルサルうるさいから後でぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに。
それでもキルリスに手を出しやがったら俺が許さんけどね。
アイツにたてつくのは俺だけで十分だ。パパだし。
王族だろうが何かやりやがったらドタマをぶち抜いてやる。
「気負い過ぎずに感謝しておけばいいだろう。そのうちこういうことが起こると俺達は予想していたしな」
「そうなのか?そうなんだろうなあ」
昔の俺が考えたことはやっぱり現実になっていく。
神様から与えられた力を利用しようとするヤツが出てくる。
俺みたいなガキなんて宮廷の貴族たちは鍋をしょったカモだと思ってるんだろう。
でも今の俺はあのころとは違う。
「第一王子は貴族や大商人の派閥を作り上げて表面上は権勢を保っている。それに対して第二王子は独自の派閥や武力そしてネットワークを蓄えているが目立つほどの規模ではない」
第一王子のまわりは下衆な貴族たちが相変わらずうろついている。
権力の話、金の話。俺の嫌いな話ばかり。
それに対してこれまで第二王子は目立たない印象だった。派閥としての結束は固そうだけど、金とか権力の匂いはしない。どちらかといえばひとつの部隊みたいな集団に見える。
「おそらく故意にそうしむけてるはずだ。数こそ劣っても質では圧倒的に第一王子の派閥を超えている。独自の情報網、独自の親衛隊、独自の流通経路、他国との外交。目立たぬように着々と力をつけているのは第二王子だ」
本気で王位継承の準備をしている。
自分が完全に操れる部隊を作り上げようとしている。
「司令官は第二王子と東のつながりはどう思いますか?」
「何とも言えん。だが東から第二王子の派閥に全く接触してきていないとも考え辛い。殿下のことだ、それを含めてうまく活用してやろうとは思っているだろうな」
考えれば考えるほど、教えて貰えばもらうほどアイツは胡散臭い。
そしてこの国は面倒くさい。
多分俺はうげえって顔をしてたんだろう。
「この国がいやになったか?」
真摯な瞳で俺を見るガイゼル総司令官は、俺がそのまま「いやになりました」と言っても否定はしない人だ。
「とりあえず総司令もキルリスもいてくれるし。やれるだけやってみますよ」
「ああそうしてくれ。お前が他国に亡命して活躍するならば、俺はお前にどうやって勝つか頭をヒネらねばならん。考えたくもないな」
冗談でいいんだよな?
難しい腹芸はやめてくださいよ?
「なに半分は本気だ。そしておまえがいなければシャルロット王女には残念なことに女王となる目は無くなるだろう」
今の王位継承権ではシャルロットが一番に思える。
頭もきれるし公平で人を引っ張る力も惹きつける力もある。私利私欲なんかで動かない。あいつを動かすのはこの国の未来のためだ。この国のために身を捧げる想いと強い精神力もある。
「シャルロット王女は聡明で正しく王道を歩まれているがそれだけの存在だった。お前がいないならもとに戻るだけだろう。ただ王女のガーディアンであり相談役であるお前はその事実を知っておいていた方がいいと思ったから語ったのだ」