第122話 神の御使いからすればどうなんだよ
「なあ」
『あいかわらずですね。なあ、でワタシを呼び出すとは』
「わりー。それでなぁ?」
『もういいですよほんとに。それでなんですか?』
ナビゲーター先生には悪いけど。
なんだか頭の中がまとまってなくって、いろんな想いがあっちゃこっちゃ飛び回って漠然としてて。
「なんか俺ってどうなんの?」
『おや、最近は随分マシになってきたかと思えば。根っこは相変わらず迷いの多い子羊ですね?』
「神様ってなんなんだよ。俺ってなれるの?なんなきゃいけないの?」
いろいろな想いをなんとかまとめて、最初に知らなきゃいけないのはそんなことだった。
だからなんだって気もするし、大切な気もするし。
『あなたが純然たる神として神界からこの世界を見守る道はありますよ。あのシルバー・フォックスがたどろうとしている道です。それとは別に『神のような力を持てるか』ということであれば、あなたの修行次第では初心者神様の足元ギリギリ指一本届くところまではいける可能性がありますよ?それにどれほど意味があるかは知りませんけど』
うん、なんとなくそうだろうな。
でも何だかピッタリ俺の欲しい答えにハマってないような。
「神様って世界の人民の幸福とか、何かから救うとか、お慈悲とか、そういうことするんだろ?言葉にうまくなんねーけど」
『あっはっは。ホントにそう思っていますか?』
「笑ったな珍しい。でも神様ってみんなそうだと思ってんじゃねーの?」
他人の気持ちなんてわかんねえけど。
でもなんとなく。みんなそう思ってるんじゃないのか?
『随分と人間の思考に毒されてますね?あなたは人間なのでそれでいいのですけども。それでは私がそんなことをするとでも?』
「全っ然思わねーな。おまえだったら勝手にやってろ俺は知らんから、とかそういう感じだと思う」
『だいぶワタシのことがわかってきてますね。ところで私は神の意志をあたなに伝えてきましたよね?』
「ああ、そりゃまあ・・・ん?」
『そうですよ神はこの世界を見守っています。この世界に危機が訪れようとするならそれを防ごうとするかもしれません。ですが』
「人間同士がやってる話はアレだろ?勝手にやってください、だろ?」
『その通り。人間のわかる規模で話を例えるならば、池を管理しているのが神で人間はその中に住まう微生物の大軍ようなものですよ。食物連鎖で小魚に食べられるのは自然の流れ。それでもいきなり微生物が全滅して生態系が狂ってしまうと食物連鎖が崩れるので気にもするでしょう。だからと微生物の一匹一匹、いや数万でも数十万だろうといなくなっても構っていられません』
話が大きくなった。てか人間が小さくなった。
微生物?ミジンコとか?小指のさきほどの小魚たちに食べられるような小さい存在。
でも命っていうなら一緒なのか。
「なんだかそう聞くと随分冷てえじゃねーか。だったら祈るのは無駄なのか?」
「今の人間たちが行っている祈り、自分の願望を神に願うことに意味はないでしょうね。エルフやドワーフ、そして妖精たちの祈りは神への感謝ですので理解できます。先ほどの話なら、自分達が住まうこの池を管理していることへ感謝されれば悪い気はしないでしょう。その世界に生きる生命からの感謝であれば理解可能です」
全ては神様の手のひらの内。
それを当たり前とか自分達が積み上げてきたとか考えるか、自分達の住まう手のひらに感謝するか?
「なんだか人間が生きてるのも、あくせくして揉めたり悲しんだり喜んだりってのがバカらしい話だな」
『それは神の視点からみたらの話ですよ。それぞれの個体には感情があり魂があり命がありますから。それぞれ特性に従って周囲と様々な形で関わりながら必死に生きていくでしょう。その場所を作って見守っているのが、あなたたちが呼んでいる神です。その中で必死に生きる存在は神がこの世界を作りたもうた意味でもあります』
ごちゃごちゃがわかんなくなってきた。
1つ1つを気にもしないのに、それが世界の意味?
「どうやらわかんなくなってきたぞ。ところで俺は神様になんなくても神様の力を持てるのか?なんかへんなこと言ってる気もするのはスマンけど」
『さてどう説明すれば正しいでしょうか。普通の人間からすればあなたはすでに人間を超えた存在の魔法を使っていますから、それを神の力という人間もいるでしょう』
「それはそうなんだけどな。なんかさっきの、初心者の神様の足元とかってヤツは?」
『単純なレベルの話です。人間はレベル99が限界だと思っていますが稀にあなたのような存在が出てくる。そしてあなた達は、突き詰めていけばレベル999で行き詰まります。神域に住む神と呼ばれる存在にレベル換算で1000を下る神はいません。人間でレベル1にも満たないくせに魔法使いだと名乗る者がいないように』
わかりやすい説明できるじゃないかよ。
そういうふうに言ってもらえれば話がはやいんだ。
「なら俺もギンさんもロボだって一番最低線の神さんの力にすら全然手も届かないヤツラってことか?」
『神の目線からすればそうなります。そして人間で考えるならレベル1になったからといって魔法使いというわけではないでしょう?』
「ヒヨッコにもなってない。魔法が使えるようになるかもしれない人ってだけだ」
『レベル1000とはそういう存在ですね。ですので何が神の力と問われれば今のあなたには説明が難しい。本当は違いますが、わかりやすく言うならレベル1000が一番最低の超初心者神の力のレベルです』
今ならわかるよ?
わかってないヤツに説明するには、相手がわかることに話を落としこんで説明するしかないし。
でもピッタリ同じ内容じゃないから、イメージ的にはだいたいこうだ、って説明するしかないのも。
だけどなあ。
「本当は違うんなら、それ違うんじゃね?」
『闇魔術は基本元素50を超えてから、と同じようなものです。でもそれを説明するには、闇魔法をわかっている今のあなたになら説明できますが、闇魔法のことがわからない人間にはムリです。わかりやすく線を引いただけですよ』
「つまり神様の領域についてわかってない俺に、本質は違うけどわかりやすく見える数字を提示してみせたっていうことだろ?」
このこと自体はわからなくても。
わからないことの説明を受けるのは随分となれたからな。
コイツの言いたいこともなんとなくはわかる。
『おやおやおや??随分高等な口を利けるようになりましたか?やはりナビゲーションがいいとそうなりまね』
「言ってろアホ。正直聞いたことはかなりわかんねーけどこれから考えていくわ。人生のどこかでわかるんだろ、きっと」
『・・・本当に賢いことを言うようになりましたね。そうですよ、自分で生きて回答を見つけていけばいいのです』




