第12話 力の顕現
『この固有スキルは「起動すればいつでも人生で全盛期の能力を発揮できる」力です』
時間もないしで早速ナビゲーターが新しいスキルの説明をしてくれているけども。
起動、人生、全盛期、能力、発揮。
1つ1つの言葉の意味はわかるけど、ナニ言ってんのか全然わからない。
こんな説明ってあるんだな、とむしろ感心させられた。
「もっとわかりやすく言えないもんかね?」
くっくっく。
どうだ、ナビゲーターにイヤミを言ってやった。
何ならため息もつけてやればよかった。
『前提としてあなたは転生ボーナスですべての魔法属性、肉体能力、武術や剣術等あらゆる能力の才能を神から与えられています』
イヤミはスルーしやがる。けど時間もない。
「で、それが全盛期・・・ナニ?」
「この固有スキルはあなたがそれぞれの才能を伸ばした先にある到達点、つまりあなたの人生での全盛期の力を一時的に引き出すことができる力です。当たり前ですが全盛期の力は生き方次第で変わります」
さっぱりわからんぞ。
だったら俺がわかるように聞くしかないってことだ。
「例えば今回の魔力操作の訓練はどういうことだ?」
『あなたに魔力操作で人間の限界レベル99を超させるためです』
「俺は初歩の魔力操作しかできるようになっていないぞ」
『今はそうであっても将来的に魔力操作レベル99を超えればいいだけです。そうすれば「力の顕現」で人間を超えるレベル、宝玉に狙った情報を流せる<魔力操作>を引き出すことができます。転生ボーナスによる適性であなたは人間の限界突破が可能です』
初耳なんだけど。
いやいや、そう言われればこれまでの5年に言われた中でそういうのがあったような気はするけど。
『さらに言えば私が最も正しく効率的な指導を行っています。あなたが本気で取り組みさえすれば必ず人間レベル程度は越えさせます』
超えることができる、じゃないんだな。まあいい。
いい師につくとレベルは必ずあがると言いたいらしい。
そして自分がその最高の師だと主張しているぞコイツは。
『通常の人間種は魔力も魔法も時間をかけて感覚で覚えるしかありません。アナタの場合はワタシがイメージを直接魂に送り込めますので、本来一番時間がかかる「感覚をつかむ」部分をパスしています』
いかにすごい指導なのか説明が始まっちゃったよ。あーあ。
そんな感情はすぐにナビゲーターには伝わるらしい。ムスリと怪しい気配がかえってくる。
ため息が出る前に謝ってしまう方がいい。わかった俺が悪かったってば。
他のヤツラからしたら反則技なんだな、わかるったって。
『さらにこの時代の人間達では大まかにしか理解できていない魔法の理論もバ・・・思考の足りないあなたにわかりやすく教えています』
「おい、おまえ今俺のことバ〇って・・・いや、いい」
仕返しされた気がするけど、反発すると話がすすまなくてイライラするからここもスルーだ。
この説明は意地でも続くらしい。
『人によっては死ぬまでイメージが理解できずに低レベルな方もいます。あなたが1か月で到達したレベルは魔法の才がある人間で1年かかります。普通の人間なら3年かかかります。魔法に縁のない人間は死ぬまで魔力操作自体が理解できません』
どうしても自分のスゴさを俺に認めさせたいのか?
上に立ちたいのか?
知らない相手に知ったかぶりでマウントか?
『相手を認めることは自分を認めさせるのに役立ちますよ?今はわからないでしょうけど』
さらに上から目線でアドバイスいらねえよ。
今わからないんだったら言うなって。
「いいから先」
『え?ここまで説明してもわからないんですか?』
「え?今のでわかるヤツいんの?」
「『・・・・・・』」
「た、ため息はいらねーから、まず実際どうやるか教えろよ。やってみりゃわかるかもしんねーだろ」
馬車が教会の車止めに止まり、執事長のセバスと二人で建物に入る。
シスターがわざわざ案内してくれているのは貴族だからか?
「今日は侯爵様も侯爵夫人様もいらっしゃれずに残念でしたね」
セバスが声をかけてくれるけど彼が悪いわけじゃない。
いつもいつもこんな時。
申し訳なさそうな顔で俺のことを気にかけてくれてるのはセバスだけだ。
「仕方ないさ。両親が忙しいのは任されている責任が重いからだよね」
むしろちょうどいい状況だけども。口に出すわけにはいかない。
俺はこれから面倒な魔力操作をする必要があるのだから両親なんかいてもらっちゃ困る。
「どうぞ、こちらの部屋です」
シスターが扉を開くとそこは石造りの小さな部屋だった。
正面には壁面に女神像が掘られている。ひとりで邪魔されずに神に祈りを捧げるような小さな部屋。
台座の上で大きな水晶が輝いている。
「お一人でお入りください。両手を水晶につけて魔力を流すと水晶の色が変わりますから終わったら声をかけてくださいね」
扉がゆっくり閉じられる。
俺はナビゲータに教わったとおりに魔力を意識しながら言霊を口に出した。
<力の顕現>
<魔力操作>
教わった通りにスキルが発動。
頭の中で固いスイッチを無理やりバチンと入れられた感じがした。
気持ちにちょっと"痛い"感じがして、その後すぐに強いめまいが始まる
「あ?あ?あああ!?」
頭の中に激しい勢いで術式と魔法陣が渦巻くように描かれていく。
真っ白な紙に何千回何万回も文字を重ねて書くように。
隙間なく白が黒に埋め尽くされて、さらにその上に何度も何度も書かれて、あっという間に頭の中は漆黒の闇で厚く埋め尽された。
黒は深い闇となってそれでも書き続けられる未知の知識。
肌に、脳みそに、直接ペンでガリガリと書かれるような激しい痛みが貫いていく。
「があ、あ、あ、あ」
痛い痛い痛い!助けてくれ!!
その叫びは言葉にならずに、言葉にならないうめき声が出ただけだった。
その一瞬の、永遠に続くかと思った激しさが通りすぎたあと。
並み一つない澄み渡った漆黒の湖が広大に広がっているイメージが頭に浮かんだ。
もう今の俺にはわかる。
風と土のレベル1で魔力操作、魔力を生み出す根源から魔力量と流れる色の量と強さを調整して他の元素や称号は流れている魔力から一瞬だけ締め出す。
ペトリと両手を水晶につけて魔力を流すと水晶はすぐに銀色に輝いた。
今の俺にはこの宝玉が魔力を吸い取り解析している術式まで見える。
もういいんだろ。
『スキル解除』
「ふう」
あれだけ頭の中を埋め尽くした漆黒が一瞬で消えた。
さっきまで魔法のすべてがわかった気になっていたのに、今となっては何もわからない。
自分が何をしたのかも理解できない。
いきなり膨大な何かを頭に詰め込まれて、それを一気にひっこ抜かれた。
気持ち悪くて吐きそうだ。
景色がふらふら揺れている。
「お、おわったよ」
必死に外へ声をかけると、力が抜けてしりもちつをつく。
セバスの慌てた声が聞こえて扉が開く。
「ぼ、ぼっちゃん!どうされたのですか!?」
そこからのことはあまり憶えていない。
かすれる記憶に残っているのは。
セバスに抱え運ばれて馬車で侯爵邸まで戻ったこと。
父親も母親も当然屋敷にはいなくて、またセバスに抱えられてベットに運ばれてメイドさん達に面倒をみてもらったこと。
そのうち俺は寝てしまったようだった。




