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第124話 脱タペストリー領

「ユーリちゃん、キャサリンちゃん。あなた達のおかげで助かったわ?わたしはタペストリー領を代表して、あなた達が困ったら何があっても駆け付けたげるって約束する。だから二人も何かあったらここへ逃げてらっしゃいな。列強大国だろうと王宮の貴族だろうと、わたしが必ずあなた達をかばってみせるから」


俺は顔をあげてこの目力の強い侯爵と目をあわせた。

笑ってしゃべってるけど、冗談を言ってるのではないのがわかる真剣な目。

一介の辺境爵が断言するにはあまりに豪胆な話だけど、でもこの人は本気に違いなかった。


「その時はお世話になります」


そういえばフローラ会長とも似たようなことを言ったような気がするな。

笑っていても本気の熱さが芯にある。だからくだらない駆け引きなんて考えなくていい人たち。

真正面から言葉を受け止めればいい人たち。


「それとは別に。今回のお礼はあなた達の新婚旅行の時にちゃんとするから楽しみにしてて?」


ん?

んん?


キャサリンも赤い顔してハテナ?って首をかしげてる。


目を泳がせてるとキルリスと目がバチッとあった。

「お前たちの新婚旅行先はタペストリー領に決まった。結婚の儀をあげたら速やかにタペストリー侯爵を訪問するように」


めずらしく命令口調だな。

こんなこと命令される筋合いじゃねー気がするけど・・・前の俺ならカチンとくるかもだけど。


キャサリンの方を見ると、にっこり笑ってこっちを見てうんうん頷いてる。

好きに決めなよ、ボクはついていくって決めてるからねって。

アイコンタクトかテレパシーかわかんねーけどわかったよ。


「ああそうするよ。侯爵もその際はよろしくお願いします」


ペコリと二人で頭を下げた。


「待ってるわ。王都に戻ったらフローラにも声をかけてあげてね?」


「わかりました。それじゃまた来ます」


「待ってるわよ?」

大きく腕を広げて。

俺達ふたりはあわせてギュウと抱きしめられた。

大きな人だなあ。体じゃなくって気持ちが。

自分達の街を治める領主って。きっとこういう人であってほしい。


「じゃあ俺達は先に帰ってるからな?」

キルリスにも声をかけておく。

ずいぶん対応違くねえか?とブツブツ言ってるけど。

いいだろうパパだし。

キルリスは到着する部隊が落ち着くまでもう数日こちらで勤務だ。


俺達二人で見送ってくれる侯爵や隊員に手をふって門を出た。


すれ違いには援軍の部隊が列をなしてタペストリー領の衛門にはいっていく。

俺達に気付く兵士はいない。

王都からの援軍じゃないから、俺達の顔を知っている隊員がいないのだ。

キャサリンも王都では知られているけど、地方の王国軍は魔法師団に研究所があることすら知らなかったりする。


道のわきによけて城へ入っていく兵隊さんたち見送る。

一糸乱れずの隊列で無駄話をしてる兵士なんていない。

ザッザッザッ、と規則正しい足音だけが穏やかな日差しに似合わない。


「みんな緊張してるみたいだね」

「そうなの?こういうものだって思ってたけど」

「顔がこわばってるし。これから北と戦闘かもしれないって思うとどうしてもね」


もう戦闘になる目はないと思う。

北の軍隊には竜巻に巻き込まれてかなりの負傷者が出ている。


「敵を全滅させたわけじゃないからね。敵も傷が治ればまだ剣をとるだろうし。北の兵士たちは自分達が王国に負けたとは思ってないだろうから」


「俺があいつらを全滅させなかったから?」


キャサリンは少し困った顔をして。

俺の手をギュって握ってくれた。


「それはユーリの役割じゃなかったよ?大丈夫大丈夫、たとえ周りから文句言われたって妬まれたって恨まれたって。それでもやっぱりユーリは大丈夫なんだよ」


笑ってくれるキャサリンは、でもちょっぴりせつない笑顔。

そのくせ自信満々に断言してくれる。


「どうして?」


「ボクがそばにいるからさ!どうだい?ユーリには絶対に味方がいるんだから周りを気にしたってしょうがないんだから」


ドヤってるキャサリンの頭を今度は俺がなでた。

「そだね。俺にはキャサリンがいるんだもんな」


「そうそう。だからそんな難しい顔しなくて大丈夫だよ。今回の件もユーリは考えてできるだけのことをしたし役割は完全に果たしたんだから。胸をはっていいんだよ?」


笑って胸を張るキャサリンは、それでもボソリと一言を付け加えた。

「でもユーリの今後のことはちょっとお父さんとも相談しないとだね」


キャサリンも俺もお互い口には出さないけど。王国軍の中にも東のエージェントの影がちらついている。

捕らえたエージェントたちも最初から俺を疑っていた。アイツらとの会話が洩れないと思いたいけど、真っ先に疑われる立場ってのは確定している。


「もう知られている前提でやってくしかないのかなあ。俺達に手をだしたらひどい目にあうってのを分からせていくみたいな。東だろうと北や南だろうと王国内の貴族だろうと」



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