第128話 王様と王女と
「学生のお主に随分と世話になっておる。国を代表して礼を言うぞ」
さて俺はどういう立場で回答すればいいのだろうか。
「もったいないお言葉です。私は義父と婚約者のお手伝いをしただけです。今回は軍への動向許可をありがとうございます」
国王はフムとうなってからとソファに腰を下ろした。
「シャルロットや隣にお座り?お主らも座るがよいシュタインは頼むぞ」
「はっ」
国王から席をすすめられるというのはアリなのか?
俺はガイゼル総司令と顔を見合わせながら腰を下ろす。
シュタイン隊長は扉の前に陣取って直立不動となったから誰も入れる気はないらしい。
「なあユーリよ?少しお主の気持ちを聞かせてもらえぬだろうか。我は信頼関係を結びたい相手とは膝をまじえて語り合いたいし、そこで感じたことは誰から口を出それようと最も真実に近いものだと考えておる」
「はい、では私もそう考えます」
直接話をすればくだんねえ貴族達に内容をネジ曲げられる心配がない。
何かを吹き込もうとするヤツがいても直接俺と話した内容を優先してくれるってことか。
「そういえば下賜した短剣もロットも活躍しておるか?」
「おかげでピンチを救われました。言葉は悪いですがもう切っても切れない縁です。ありがとうございます」
王は両手を振って妨げた。
「礼はもうよい、会話が出るたびに礼をしていたら死ぬまで礼をせねばならんだろう。あやつらはワシの手元に来て本来渡るべき相手に渡った。これまでの縁があるから気にはしているが礼を言われるためではない」
俺の腰の短剣と内胸のロットのそれぞれの魔石がキラリンと光ったのを感じた。
見てたわけじゃないけどコイツらからそんなイメージが伝わる。礼を言ってくれみたいな。
「どちらも嬉しいようですよ、気にかけていただいて」
「わかるのか?」
王様は厳格な顔は崩さずに、でも少し嬉しそうにほほを緩めた。
今はもう<力の顕現>を使わなくてもコイツラとやりとりが出来るレベルになっちまった。
話しかけてこないのは王様と会話を邪魔しないよう気を使ってくれてるのだろう。
「わかりますとも。それくらいにはコイツラに慣れたつもりです」
「それは僥倖。ワシの娘にもその恩恵を分けてもらえることはできるかの?」
俺はちらりとシャルロットの方を見た。
目が合うとやさしく微笑んでくる。
これまでより体の内側から出てくる白銀の清らかな光が強くなってる。
少女から女性へと成長する一瞬の清らかな美しさが滲んでいる。
「私は姫の護衛者ガーデイアンですから」
「ふふふ。ありがとうございますユーリ」
うん、きれいになったなぁ。
すっかり落ち着いて。
むくれていた以前とは大違い。
「随分とお会いする機会が無かったので、本当に私の守護者のつもりがあるのかと訝しんでたところですよ?」
いやいや。辛辣さは変わってないか?
トゲがささったような?
「姫に何かあろうものならすっ飛んでまいりますよ」
「本当かしら。御婚約者やそのご家族ともお仲がよろしいようで、私のことなんて見向きもされていないかと思いましたわ?」
言った瞬間にシャルロットはハタと会話と止めてアワアワ手をふった。
「な、なんてことは考えておりませんわよ?ユーリもキャサリン教授もホントにお幸せになって欲しいと思ってるのよ、ホントよ?」
俺達の婚約を否定してしまう意味にもとれることに気付いて慌てて手を振る。
それを見た王様からも笑って頭を下げられたらもうどうすりゃいいの。
「ユーリが忙しく顔をみせないから少し拗ねてしまっただけだなのだろう。父としても今のは娘の名誉のために詫びておこう」
まだまだ完全な淑女は遠いようだけど、随分と王女様っぽくなってきた。もうちょいってところだとか、思ったら不敬だろうなあ。悪かったよ。
俺の中じゃ離れて会えなくてもダチはダチだってのがあるから、久しぶりとかあまり関係ない。そう考えるのは俺の勝手かな。
「こっちこそすみませんでした。シャルロット王女の安全はどこにいても見守ってるつもりなのですけどもう少し顔を出しますね?」
「そうしてもらえるとワシも嬉しいかの。来るときはワシにも一声かけておくれ?」
当たり前のように王様はおっしゃりますけど。そんなの無理です。王様のところに気軽に顔を出す学生なんてダメでしょう。
そんな感情が表情に出てたようだ。シャルロットがフォローを入れてくれた。
「じゃあユーリ?たまにワタシのところに来てあなたに起こってることを教えてくださらない?あなたが感じたことを私も知りたいの。さすがに私があなたと同じ体験をするのは無理でしょうから」
あらゆる面で俺と同じ体験は無理だけどそれはお互い様。俺は王女にはなれない。
「ならば私もシャルロット王女が体験したことや考えたことを教えてもらいましょう。それでおあいこでいかがですか?」
「いいですわね、うん、とてもいいですわ!!それでお願いしますわ!!」
フンスと息を吐くのは女王様的にお上品じゃないぞ。
ひとまずシャルロットとは明日また会う約束。王様に言われて彼女は退席した。
「すまぬがシャルロットのことをよろしく頼むぞ?」
「友人なので。こちらこそ気をつかってもらってすみません」
「しかし最強の友人じゃな。なにせ敵の兵士からも東のエージェントからも神扱いされる魔導士じゃからの?」
シャルロットが退席した瞬間に本題がぶっこまれた。