第130話 王女様から問われると
「ついに来たわね私のところへ!」
シャルロットに連れられてイソイソとリビングへと案内される。
公務を行う上品で味気ない部屋じゃなくて、私的で品が良くて使う人の趣向が反映しているお部屋だ。
王宮の一室だけど要するにここはプライベート・ルームなのでは?
「この部屋は俺が入っちゃダメなやつじゃないか?だいたいシャルロットのことは王女様って呼んだ方がいいんだよな?ここ王宮だもんな」
さすがに王族のプライベートスペースに入るわけにはいかないだろ。
「大丈夫、ここはちょっとプライベートなお客様をお通しする場所だから。そしてあなたは私の客人だから言葉を気にする必要もないの。この部屋は王族が貴賓を個人的にもてなすためのスペースだもの」
いやいやそれでも俺なんて一介の学生?が入っていい部屋じゃないだろって。
国賓待遇の他国の王族とかそういう人のためのものでは。
高級な調度品とフカフカのソファ、毛皮の敷物、安楽椅子、キターやバイオリンが立てかけてあって、でかいピアノまである。
床も壁も木目を活かしたやさしいブラウンで統一されて、なんか貴族の別荘の一室?みたいな感じだ。
姫さんも外向きのドレスではなくて、材質はめちゃくちゃ高級なんだろうけど飾り気のないシンプルで少しだけ緩いドレス。
そっちの方が疲れないよな、普段は大変だなって思う。
「さあ教えてくださるかしら?」
そんな俺の心配は吹っ飛ばしてしまうのですねこの王女は。
俺って貴賓?
そういう扱いにしないとうまくないから何だかんだでこうなった、そんな感じでいいのか?
話が進まないから勝手にそう思うことにする。
「いろんなことがあったけど?とりあえず何を?」
俺が返事をすると、待ってましたとばかりに体を乗り出す王女。
近づいた顔からフワンとお花の良い香り。
迫ってくるのがちょっとお下品ですわよ?
「あなたがなぜこうなってるのかよ!!」
ババーンッ!って感じで鼻先を指さすけど何を聞きたいのかからわからん。
思い当たることが多すぎる。
姫さんと俺の話するのっていつ以来になるんだ?
何を知ってて何を言ったか何ヤラカシタカなんて覚えてない。
闇の魔導士から守った後からでよかったか。
それに姫さんが俺の状況をどこまで知ってるかもよくわからん。
何を前提にどこから話をすればよいのやら。
「何のことやら?何について話せばいいのかな?」
ムウッと膨れた顔されてもわからんものはわからん。
「全部よ全部!!いいから全部吐きなさい!!」
「全部ってオレのお尻にほくろが三つあるとか?そういうプライベートな話はちょっと言いずらいんだけど」
「バカ、バカ、バカ、このオバカさん!そういうのはいいのよ!トボけるならいいわ、私が聞くことに答えなさい!!」
「その方がいいな。俺も何しゃべっていいのかよくわかんねえし。学校はどうだ?クラスはうまくいってるか?」
話がすすみそうで落ち着いたようだ。
シャルロットもストンとソファに腰を下ろして語り始める。
「まあね、生意気だったヤツラも随分と大人しくなったし、随分と色々な方がこちらにすり寄ってきているわ。あなたの噂話は王宮でも社交界でもずっと話題の中心だし、そのあなたが私のバックについてくれることになったから。機を見るのがうまいやつらっているのよ?・・・って、私の話じゃないでしょ!あなたの話を聞きたいのよ!!」
気付いたようだな。
ふふふ。
これが話術というものだよ。
俺は普段から海千山千の年長者から鍛えられてるのだから。
「ああそれはわかった、俺も答えられる限り答えるよ。ところで俺の噂話ってなんなんだ?どんな話が出てるんだ?」
「私を助けてくれた話、ガイゼル将軍に模範試合で勝った話からお父様から王族に伝わる聖なる武具を下賜された話。ですけど東の帝国とつながっていた北の軍隊を壊滅させた話が最近はもちきりね。東と裏でつながりのある貴族たちは戦線恐縮としてるし。つながりのある貴族の下についていた御貴族様たちは潔白を証明しようと私の方へとすり寄ってきてる。あなたに痛い腹を探られたくないからでしょうけど」
「だいたいわかった。俺の予想から当たらずとも遠からずってとこだよなあ」
「あーーーー、もう!!だから、なんで私ばっかり話してるんですの!!いいかげんにはぐらかすのをやめるのですわ!!!」
くっくっく。
またもや気づいたね?
そうこのやり方はエンドレスなのだよ。
「しかし姫さん随分言葉遣いが変わったな。いい感じだと思うぞ?俺はそっちの方が好きだ」
聞いてムスリとした姫さん。
ガタリと立ち上がってテーブル越しだった俺の方へとツカツカと歩いてきた、と思ったらホッペを思いっきりひねり上げた。
痛たたた、痛いのよ。
「あなたねえ、そういう言い方よしなさい!!そういういこと言ってるとまたあなたにかどわかされた可哀そうな淑女が泣きをみるのですわよ!!」
叱られちゃった。
「俺が悪いの?」
「そうよ!全てあなたが悪いのですわ!反省なさい!!」
ううう。
姫さんが言うならそうなのか?
そう思うことにしておくべきなヤツだ。
「なんか強くなったっつーか、尻にしくっつーか」
ほっぺをひねり上げる手に更に力が・・・い、痛いって。
「あなた、言うにこと書いて王女たる私の、尻!ですって!!!」
「ああ悪りい悪りい。今ならこんくらいは許容範囲かと思ったんだけど悪かった」
「はんッ!私がお尻にしくのは将来の旦那様だけよ!あなたなんか目じゃないですわ!!」
うん。
なんか普通に話せて安心した。
しかし王女様があの「はんっ」て人を見下す表情するのはどうかと思うぞ?
随分とつよい娘にそだったわねえ嬉しいわよ
タペストリー侯爵的視点で。
「聞き分けの悪い護衛者に対する友情の証よ!!」
あーそうですか。