第132話 呼び出され
王女と面会が終わって部屋の扉を閉めたその瞬間。
俺の後ろに気配なく近づく影。
隠形術にしても随分とレベルが高い。
こちらが気づいていることは織り込み済みなんだろう。
「驚かせてすみません。よろしければこちらへ」
小さくて他には聞こえない声。
「大丈夫ですよ驚いていませんし。どちらさまですか?」
害意を感じた瞬間に消えてもらうことになるけど。
その男と二人でその場から離れると、影になっている部屋に滑り込んだ。
「ユーリ・エストラントさんですよね?」
うーん。
どうやらコイツは死にたいのかな?
俺の質問には答えず名乗らないくせにコッチの確認はするわけだ。
<力の顕現>
<光鎖>
一瞬で影男の首に魔法の鎖が巻き付く。
俺がぐっと腕を上げると、影男の首にまきついた細い光の鎖がグイッとしまる。
「??ぐっ?」
取ろうとしても無駄だ。光の鎖は人間の手ではほどけない。
首と光鎖の間に魔力でも通していれば別だけど。
それでも俺より魔力量がなければほどけないから結局人間では無理だ。
「名乗らない怪しい人にはついていくなって習ったもので」
気絶させてキルリスのところに引ったてよう。
光の鎖へ力を籠めると影男は声も出せずにバタバタと必死にもがいて暴れている。
ついでにスタンプもおしておこう。こいつの魔力体に俺の魔力を釣り針のようにひっかけておく。
どこかに逃げようとも俺の魔力がつながる。そうなればどこへ行こうと俺の手のひらの内を走り回っているだけ。
ぐっと魔力導線を引き上げると男はガクンと崩れ落ちた。
もうちょっと耐性あるかと思ったのに。東のエージェントじゃないのか?
「我々は諜報部のものです。部下が失礼しました」
カーテンの影から本棚の影から。
常人では一切の気配を感じることない人影が何人も姿を現す。
「ちょうどよかったですよ?連れて帰るのも面倒だと思ってたので。東の方ですか?」
「もしそうだと言ったらどうなりますか?」
「そうですね」
俺は倒れている男を見下ろした。
「静かにしてもらえるなら捕縛します。頑張ろうとするなら瞬殺でしょうね」
<光の矢>
「っっっ!!」
端の男が必死に声を上げず耐えた。
目に見えないほど極細の光の矢で肩をつらぬいたのだから、苦痛への耐性を訓練しているのだろう。常人なら崩れ落ちてる。
「あなたたちはどういうつもりでしょう?相手がわかるまで私が撃てないとでも?それとも接近すれば広範囲魔法を撃てずに有利になるとでも思いましたか?」
誰も返事をしない。
会話にならないならしょうがない。全員「逮捕しちゃうぞ」コースだ。
相手の魔力が膨れ上がるのを観測、敵は集団での魔法を準備中。
騒ぎになる前にやっちまう。
<刻印スタンプ>
「がああああっ!!!」
残る目の前の二人。体内の魔力路がいっきにしぼられて体中で魔力が爆発させたら、白目をむいてそのまま倒れた。
「俺には敵か味方かなんてないですよ?味方以外が敵なんです憶えておいてくださいね、ってもう遅いですか」
3人も王宮を連れて歩けないよなあ。
全員スタンプ押してあるから逃げられるは心配ない。
まずはキルリスに話をつけておこう。
今日は魔法師団に詰めているはず。
面倒な話はすべてアイツが担当だ。
だってパパだもの。
10話ほどの短いパートに入ります。